終章 そして彼らは真逆を見据える

エピローグ

***


「わぁぁぁ無事で良かった、ほんとに皆……!!」

「ふぇぇぇぇぇんセージ様、アクール怖かったです~~~~!」

 ドール・ベースの中は元々静かだからだろうか。二人が騒いでいるだけで大分賑やかだ。セージはここの責任者だというのに既に泣きそうだし、アクールは彼の顔を見るなり彼に飛びついていった。

 地上近くでアクールを姫抱きし、庇いながら着地したパクの顔には、流石に疲労感が滲んでいる。大きな怪我は無いようだ。

 そして。

「ほんっと……心臓止まるかと思ったよ」

「私もよ!!」

「あの時、あれが最善だった」

 クリスはショウに軽く呆れられていた。それに乗っかるアクール。二人の言葉を受けても、当人に悪びれる様子は無い。

 結果、こうして無事なのだし。

 ショウのおかげでクリスに怪我は無かった。青マントに切られた腕の血だけが、どくどく流れているけれど。

「助かった。信じてたよ、ショウ。ありがとう」

 心なしか、クリスの纏う空気が柔らかさを帯びる。ショウはそっと溜息をつく。まだ呆れた雰囲気を残したまま、それでも心から安心した顔で微笑む。

「うん。無事で良かった」

 その微笑みを受けて、クリスも僅かに。

 ほんの僅かに、笑ったのを。

 他の三人も見逃さなかった。パク以外の二人に至っては、驚きの表情を惜しみなく浮かべている。

 クリスは続いて、アクールを見た。突然視線を向けられた彼女が肩を震わせる。

「アクール。……君にとって俺は相容れないのかもしれないけれど」

「あーはいはい。もういいわ」

 少女は投げやりだった。片手を振る動作には嫌悪感を交えて。けれど。

「アンタのことは、ずっと馬鹿だと思っておくわよ、クリス」

 それは、一種の認証だった。

 やり取りに一番嬉しそうな顔をしたのはセージで、頬を緩めている。

 そんなセージの元まで歩み寄る。そして、正面から見上げた。ドール・ベースの責任者を。その顔には、いつもの無表情が塗られていて。

「セージさん。俺とショウを、ここに入れてください」


 ──ドールを持ち主と切り離す方法が……。


 蘇るのは、女の声。「切り離す」。すなわちそれは、役割を解放することで。

「ここにいれば、俺はショウから記憶を取り戻せる。きっと」

 いつになく、何より、滲む強い決意。

「……感情が欠けているなんて嘘みたいだな。君は何よりドールを思っているし……その目的には、強い意志を感じる」

 セージは呟いてから、微笑んだ。

 パン、と両手を軽く叩く。明るい声が、高らかに響いた。


「歓迎するよ。クリスくん、ショウくん、ドール・ベースへようこそ!」


 アクールはべっと舌を出し、パクは目を伏せる。

 少ない人数での、静かな歓迎。クリスは、ショウを見上げた。視線が返ってくる。



 彼はずっと変わらない。どこまでも着いていくという意思と、クリスの目的への否定。それでも誰より、信じられる相棒。

 互いが大切だからこそ交わらない思い。二人の道は、まだ始まったばかりだった。




***




(クリスに、この「苦しみの記憶」は渡さない……絶対に)


 ショウは内心独り言つ。

「ドールから苦しみの記憶を取り戻す」と言うクリスと、同量の熱量を持って。

 その瞳に決意を宿しながら。



(かつてクリスが……人を殺した、なんて)




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ディー・フレディア 冬原水稀 @miz-kak

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ