「月の欠片を拾った夜」
帆尊歩
第1話 僕がウサギを飼う理由
月の欠片を拾った夜、僕はウサギを飼うことになった。
「ウサギ飼ったんだ」と驚いた美智はすぐに何でと尋ねて来た。
猫でも無く、犬でも無く、なんでウサギ。と
「実は深い分けがあって、きく?」
「いや言いたいんでしょう」
その日僕は満月があまりに綺麗で、夜の散歩に出かけた。
お気に入りの高台のところに来たときだった。
何だか光り輝く破片を見つけた。
それを拾うとその物が光っていた。
とは言っても綺麗とはほど遠い、デコボコして、ざらざらした、よく分からない物体だった。
いったい材質は何なんだろうと思っても、分からない。
ただとても軽いと言うことだけは分かる。
まあ取りあえず僕は、それを持っていたショルダ―バックに入れて、また歩き出した。
すると道の真ん中に誰かがいる、見るからに怪しく、僕は本能的にかかわらない方が良いと判断したので、そのまま行き過ぎようとした。
「あのー。もし」と声をかけてきた。
僕は無視する。
「あのー、もしもし」その怪しい影は性懲りもなくもう一度言ってくる。
仕方なく振り返るとちょうど街頭の光で顔がてらされた。
そこにいたのはタキシードを着たウサギだった。
タキシードのウサギって、童話の中だけじゃ無いんだ。
と思ったが、そんなことは言っていられない。
「あー、ちょっと急いでいるんで」と足早に行き過ぎようとしたら。
ぴょんぴょん跳んで僕の前に来た。
「すみません。お急ぎのところ本当に申し訳ありませんが、ちょっとだけ」
「いやー本当に」という僕を無視して、ウサギは続ける。
「実は落とし物をして捜しているんですが、心あたりはありませんか」
「捜し物」
「ええ、実は月の欠片を落としてしまって」
「月の欠片?」
「はい私こういう者で」とウサギは名刺を出してきた。
そこには月管理会社、餅つき部、第一課、餅つき係 ウサギとあった。
「エート」と僕が言いよどんでいると。
「実は私、月で餅つきをしておりまして、杵が勢い余って月にあたってピーンと割れてこちらに落っこちてしました、そしたら、上司が怒る怒る。殴りかからんばかりで、いや殴られたんですがね、この首筋のとこと赤くなっているでしょう」
「いや毛があって、わからないし。そもそも首ってどこ」
「ひどいな、見て分かりませんか、ここ、ここ」ウサギは頭を上げて、首と主張するところを見せた。
「いやちょっと」
「まあいいです。月の世界はチョーブラックで、あんなにホワイトに見えるんですけれど、ブラックなんですよ。」
「あー」
「だから見つけないと、首なんですよ。見てください月を、餅つき係の私がここにいるので、今はウサギがいないんですが、あんまりもたもたしていると、解雇されちゃんです」
そう言われて僕は月を見た、すると本当に、月にはウサギ模様が無くなっていて、ただのっぺりとした月が見えるだけ。
「ああー、もう時間が無い。本当に知らないんですよね」
「あっ、ああ、」
「本当に」このウサギ絶対に僕を疑っている。
明らかに疑っている。
でも今更出せない。
「えっ」ウサギが僕の顔をのぞき込む。
思わず僕は目を背けてしまった。
ウサギが僕をにらむ。
「本当に拾っていないんですよね」
「もちろん」と僕の声が震える。
とその時なんかの着信音が鳴った。
ウサギはベストのポケットから電話を出すと電話に出た。するとうウサギは電話なのにすみません、すみませんをくりかえし、頭を下げまくっている。
仕舞に、
「課長、それだけは。まってください、何とかします、もう少しだけお時間をください。」と気の毒になるくらい小さくなっていた。そして僕でも分かるくらいの大きさでブツッと電話が切れた。
「あー、待ってー。お願い、私を、私を見捨てないでー」
「電話、切れてますよ」と言うとウサギは僕をにらみつけると上を指さした。
月を見るとウサギの後任のウサギが、餅つきをしていた。
さすがの僕も気の毒になってショルダーの中の物体をウサギにみせた。
するとウサギがきれた。
「ざけんじゃねーよ。あるじゃねーかよ。持ってるじゃねーかよ。どうするんだよ。
首だよ首」
「あー、でもブラックの、パワハラ上司から解放されてよかったじゃ無いですか」
また余計なことを言ってしまった。
「そいう問題じゃねーよ。この落とし前どうつけるつもりだよ。このご時世、生きていけねーよ、責任とれやー。ああー」そう言うと、どうでもよくなったのか、僕から月の欠片をふんだくると、足で踏みつけて、粉粉にしてしまった。
そしてもう一度僕の方を向いて。
「で、にいちゃん、この落としまえ、どう始末つけるんじゃい」
「はあ」
「はあ、じゃねーよ、どうしまつけるんだって聞いてるんだよ」とだんだん柄が悪くなって。
でうちに居着いちゃったって訳け。
「が、このウサギ」と美智が言う
「ううん」
「嘘だー」
「月の欠片を拾った夜」 帆尊歩 @hosonayumu
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