決して交わることのない二人の旅路

 この作品では、クリスという青年、そしてショウという青年が登場する。この二人の顔は瓜二つ。しかし双子ではない。そんな二人は旅に出かけていた。
 クリスは、とある”目的”を達成するために。
 ショウは、クリスを守り、その”目的”を達成させないために。

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 この物語は、「ドール」と呼ばれるものが物語の中心となっている。
 その説明は「プロローグ」内に書いてあるため、出来れば自身の目で読んでほしい。が、ここでも軽くまとめておこう。
 グラシアという小国で作られる人形。親愛なる友人(ディー・フレディア)。題名にもなっているそれだ。
 それは子と同じように成長し、子と深い絆を結ぶ。そしてそれは、ある重要な役割を背負っている。

 まずこの世界観から面白い。とても夢が広がる、ワクワクする世界観だ。グラシアという国が、いかに子を大事にしているかもわかる。人形が成長する!?というのにも目を見張った。


 さてご察しの通り、クリスとショウは、一方は”子”、そしてもう一方は”ドール”である。

 まずクリス。人間の青年。とあることがきっかけに感情の起伏が乏しい少年である。
 そしてショウ。ドールの青年。クリスに比べるととても感情豊かで、物腰の柔らかい青年。何よりクリスのことをとても大事にしている青年。

 この二人の関係性がとても良かった。クリスとショウは、とても互いを大事に思いやっている。それが行動、言葉の節々からとてもよく伝わってくる。
 しかし二人は対立している。それは、クリスの”目的”を達成するか否か──。互いを思うからこそ対立する二人。「同じ」はずなのに、いつまでも混じることなく、すれ違う二人……。この関係性がとても良い。私が何を言っているか、わけが分からない人は本編を読もう。

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 この作品では戦闘シーンが三度展開されるが、そのどれも”カッコいい”。まさに推しメンにぴったり。
 息の合ったクリスとショウ。互いの身を案じつつも、互いの不足を補い合って。この二人は最強。読んでいてそんな風に感じる。
 特に最後の戦闘では、相方に自分の命すら預ける──。二人の間に成り立つ信頼が揺るぎないもので、とても素敵だった。最後まで読んだ人とその良さを語りたいくらいだ。

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 また、この作品は、二人以外にも登場人物がいて、その登場人物たちもまた魅力的なものばかりだ。
 押しに弱いが、いざという時にはビシッと決めるセージ。そのセージに心を寄せる、気が強い少女のアクール。アクールのドールで毒使いのパク。無邪気な幼女、ディエラ。そのドールの老紳士、ヒース。
 作中では字数の関係か、この者たちにあまりスポットが当てられなかったが、彼らも過去に何かがあったらしい……と察せられるため、続きを期待するばかりだ。

 更に、彼らの名前は全て宝石にまつわるものだと聞いている。例えば、クリスはクリスタル、ショウは水晶……子とドールで名前に関連がある、というのも、作者のこだわりが感じられる。髪色や瞳の色にもそれが表れていて、作者はとても遊び心のある人だ。


 最後に、この話の最後の最後、「終章 そして彼らは真逆を見据える」では、一件落着、と安堵したのも束の間、一気に今後も興味を引かれる一言が見事だった。ここで出すか、と一本取られたような心象だ。

 これからもクリスとショウ、二人は隣で共に歩きつつも、決して交わることは無いのだろう。「そして彼らは真逆を見据える」。二人にぴったりな言葉だ。
 一体彼らの旅は、最後にどんな結末に辿り着くのか。続編を期待し、〆させていただく。