お盆じゃなくても側にいて

スーパーで買った生のやつ小さく切って

　なすは揚げびたし、きゅうりは浅漬けにしたら良いと思うんだよな。

　そもそも割りばしとか刺して車にするものでもないと思う。どこかの農家が一生懸命作ったものなのだから、こちらも誠意を持って食さねば罰が当たるというものだ。まあこいつらのやるべき仕事が済んだら何かしら調理して食べているのかもしれないが。俺はそんなことは知らん。料理できないし。

　なあ、お前さ。本当にこのきゅうりに乗って帰ってきてるのか？そんで今日、なすでゆっくりあっちに帰るって？全然信じらんないんだけど。

「あれ？壮太（そうた）、珍しいね。仏壇の部屋にいるなんて」

「まんじゅう美味そうだなって思って」

「なにそれ」

　彩（あや）は、本当にお前が帰ってきてると思ってるんじゃないかって思ってるんじゃないかな。だっていつもはこんな風に家に遊びになんて来なかったじゃん。部活が忙しいとか言ってさ。お盆なんて1番忙しかっただろ。お前も寂しそうにしてたじゃん。

「どうせだしお線香あげようよ」

「えー……」

「えーじゃない」

　一応また手、合わせるけどさ、さっきもこっそり手合わせてたこと、彩には内緒にしといてくれ。あとで好物供えとくから。あ、もう帰っちゃうんだっけ？じゃああっちに持ってけよ。向こうでみんなと食え。

「今日で……1年経つんだね」

「そーだっけ」

「もう……」

「なあ」

「なに？」

「こいつも本当に、なすに乗って帰るのかな」

　やっぱさ、帰らなくていいんじゃない？もう少しここにいろよ。……ごめん。なんだかんだ言って俺も寂しいよ。お前と何年もこの家で暮らしてきたからさ。意地張ってごめん。もう少しだけここにいてよ。

「いや……なすには乗らないんじゃない？」

「……ん？」

「だってスズちゃん、猫だし」

　……猫ってなすに乗ってあの世に帰らないの？

「あんまり聞いたことないけどなあ。猫がなすとかきゅうりとか」

「じゃあなんだよこれ。置いてあるじゃんなすときゅうり」

「それはまあ……お盆だし？」

　お盆だし？

「案外天国には行かずにその辺にいたりするかもよ」

　なんだよ……。じゃあお前、まだこの辺にいるの？確かに、きゅうりに乗って帰ってきて、なすに乗ってあっちに帰るお前の姿は想像できないかも。大人しくなすに揺られてるような猫じゃないもんな。お前。

「じゃあ、野菜じゃなくて、あいつの好きなサーモン供えとこうぜ」

　なすときゅうりは、俺があとで食べとくわ。