聞く。知る。救われる。

 それから俺は、今わかっていることを話した。

 自分がどうやら死んでしまっていること。

 何故か幽霊になっていること。

 自分の名前も含めた、全てのことを忘れてしまっているということ。


「つまりなにもわからないってことでしょ」

「ああ」

「さっきとなんらかわんないじゃない」

「いやそう言われても……」

「たよりないわねぇ」

「助けたのに何故こうも罵倒されるのか」

「そこまでにしようよぉ、おねえちゃん……」


 幼女とも言える容姿の子供に罵倒されるなど、どこぞの紳士でも喜びそうなシチュエーションだが、幸か不幸か、俺にそんな趣味はない。

 ん? そういえば……。


「お姉ちゃん?」

「あ……えっ……と」

「何か思い出したのか?」

「おもい、だした……と、いうより……」

「あたしたちがひとつだけおぼえてたことよ。ふたごだってこと」


 双子、か。確かに髪型以外は顔つきとかも瓜二つだ。性格は全く違うようだが。


「でも、なまえ……とか……そう、いうの……おもい、だせなくて」

「あんたもなまえわかんないんでしょ? なんかめんどうね」

「ふむ、それなら一旦呼び名を決めるか?」

「「え?」」


 2人は同時に返事した。

 俺は思わずふっと笑う。やはり双子だな。


「ここから出るために、お互い協力しよう」

「でるっていったって……あんたはもう」

「おねえちゃん!」


 今日一のショートヘアの子の叫びを聞いた。

 ロングヘアの子ははっとして、ばつが悪そうに顔を背ける。


「ごめん……」

「いい。平気だ」


 気付いた時には、確かに発狂しかけてしまったが、俺はこの子たちの存在に気付いて、死した後も誰かと繋がることができた。

 記憶も何もない中で、自分がなぜ死んだかもわからずにいたならば……想像したくない。

 いわば俺は、この子たちに救われたのだ。


「ありがとう」

「「え?」」

「君たちのことを助けられて良かった」


 素直にそう言って微笑んだ。

 そういうとロングヘアの子は頬を赤く染め始め、ショートヘアは微笑み返してくれた。


「ばっばっかじゃないの! きゅうになにいいだすのよ!」

「うん……たすけてくれて……ありがとう」



 閑話休題……。



「じゃあ、俺のことはガイと呼んでくれ」

「ガイ?」

「なんでよ?」

「ガイスト(魂)から取った」

「しらない……ことばです……」

「まあ、あんまり気にするな」

「じゃあ、わたしたちは?」

「レイとユウで」

「ダサ!」

「いやダサくないだろ!」


 すったもんだあったが、俺はガイ。ロングヘアはレイ。ショートヘアはユウと呼ぶことになった。


「ぜったいにパーフェクトレディーがかっこいいのに」

「ながすぎるよぉ……」




 そのまま廊下をみんなで歩き、EXITの看板のある扉の前に着いた。

 鍵束はレイに持ってもらっている。小物は持てることはわかったので、何かあった時に身軽に行動できたほうが良いと判断したからだ。


「あけるわよ……」

「う、うん」


 取り付けられている大きな錠前に、レイが鍵を差し込むと、ガチリと鈍い音を立てて外れた。錠前がそのまま床に叩きつけられた音が響く。


「俺が開けるぞ」


 これはもう1つの実験だった。

 鍵などの小物に触れられたなら、扉なども少しくらいは動かせるのではないかという仮説だ。

 幽霊初心者である俺は、とにかく何ができるかを知っておかなくてはならない。

 この子たちを守るためにも。


 扉の取っ手を掴んで引いてみる。

 ギイイイイィィィィ……と断末魔のように扉が鳴る。


 なるほど。ということか。


 さて、とりあえず外に出てみよう。


 そして俺は。















 2人を死なせた。

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