第26話 最終話「ハイビスカス」

桜と海


真実を知った後ー...

家族としての親愛の情で接する拓也と愛花

愛花は沖縄の父に電話をかける。


◇◇◇

沖縄の自宅。

数年前より家は貯蓄が出来た。

『愛花、久しぶりだな。』

父の良勝がでる。

スーツを着こんてる良勝

『兄さんや空は元気?』

『.....』

父が無言の後。

『ああ、2人は元気だ。

どうした?愛花、何かあったのか』

『実は...』

◇◇◇


事情を聞いた後、良勝が答える。

『母さんの本当の母のことは聞いたことない。優が赤ちゃんの時、拓也くんと綾さんが一緒に尋ねたことがあるが。』

『そうだったんだ。』

愛花は瑠璃と綾が交流があったことに笑みを浮かべる。

『あっ、ただ、愛花の名前つける時、どうしても花の字を入れたいと譲らなかった。瑠璃の母の名は花蓮だよな?』

『!』


もしかしたら、その事が花蓮さんの心を解かすきっかけになるかも。

『ありがとう。父さん』

『愛花、本当は俺も助けになりたいが。』

父の言葉に愛花は力強く答える。

『大丈夫、私は東京でいろんな大事なこと学んだから。また、連絡するね。』

電話を斬る。

制服に着替えてセミロングの髪を整える。

鞄を持って、「行ってきます」と挨拶して、拓也さんが「行ってらっしゃい」と笑顔で返す。

◇◇◇


いつものように授業を受けて1日が終わった放課後、部活にいく準備をしてる愛花


板野由利と相沢健が声をかける。

「愛花、顔つきかわったな。」

健が笑みを向ける。

「本当にね。何があったの?」

由利も尋ねる。

「やるべきことが出来たからね。」

微笑む愛花に頬が赤くなる健

その健を見て由利は視線をさげる。

「じゃあ、部活行かないと。明日ね。健、由利ちゃん」


愛花の背を見送る健。

その姿を見て由利は元気よく声をかける。

「私たちも部活行きましょう。」

「ああ」


◇◇◇

美術室

デッサンの準備をしている最中、後輩の美術部員が愛花に声をかける。

「愛花先輩、桜井先輩が部活やめると部長は愛花先輩に任せるって」

眉を下げて伝えてきた。

「え?」 

周囲がざわつく。

◇◇◇


桜井は校内のカフェテラスにいた。

正面から勢いよく、愛花が走ってきた

はぁはぁと息切れをする愛花

桜井は愛花を気遣う

「大丈夫か?愛花」

「やめるってどういうこと?!」

「もう3年だし、引退が少し早まるだけだろ」

話をはぐらかす桜井

愛花はそれを見て尋ねる。

「おばあ様に何か言われた?」

「!!」

桜井も察した。

愛花が祖母のことを知ってること、自分たちに血の繋がりがあること。

◇◇◇


「ああ、文化祭でお前と勝負して勝てだとよ。」

「!」

「おばあ様の狙いはお前を桜井家の養女にして、海堂家から奪うことだ。おばあ様はおじい様が亡くなってから変わってしまった。悪い。」

申し訳なさそうな桜井に、愛花が首を振る。

「桜井君が謝ることない。」


眉墨を下げる愛花に桜井は淡々と告げる。

「まるで、ロミオとジュリエットだな。

愛花、僕は君が好きだ。」

その言葉に顔が真っ赤に染まる。

「ふぇ」

「僕は好きな奴とは闘えないさ。」

愛花は考える。

私は拓也さんが初恋なんだろうけど、桜井君は同年齢で絵の仲間。

いつでも隣にいてくれて助けてくれた。

部活を辞めると聞いた時、胸がざわついた。

そっか、私はとっくに....

瞼を閉じて彼からもらったハイビスカスのネックレスを思い浮かべる。

「私も桜井君が好き」

愛花の告白に頬が染まる桜井。

愛花は桜井の手を両手で包む。

『一緒に乗り越えよう。』

◇◇◇


月日は文化祭が近づく10月下旬

校内新聞では美術部の部長

桜井慎吾と副部長の長峰愛花が、絵画の勝負をするという話題で持ちきりだ。

「愛花いいの?桜井さんと絵で闘うなんて、あなた達付き合ってるんでしょ?」

由利が心配して尋ねる。

「そうだぞ、愛花。」

健も同調した。

「いいの、桜井君とは一緒に乗り越える約束をしたから。」

優しく微笑む。

その表情を見て健はかなわないなと苦笑する。

「じゃあ、部活があるから。」


愛花を見送る健の肩をポンと叩き、由利は続ける。

「部活行こう?美術部に負けないくらいバスケ部も盛り上がろう」

彼女の笑顔を見て、健はほっと和んで「そうだな」と答える。


◇◇◇

慌ただしく日にちが過ぎて、いよいよ文化祭前日

「愛花ちゃん、明日は照子と文化祭見に行くね。」

拓也さんは里山先生と良い関係を結んでいた。

「はい」

「父さんたちも見学に行くってさ。」

ニコッとウィンクをする拓也

(いよいよ明日だ。)


◇◇◇

文化祭当日

美術部部室

2人しかいない部室

「海堂家の皆は来てくれるって話してた。」

「桜井家は父さんと母さんは来てくれる。けど、おばあ様はわからない。」


もし愛花が負けたら桜井家の養女になる。

桜井家の養女になるということは、拓也さんや海堂家と繋がりを持つのは難しくなる、それに桜井君と恋人として、付き合うことも難しくなる。


今になって手が震える。

そんな愛花を桜井は優しく抱き締める。

「大丈夫だ。僕らの絵の力を信じよう。」

コクリと頷き、二人は唇を重ねる。


◇◇◇

文化祭美術部の絵が飾られてる。

投票箱が置かれる。

桜井は男女の学生が、美術部で絵を描いてる姿を描いた。

「あの絵、あなたたちみたいね。」

美大に通ってる高木愛美が話かける。

「高木先輩」

桜井は照れた様子だ。

「愛花ちゃんは何を描いたの?」


「私が描いたのは絵の原点ですね。」


沖縄に軽やかに咲くハイビスカス。

笑いあう3人。


◇◇◇

文化祭終了ー...

愛花と桜井の絵は同率だった。

「それじゃ、」

「ああ」

美術部に来ていた拓也と照子。

「勝負は無効でいいんじゃないかしら?」

「そうだね。」


◇◇◇

美術部のドアが開く。

「慎吾君、愛花ちゃんと同率だったのね。」

花蓮が高等部の美術部に現れた。

「おばあ様!?」

花蓮の後ろには、桜井の両親が連れ添う。

慎吾と愛花は驚く。

「好きな子が相手だから、手を抜いたのかしら。それとも、血の繋がりがあるから?」

スッと目を細める。


拓也は花蓮を見て穏やかに声をかける。

「桜井花蓮さん、はじめまして。海堂拓也です。」

握手の意味で手を差し出すも、「私はあなたの手を取るつもりはないのです。」


その言葉を聞いて愛花は、はじめて祖母の花蓮に話しかける。

「私の愛花の字にはおばあ様と同じ、花の字が入ってます。父が言ってました。母は花の字はどうしてもいれたいと、繋がりを持っていたかったのではないでしょうか!」

愛花は強く訴えかける。

隣の慎吾は愛花の背をそっと支える。

(心強い。いつの間にか彼の存在は私の中で大きくなっていた。)


花蓮はお母さんと呼ぶ幼い頃の瑠璃を思い出して感情が揺さぶられる。


そこに龍之助と綾が現れた。

「綾、龍之..助さ」

驚く花蓮。

「すまなかった。俺が綾への想いを隠しながら生活するのに苦しくなった。そんな時、拓也の母の蘭に出逢った。」


◇◇◇

龍之助と蘭は2人はバーで知り合う。

彼女は俺と同じだった。

昔、家の為に好きな男の親友と結婚した。

その男は自分にとても良くしてくれたが、心が辛くなったから家を出た。

しかし、彼女は病におかされていた。

実家からは絶縁。

頼る相手もいなかった。

俺は彼女に同情して関係を持った。

「父さん」

拓也は龍之助が蘭との出逢いを語ったことに驚く。


龍之助は続ける。

「だが、後悔はない。蘭と関係を結んだことで拓也の父となった。もちろん、花蓮、君ともだ。君と出逢ったことで綾と交流を持てて、瑠璃の父となり、」

龍之助は愛しい眼差しで愛花に目をやる。

「愛花の祖父となれた。」


「おじい様。」

その言葉に涙ぐむ愛花。

「花蓮、俺と出逢ってくれてありがとう。そして、今までのことすまなかった。」

龍之助の謝罪に首をふる花蓮。

「私が向き合うのが怖かっただけ、ごめんなさい。ごめんなさい。龍之助さん」涙を流す花蓮。

「私たちはいくつになっても友達よ。花蓮。」

微笑む綾。

花蓮は涙を流しながら、綾と抱き合う。

二人を龍之助は穏やかに見つめる。


そんな光景を拓也、照子、桜井の両親が見守り、慎吾と愛花は隣で自然と手を触れあっていた。


◇◇◇

数ヶ月後の全日本美術コンクール

愛花は祖母と母と孫の絵を描いて、入賞を果たす。

慎吾に連れられて花蓮が見に来たのだ。

「おめでとう」

心からの祝福をもらって私は涙ぐむ。

「はい」



◇◇◇

数年後ー


相沢健と板野由利はプロバスケット選手となり活躍していた。

有名画家となった長峰愛花は、同じく画家である桜井慎吾との婚約を発表した。

実家に帰郷すると、父と兄弟が出迎えてくれた。

「お帰り」

父の良勝は沖縄に美術館を建築した。

絵画だけでなく、写真も展覧出来るように設計したのである。

「おかえり、愛花」

兄の優は教師をしており、バスケ部顧問だ。

「姉さん、おかえり」

弟の空はプロの写真家を目指している。

「皆、ただいま。」


そう言った愛花は12歳で沖縄を離れてから、実に12年ぶりの帰郷となった。

髪はロングに伸ばして、白いワンピースに麦わら帽子をつけている。

胸元には学生時代に夫となる慎吾にもらったハイビスカスのネックレスを身に付けている。


そんな姿を沖縄の土地に咲くハイビスカスが見守っていた。


(おしまい)

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ハイビスカス Rie🌸 @gintae

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