第3話 掘り起こされる過去

※第二話で貼り付けミスをしてしまい、一部文章が重複しておりました。申し訳ございません。重複部は削除済みです。


 = = =


 ここと言われても分からない。ロイド先生の声自体、そんなに大きな音量じゃないし、際立った特徴がある声質という訳でもない。どこですかー?と聞き返そうとした矢先、背高雑草が数本束になって、すうっと上へ伸びた。

「ここだよ」

 ロイド先生、どうやら雑草を刈り取って束ごと掲げたみたい。

「分かりましたー。今行きまーす」

 私は荷物を背負い直し、低い斜面を駆け下りると、背高雑草の海に分け入った。先ほど見当づけた方角へしばらく進むと、草がいくらか踏み倒されているのが見えてくる。

「こっちこっち。お腹空いたから早くしておくれ」

 この距離になれば、先生の声の発生源もはっきり分かる。

 それにしても、食料を持って行くのを忘れてまで、異物掘りにご執心だとは知らなかった。これが化石や遺跡を対象にしたのであれば、学界から相手にされるし、実際に成果を上げてきた過去がある。そんな実績のあるロイド先生が、どうしてまた覆把充おおぱあつ専門の発掘師に鞍替えなさったんだろう……。

「食べるんでしたら、もっと日当たりのよいところに出た方がよくありませんか」

 そう意見を述べながら、目の前の草むらをぐるっと回って回避し、裏側を覗くと、先生がいた。

「至極尤もな話だが、ちょうど今、面白い物が出てきたところなのだよ」

 そう言いつつも、手はしっかり拭いている。空腹なのは間違いないようだ。

「面白い物って何です?」

「プロペラだよ」

 足元を指差すロイド先生。大きな物を思い浮かべていた私は、何も見付けられず、困惑した。

「どこですか」

 先生は仕種で、一緒にしゃがむようにと促してきた。そして地面の一点、掘り返してある範囲のちょうど真ん中辺りを指差す。

「ここ。羽が二枚ほど露出しているだろう」

「あ、ほんとだ。この大きさじゃあ、空を飛べやしませんね」

 まだプロペラの全体像は見えてないけれども、両手の人差し指と親指とで作った輪に、すっぽり収まりそうなサイズだった。材質は何だろう。覆把充によく見られるというあれか、えっと、プラスチックと言ったっけ?

「飛行機のプロペラだとしたら、子供向けの玩具かもしれない。実際に飛ぶかどうかは二の次の、形を優先したおもちゃという訳だ」

「なるほど。ありそうな推測です」

「いや、言い切る自信はないんだけどね」

 先生は苦笑交じりに弁解じみた調子で始め、首にぶら下げているペンダントタイプのモノクルを片手に取った。そのレンズで小型のプロペラを観察しつつ、続ける。まだ掘り出す前の物を覗く訳だから、ひどく不自然かつ苦しそうな姿勢を取らざるを得ない。

「いやに精巧にできている気もするんだ。だから、これが玩具だとしてもそいつは本当に飛べる構造になっていた可能性はある。もっと言えば、我々の知る異界人とはまたサイズが大きく違う、いわゆるこびとみたいなのが存在しており、そいつが自ら操縦していた、つまりはこれもまた本物の飛行機である可能性も完全には排除できない、かもしれない」

「まさか。そのような話は、さすがに聞いた覚えがありませんよ」

「小さな檻を思わせる、網状の物体も見付かっている。あとで見せてあげよう」

「小さな檻に小さな人間が入れられていたと?」

「そこまでは分からない。こびとが存在するとしたら、そういう解釈、いや辻褄合わせができるっていうだけさ、今のところはね」

「なぁんだ」

 驚いて損をした。その一方で、ほっと安心もした。異物探し――覆把充を探す発掘師というだけでも白い目で見られがちなのに、そこへ加えて、小さな異人の実在まで唱え始めたら、いったいどうなることやら。

「しかしね、仮に飛行機だとしても、肝心の胴体や翼は、全然見当たらないんだ。何らかの理由でばらけて埋まっているのかもしれないね。それこそ、玩具が飛ぶのに必要充分な燃料が積んであって、何かのきっかけで爆発したせいで、胴体や翼はちりぢりになった……なんて見方もできなくはない」

 台詞終わりと同時に、先生の腹が鳴った。

「お昼にしましょう。私もご相伴に与ります」

 私達は草むらを出て、比較的見晴らしのよい高台に登った。


「それにしても、どうして認められないんでしょうかね。さっきのプラスチック製プロペラみたいに、異世界人の存在を示す異物がぽこぽこ見付かっているというのに」

 素手でつまめる揚げ物やパンをあらかた平らげ、人心地付いたところで先生に尋ねた。私自身は信じる派なのだ。がちがちの信者という訳ではなく、信じてもいい、異界人がいればいいなぐらいの緩さだけれども。あ、さすがにさっき出たこびと云々は、聞かなかったことにしたい。

「学術的には大半の人が否定的立場を取っている理由か。ここ最近、その流れが決定的になったんだが、噂ぐらいは聞いたことあるんじゃないの、ネイト君も」

 手をはたきながら応じる先生。私は首を横に振った。

「あいにくと、卒業後は発掘のことから離れてしまったもので、知識は昔で止まっています」

「いや、割と大きく報じられたと思うんだけどね。五年ほど前になるかな。古の眷属の末裔を名乗る宗教家が、魔法を使ってねつ造したんだ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大地と対話する者たち 小石原淳 @koIshiara-Jun

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ