第25話 照らしてくれる人

瑠璃が海堂家を去ってから、6年の月日が流れていた。

春、桜の季節。

中学1年生になった。

海堂拓也は里山照子と再会する

美術部に入部した2人

「絵に心は必要ないんだよ。」

「ハッ、何を言ってるの?拓也」

照子は幼い時の拓也との変わりように、冷や汗をたらす。

(昔はあんなに楽しそうに絵を描いていたのに、どうして、今はそんな悲しそうな表情で書いてるの?)


私は拓也が委員会の仕事で、帰宅が遅くなる時、綾さんに話を聞きたくて、海堂家に立ち寄る。

(相変わらず広い家、どこの王族よというくらい。)

インターホンを押そうとした時、

「照子ちゃん?」


髪をボブにまとめて、黒いスーツにパンプスを履いていて、昔と変わらず若々しさがあった。

「綾さん」


◇◇◇

ミスド店内。

綾さんはコーヒーとチョコレートのドーナツ。

私はエンゼルクリームと紅茶を頼んだ。

「そう拓也さんが....」

瞳を揺らす綾

「瑠璃さんが家を出たのは知ってます。でも、それだけでこんなに変わってしまうものですか?」

照子の問いに、綾は詳しい経緯を説明した。

「照子ちゃん、拓也さんのこと好き?」

綾の問いに照子は頬を染める。

「ふぇ?」 

綾は口に手元を添えて微笑む。


「このことは拓也さんには内緒にしてくれる?いつか、話しても大丈夫と思ったら話してあげて。」


私は綾さんから真実を聞いた。


翌日、拓也に里山は絵の勝負を挑む。

奇しくも愛花が桜井に挑んだのと同じ方法で。


夕焼けの見える屋上で照子と拓也は、二人で語り合う。

結果は僅差だが照子の勝ち。

「君のおかけで絵に必要な心を思い出せたよ。ありがとう、照、」

「ストップ」

拓也が照子の名前を言い終わる前に制止した。

「私の名前を呼ぶのは、照子という名前が似合う女性になってからにして。」

目を丸くして、ぷっと吹き出す拓也

「わかった。里山」


その時の拓也の笑顔は純粋で少年のものだった。


◇◇◇

海堂家のダイニング

「里山家の会社が倒産の危機にあって、海堂家が融資をしているのは本当よ。」

綾のあとに龍之助が続ける。


「見合いを進めたのは、これ以上見ていられなかった。君に瑠璃の面影を重ねている拓也にも。拓也に恋愛感情を芽生えてる君も。」

以前、買い物をしてる君らを見かけた。

拓也は君に瑠璃を見ていた。

君も親愛に以上の感情で拓也を見つめていた。

龍之助の言葉に、綾はそっと告げる。

「恋は人を狂わせる。」


私はその言葉に心がストンと落ちる。

今までの拓也さんの思い出が胸に過る。


鼻の奥がツンとして視界が滲む。

私の拓也さんの気持ちは初恋だった。

でも、この気持ちは涙と共に洗い流そう。

きっと、拓也さんも心の底では里山先生のことを思ってる。

私が泣き止むまで龍之助さんも綾さんも、傍にいてくれた。

◇◇◇


「落ちついたかね。」

龍之助が愛花にハンカチを手渡す。

「ありがとうございます。」

その光景に笑みを浮かべる綾

「お祖父様をやってますね。あなた」

綾の一言に龍之助は頬を染める。


「食事にしましょう。今日はシェフに沖縄料理を頼んだの。

瑠璃や愛花ちゃんたちが過ごした沖縄の料理を食べたくて」

シェフがテーブルにゴーヤチャンプルーなどを運んでくる。

夕食は3人で様々な話をしながら、沖縄料理に舌鼓をした。


◇◇◇

翌日ー...

リビングのソファーに目を覚ます照子

絵の仕上げが出来上がる。

照子は目玉焼きにウィンナーを焼き、朝食を2つ分作る。

「おはよう」

拓也が自分の部屋から出てくる。

「おはよう、朝食作ったから。」

照子は天然パーマの髪をお団子に一つにまとめている。

「ありがとう」


◇◇◇

朝食を二人ですませて洗い物をあと。

帰宅の

「絵出来たから」

照子が一枚の絵を拓也に手渡した。

それは男女の学生が夕日を見ている。

女生徒が男生徒の背に、手を添えて1人じゃないよと伝えてる。

そう言ってる絵だ。


里山の想いを感じて、拓也の瞳がうるうると揺れる。

「これは僕からだ。」


教室が書かれている。天然パーマの女性教師が中心になり、生徒たちが笑顔で聞いている。

その後ろには、優しい表情に見つめている男性。

照子は絵を持つ手が震える。


「拓也」

「君はいつも僕を照らしてくれる。たまに強引な時があるけど、僕にはそれがちょうどいいのかも。ありがとう、照子」


ぽろぽろと涙を溢す照子は、こらえきれずに拓也の胸に飛び付いた。

拓也は照子を優しく抱き締めた。



◇◇◇

海堂家の玄関

「お世話になりました。拓也さんの所に帰ります。」

ペコリと頭を下げる。

「いつでもいらっしゃい」

綾が笑顔で話した。

「花蓮さんのことも向き合ってみます。」

父さんに電話したり、桜井君のお祖母様でもあるのだから、部活の時に聞いてみよう。


「愛花君、美術の仕事をしたいなら、連絡をしなさい。紹介しよう。」

龍之助の言葉に笑顔を見せる。


◇◇◇

「照子、僕はまだ今の暮らしを続けたい。保護者として彼女の道を見届けたいんだ。」

そう言った彼の目は強かった。

迷いがなかった。

「わかったわ。」

そう言った照子もはにかむように笑って帰っていった。



◇◇◇


リビングでソファーに座る拓也

僕は照子のことは大切な存在だと思ってる。

幼い時から知ってるし、僕が暗闇にいた時、照らしてくれた人だから。


愛花ちゃんを引き取ったのは、姉さんの面影を見たからだ。

僕にとって姉さんは特別だったから。

沖縄で結婚して家族が出来たと知った時は

、置いていかれた感じがした。

だけど、実際に沖縄に行って幸せな家族の風景を絵に描いたら、その気持ちは消えていった。

そして彼女がくれたピンクの貝殻は、僕に家族の愛しさを教えてくれた宝物なんだ。

◇◇◇


ガチャと玄関が拓く音がする。

「ただいま。帰りました。」

愛花の声が聞こえる。

「おかえり、愛花ちゃん」

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