第2話 掘りたい気持ち

 すばりとした物言いになるロイド先生。片や、キンバリー氏は鼻白んだように見えた。

 ロイド先生は、すぐには返事をしない(できない?)相手に、立て続けに言った。

「さっき先生と言われているのを聞いて、法律の専門家だと思ったが、どうも勘違いしていたようだ」

 ここでようやくキンバリーが口を開く。

「私は学者だ。地学のね」

「ああ、そういうことでしたか。地面の下にあるかもしれない、液体燃料の在処を探すために、研究をしていると」

「まあそういうことです」

「だったら、分かるでしょう。僕も学問の研究の徒でして、簡単には引き下がれない。わずかな予算を獲得して、どうにかこうにか発掘の実現にこぎ着けた。それをただ退けと言われてもね、引き下がれませんよ」

 相手が法律の専門家ではないと分かったせいか、私の目からも、ロイド先生が堂々と渡り合っているように見えてきた。

「ご高説は結構だが、そこまで言うのならロイド先生に逆に問いたいね。あなたこそ何故、きちんとした紙の書類で契約をしなかった?」

「それはまあ、色々と理由はありますが、端的に表現するなら――お金の問題が発生したときに逃げを打ちやすいから、かな」

 真顔で身も蓋もない返事をして、それから、かか、と大笑するロイド先生。本気なのか冗談なのか、私ですら判断しにくい。今日初めて会った人なら、なおのことだろう。

「ふむ。食えない人のようだ、見目と異なり」

 キンバリーのその評に、ロイド先生は頭を掻こうとした。けれども、土に汚れた己の手に目を留め、寸前でやめる。

「褒め言葉ですかね、それ?」

「受け取り方次第だから、ご随意に。それよりもだ、私も早くやるべきことに着手したい。そちらに対して、我々の側がどのような譲歩をすれば、私の願いが叶うのか、はっきりとご提示してもらえると助かる」

「うーん、譲歩ねえ……。僕らは僕らで、この辺りを好き勝手に掘り返されては、非常に困るんですよね」

「たとえばの話になるが、金銭的価値に換算できないのですかな」

「金銭的価値と言われると、かえって難しくなるかもしれません。価値は非常に高いと見なす者もいれば、こんな物嘘っぱちのがらくただという者もいますので」

「……妙だな。ロイド先生が一体何を発掘していらっしゃるのか、興味が湧いた。普通、発掘師たる者、己が探し求めているものは価値が高い――たとえ財産的な価値は低くても希少価値があると主張するのが常。なのに、あなたはおかしなことを言っている」

「んん、まあそうですねー、僕自身、価値を見極められていないというのもありますし、偽物が混じっている可能性も結構あると言われていますし……」

「じれったいな。何を探し求めて、地面を掘るんです? 答えてください」

 いらだたしげな口調になったキンバリー。眼鏡のずれを直し、ロイド先生をじっと見下ろす。

 先生は、汚れていない手首の辺りを使って頭を掻くと、苦笑を浮かべた。

「相済みません。キンバリーさんがご存知かどうか、覆把充おおぱあつと総称される物を探しています」

 そして先生が説明をする間、私はここへ来た当初のことを思い起こしていた。


 ~ ~ ~


 指定された場所までやって来て、少しばかり途方に暮れる。目の前は原っぱのはずなのだが、茶色がかった背の高い雑草で一面覆われている。広い上に見通しが利かないとなると、これはもう探すよりも呼んだ方が早い。

「先生、ロイド先生! どこですかー」

 私は声を張り、学生時代の恩師の名を呼んだ。今の季節、乾燥が進むと香辛料の元になる“ヒノミン”が胞子を飛ばしがちで、知らずにもし吸い込んだら喉はヒリヒリ、鼻水ジュルジュル、咳かくしゃみがしばらく止まらなくなると、悪いこと尽くしになるらしい。気を付けねば。幸い、ヒノミンの植生は見当たらないが、用心に越したことはあるまい。

「ネイト君か? ここだここだ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る