安眠のためにヒロインと取引を
イルルさんから解放され。上の空のまま人の少ない食堂で夕食を食べ。自室までモヤモヤしながら歩いていた。同性にキスをされただけでこんなにドキドキするなんて。そんなモヤモヤがずっと心の中に残っていた。扉の前まで来てドアノブを回すと、扉が勝手に開いた。自動ドアなわけが無い。キスされたことに夢中になってすっかり忘れていた。ヒロインがいることを。
「アンナさん、どこに行っていらしたの。食堂ではお見かけしなかったけど?」
「えっと、お花摘みにいってて遅れたんです」
当たり障りない口実で誤魔化したけど。ここからどうすればいいんだろう。時間的にそろそろ就寝時間。だけどメリジェーン様が私を素直に寝かせてくれるとは思えない。なぜか私にグイグイ迫ってくるから。
「そうでしたの。せっかく同室なのですから、良ければ仲を深めませんこと?」
「ええと、出来れば遠慮したいんですけど。私メリジェーン様のことはっきり言って嫌いなんです」
「ええ、オリエンテーションの前にもそのようなことを仰ってましたね。でも私はアンナさんと仲良くしたいんですの。ですから一つ提案がありますの」
メリジェーン様の提案とは。校内で私に迫らない代わりに、寮の部屋の中では仲良くしましょうというものだった。
提案というか、逃げ場のない脅迫のような気がする。この提案に乗らなきゃ、私は寮でも構内でもメリジェーン様に付きまとわれることになる。精神衛生上宜しくない。それならまだ部屋の中だけの方がいい。それに寮の部屋に寝るまで近寄らなければ良いだけの話だから。
「分かりました。その代わりちゃんと校内では不必要に話しかけないでください」
「ええ、分かりましたわ。それでは今日は一緒に寝ましょう?」
「え?」
「アンナさんが部屋に戻ってくるまでに、ベットは二つ並べておいたんですの」
貴族も入る寮だから、生活空間と寝室が分けられている。そして、寝室の方を覗くと本当にベットが二つ並べられていた。
「別々のベットで隣合って寝るだけですから、構いませんよね?」
同じベットで一緒に寝るよりはマシかもしれないけど。ここはちゃんと予防線を作らなきゃ。
「私のベッドに入ってこないでくださいね」
「ええ、アンナさんのベットには入りませんわ」
キラキラした目で私を見るメリジェーン様を信じていいものか。
「私を疑っておりますの?」
「ええ、まあ」
だってメリジェーン様が怖いんだもん。距離をグイグイ詰めてくるし、やたらと私の体を触ろうとするし。手つきがいやらしいというか。女性同士でキャッキャウフフしてるならいいじゃんと、世の男達から羨ましがられるだろうけど。触られてる私からしたら、なんか気持ちが悪い。ねちっこい手つきというか、なんか嫌になる。
「今日は何もしませんわ」
「今日以降もずっとしないでください」
消灯時間になり、私は自分のベットへ。メリジェーン様はメリジェーン様のベットに横になった。すごく眠たくなってきたし、メリジェーン様も私のベットには入ってこないと思うけど。心配で仕方がない。メリジェーン様の気配を警戒しながら、眠気に勝てなかった私はそのまま寝たのでした。
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