第5話 お前!お前!お前!存在してくれるなよ?

2022/09/04




今日は、いま、秋葉原の、ガストで、モーニングを食べている。


かたわらには、ハイデガーの、存在と時間。


そして、テーブルに、臭っている、メイプルシロップの香り。


そうだ、朝はホットケーキにかぎる。


おいしい、美味しいのだ。




そんなことはどうでもいいだろう。


さて、わたし、は、今日は、なにに腹を立てているか。


昨日は、眠るまで、三島由紀夫を読んでいた。


そして、とある三島についての論文を読み始め、朝方、神田佐久間町界隈を徘徊していた。


論文の紙を持ちながら、ひとりぶつぶつといっていたので、不審に思われたのだろう。


警察に職務質問された。




「すいません、ちょっといいですか」


と警官は自転車を降りて、声をかけてきた。


ちょっと言い訳がない、わたし、は、いま、三島由紀夫の存在論について考えているのだ。


「はい、どうかしましたか?」


「いや、とくに、理由はないんですが、免許証とか持ってますか?」


特に何もないのに免許証を見せてくれ、という文法が日本の警察の文法なのだ。


こいつら大丈夫なのか?


国家権力の偏差値は下がったのか?


「みての通り、財布もないもないんで、免許証はないです」


「ああ、そうですか。ここで何をしてるんですか?」


「散歩しながら読書です」


「この辺に住んでるんですか?」


何を読んでるんですか、よりも先に、この辺に住んでるんですか、とは、警官も、さかっているのだ。


「ええ、神田佐久間町です」


「へえ」


へえ、とはなんだろう?


「持ち物チェックをさせてください。ポケットの中を見せてもらえますか?」


「ポケットはありません」


そうだった、わたし、は寝巻きの短い短パンと、よれよれのTシャツだったのだ。


「そうですか。寒くなってきましたので、薄着はやめた方がいいですよ。それじゃあ、また」


そういって、警官は自転車に乗って、去っていった。


その後ろ姿は、じつに阿呆の背中だった。


薄着はやめた方がいい?


それじゃあ、また?


また、わたし、は、あの警官に会うのだろうか?


一体何だったんだろう、いまの、じかん、は?


わたしは、何をしていたんだっけ?


そうだった、三島の形而上学的存在論について考えていたんだった。


あっ、でも、もうどうでもよくなったのだ。


わたし、は、人間と話して思考が停止してしまった。


なぜ、人類は、はやく、自殺しないのだろう?


どうして、ほっといてくれないのだろう?


わたし、は宇宙人なのだ。


エイリアンだから、貴様らを、いますぐに喰べることもできるが、アボカドの方が好きだから、アボカドを優先しているに過ぎないんだ。


どうして?


どうして?


どうして?


わたし、を、神田佐久間町で、ひとりきりにしてくれないんだ?




9:33




ガストの茹で卵は最悪だ。


剥いている、途中に黄身が溢れてきた。


手がベトベトだ。


席にある紙ナプキンを全部使ってやる。


手を、奥のトイレに洗いにいって、あたりに唾を吐き捨てて席に戻る。


ドリンクバーのオレンジジュースを、無駄に、垂れ流す。


こいつら、ちゃんと、ゆで卵ぐらい、管理しろよ。


ゆで卵の管理もできないくせに、生きてるんじゃねえよ。


そこに存在してくれるなよ?


なあ、今すぐ、非存在になれよ?


なあ、お前だよ。


お前!


お前!


お前!


お前!


お前!


お前!


お前!




はあ、今日も、こんなふうに、一日が始まるのか?


みんなは、いかがお過ごし?

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どうして、わたし、は、死にたいのだろう? 秋葉原編 幻人 @gennin

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