追う、逃げる、逃がす。救うため。

「ああ」


 夢であってほしい。


「あああ」


 自分が死んだことも。


「ああああああああ」


 2人が。


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」











 死んでしまったことも。









 扉を抜けた先には、また廊下が続いていた。そしてそこを通り抜けると、少し広い部屋へとたどり着いた。どうにもここは、何かの施設のようで、いくつかの部屋と廊下が繋がっている。中にはぐるりと部屋の周りを1周するだけの廊下まであった。これには流石のレイも怒り出した。


「なんでこんないみのないみちがあるのよ!」


 そんなことを叫ぶと、俺たちの後ろで、おおおおぉぉぉぉ……と何かの声のようなものが聞こえてきた。


 思わず振り返ると、そこには。




「ひゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ユウが思わず悲鳴を上げた。


 身体は俺の1.5倍ほど。双子からしたら巨人とも思えるような巨躯だろう。

 汚らしいずた袋のような服装。そこから普通の位置に頭と手足があり、また別のおかしい場所に頭と手足がある。まるで1つの身体に2人分の頭と手足をくっつけた様な、そんな小さな子供が粘土で作るような存在が目の前にいた。

 ただそれだけで害が無いのであればいいのだが、そうもいかないだろう。

 2本の右手には鉈が握られていた。それによく見ると、その鉈とずた服に赤い染料のようなものが、


「はしるわよ!」


 思考だけで身体が全く動かない状態から、レイの一喝で我に返った俺はユウの手を取ろうとした。しかし、すり抜けてしまった。

 くそ! のか!


 レイが駆け寄ってユウの手を握るが、恐怖からかユウは動き出すことができなかった。


 逃げる体制も整わないまま、すでに怪物は俺たちの目の前に立っている。

 さすがのレイも表情はゆがみ、目には涙が溜まっていた。

 そのまま怪物は2本の鉈を振り上げて、俺は思わず叫んで突進した。


「やめろおおおおぉぉぉぉ!」



 俺の身体は、怪物をすり抜けた。

 のか!















 ひゅっと空気を切る音がして……………。








「あああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

「ちょっと! どうしたのよ!?」

「し、しっかり、してください……!」



 双子の声に我に返った。

 俺は、いったい……?


 気が付くと、俺は最初の扉の前で立ち尽くしていた。


「はぁ、ようやくおちついたわね」

「し、しん……ぱい、しました……」


 双子はいつも通りだ。

 頭をかち割られていない。

 血だらけにはなっていない。

 死んでいない。

 生きている。


「よかった……」


 それから俺は何が起きたのかを確認した。

 どうにも、扉を通る前に俺が立ち止まったかと思うと、急に叫び始めたらしい。

 先ほど俺が見た出来事を訊いてみたが、


「なによそれ?」

「えと……わから、ない……です」


 記憶にはないらしい。

 あれを白昼夢として考えるには、いささかリアルすぎる印象だ。

 何事もなければいいが、ここは。


「2人とも。俺がまず先に外を確認してみるよ」

「え? どうしたのよきゅうに」

「外が安全かどうか、少し見てくる。大丈夫、すぐに戻るから」

「でも……ガイさんが、きけん……なんじゃ」

「俺は幽霊だぜ。もう死んでるなら、これ以上の危険はないさ」


 そう言って俺は微笑んで、安心させようとしたが、レイの訝しげな顔と、ユウの心配そうな顔が俺を見つめている。しかし、ここは押し通すべきと考え、気付かないふりをした。


「じゃあ、少しだけ待っていてくれ」

「あ、ちょっと!」


 半ば強引に部屋を飛び出した俺は、そのまま外の探索を行うことにした。

 前回探索時にはいなかったあの怪物が、急に出てきたのには訳があるはずだ。

 そうして独り捜索した結果、最初に通り抜けた部屋に仕掛けがあった。


 この部屋も最初の牢屋同様かなり薄暗いが、先程の部屋とは違い、幾つか家具などが置かれていた。その中の本棚の裏に、大きな空間があった。

 何故わかったのかというと……。



 幽霊の身を利用して、本棚を直接通り抜けたからだ。


 最初に本棚の裏側に空間があることに気付いてから、そのまま俺の身体の利点を使って調べてみれば、本棚の真後ろにあの怪物がいたとなれば、思わず叫びたくもなった。しかし、幽霊であるおかげか、相手は俺に気付くことなく隠れ続けている。


 これはチャンスだ。

 先にこいつを誘き出して、どこかに移動させてしまえば、ある程度安全に行動できるだろう。


 俺は辺りにあった、マグカップを取ると、そのまま双子のいる部屋と真逆の方向に投げる。パリンと小気味の良い音を響かせると、すぐに変化があった。


 ずりずりずり……と小さな音を立てて、本棚が横にずれ始めた。

 そこからあの怪物が姿を現すと、そのまま音のしたほうへと歩き去っていった。


 そこでしばらく待って様子を伺ったが、戻ってくる気配はない。

 俺は双子を呼びに行った。


「おそい!」

「だいじょうぶですか……!」


 2人は言いつけ通りに待ってくれていたようだ。


「ごめん。でもすぐそこの部屋に怪物がいたんだ」

「かい、ぶつ……ですか?」

「ああ。あのまま進んでたら、君たちは気付かれて襲われてたかもしれない」

「ふうん……さっきいってたゆめにでたやつとおなじやつ?」

「たぶん……」


 レイはあのことを夢と断言しているが、俺にはただの夢とは思えなかった。

 全く同じ怪物が存在していたことから、なにか……啓示のような、そんな何かがあるのかもしれない。


 しかし、今は気にしている暇はない。

 使えるものは、何でも使う。

 そして俺は2人を救うのだ。


 


 これがこの物語の目的となる。


 たとえどんなことがあっても。



「まあいいわ。あぶなくないなら、はやくいきましょう。これからも助けてくれるんでしょ?」


「ガイさん……が、たすけて……くれる、なら、きっと……だい、じょうぶ、だから……いこ?」


 この2人を救うと決めたのだ。


 それが、なにもなかった俺の中に唯一生まれた、




 存在理由レゾンデートルなのだから。





 ―――――――――――――――――――――――つづく

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触れることさえできずとも ミウ天 @miuten

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