8.隠密に

☆☆

 それからのあゆみと彼氏の宇佐美は隠密行動が多くなった。なるべく接触しないようにしたし、遠くから見るだけのファンになったような距離感。ラインもするし、個人アカウントのSNSもしているけれど、たまの休日に2時間程度会うだけの日々。

 彼は研究して論文を書きつつ、安定した収入を得るべくOB訪問をしていた。研究職につけるように。

 ☆☆

 あゆの使い君が契約解除になる1年後を迎えた。事務所の1室。契約更新に際してよく使われる部屋だ。

 マネージャーから判定を告げられる。

「あゆの賭けは不合格ということになりました」

「やっぱ、気づかれてたのね」

「ええ」

「はい」

「いつ気づいたの?」


「初めに見たのは初めて2週間後くらいですかね。

 それからだんだん見かける頻度が増えまして、怪しいなと思って夏海さんに相談もしましたし、かけの内容も聞きました。モチベーションを下げないためにぎりぎりまで言わないでほしいといわれましたので黙っていました」


 多少、夏海サイドからのネタ晴らしもあったが、それがなくてもいずれ気づいていた。彼氏に出会う頻度が高すぎた。


「逆に酷だよ。何ともないと思って今日のテンションマックスだったのに」

「でしょうね」

「俺の人生をもてあそんだ罰です。社会人の転職は軌道修正できにくいものなんです。小娘たちのこざかしい賭けの対象にされたんですからそれぐらいの復讐かわいいものでしょう」

 初めにファンを絡めた作戦を提示したのは夏海だ。かなりの罪悪感を感じこの約1年をすごしてきた。

「その通りです。悪ふざけが過ぎましたので」

「すみませんでした」

「「本当に」」

 夏海も相当頭に来ていたらしい。


 ☆☆

 伝説のライブ

 最終のライブは今までリリースしたものをほぼ全部歌うという豪華なステージ。

 歌って踊って縦横無尽に建物中を駆け回る。

 ポップな楽曲もあればバラードもある。2人の完璧な振り付けは何度も流されることになる。


 ☆☆

 7年後

 彼氏とはたくさん話し合ったし、

 もう待てないといわれて2回別れたこともあった。

 そのたびにマネージャーと夏海が考え直してくれないかと直談判しに行ってくれ、よりを戻すことができた。

 2人には感謝しかない。

 私がレッスンに夢中になりすぎて電話の時間すら取れなくなったことや彼氏の仕事が忙しくなったときもある。

 最後のライブはなんやかんやで伝説と呼ばれるものになった。

 なんでだろうね。


 ☆☆

 夏海のその後はソロで2年契約するんだって。

 本当にアイドルが好きなんだね。

 人に見せることが大好きでそれを仕事にすることは本当に大変でメンタル的にも答える作業だった。

 批判1つで弱ったりもするし応援の声が耳に入らないほどに凹んでしまうこともある。

 結婚したからって縁が切れるわけではない。

 だから相談役くらいにはなれるし、バイトとして不要範囲内で関わることもできる。

 精神的な支えになるんだ。

 いつも私のことを支えてきてくれた夏海。夏海だって大好きな人だから

 パシリ君は夏海の専属警備員になってくれている。

 ボーイッシュな雰囲気を7年で髪を伸ばし、ヘアケアに時間をかけてクールビューティの呼び声高く、女子もあこがれの存在になっている。

 ☆☆

 SNSでこんなうわさが出ている。

「あゆなつのなつってさぁ。最初はクールビュティって感じで売り出してたけど、いつの間にか、色気すごくなってない?」

「やっぱり?」

「うちもそう思った。だれかいいひとできたのかなぁ」

「きっと事務所関係の人だよ」


 ☆☆☆

 あゆはあと1年で電撃婚する予定だったけれど、専属マネージャの交代とか

 移籍作業と各種関連企業様に根回しするの大変でうまくいくかどうかひやひやしたけれど、なんとか各所に許可も取れて円満に婚姻届けを出すことができました。

 西川あゆみは宇佐美あゆみとなって専業主婦になる予定です。

 元のマネージャーには許可も取れたし、お祝いしてくれたよ。

 なつもきっとマネージャー見習い君といい仲になるんじゃないかな。

 おっと、旦那様が返ってくるから、みんな、またね!


 完


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私たち、カッコ可愛いアイドルユニット 完 朝香るか @kouhi-sairin

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