【再掲】12 怠惰なる転生者達
◇
魔王の俺は放浪の旅に出ます。
そう宣言すれば何とも微妙な反応を示す氏族達に何もかもを丸投げし、指令書通りの統治をお願いして旅立つ……東方の蛮族の姐さんと共に。
内政は概ね安定しており、外交関係の構築もまずまず……軍備も防衛主体ならなんとかなるだろう……きっと問題ないはずだ。
脱・モンゴル海軍(ボート一隻)を果たして船舶、乗員も絶賛拡張中であり、泳げる人員は……ま、大航海時代迄はよくある話だ、HAHAHA!
なんだかんだかなり長く滞在した、東方の蛮族の魔女の姐さんは国をほっぽらかして大丈夫なのだろうか?
「……あたしがまともに統治出来ると思っているのか?」
気だるげに話す彼女の態度そのものから察した。
部隊ならともかく、国レベルでは流石に彼女の力量を越えてしまうのだろう。
「優秀な妹がいるから問題ない……いや、問題ないけどちょっと心配かな」
任せられる血族がいるのは心強い。
前世から今に至るまでこの俺には全くと言っていいほど縁の無い話だが、悲しくなるね。
「ま、普通にしていれば優秀なんだ……変態ドMでお花畑な楽しい妄想をするだけ平和だ……共産主義の事さえ語らなければな」
とんでもなくヤバい奴らしい。
人類には早すぎるそれをこの世界でも同じように実験しようとしているのだろうか?
……それとも、マッドサイエンティストかな?
「聞いているだけで頭が痛くなるぜ?……で、あんたの国は地上の楽園かい? 平〇広場のようにダサいモニュメントでお出迎えってか?」
「「HAHAHA!」」
「似たような奴ならこの世界にいるだろ? 天馬とかさ? ま、平等に豊かになれるんならやってみろと言ったよ? あいつはさ、意外と聞き分けが良いから理解しているだけましさ」
それは何事もなく平和なようで何よりだ。
引き続き赤い思想は禁輸品として扱ってほしいね。
「魔王様!……魔女様もこちらにいましたか! た、大変です!」
旅立つと宣言しつつも直前で面倒くさくなって先伸ばしを繰り返し、もはやいつものようにまったりと語らいながらコーヒータイムを満喫していれば、コボルト族のチャゲが慌ただしく駆け込んできた。
二の句は決まっている。
俺と姐さんは視線を合わせれば同じことを思ったのか、互いに笑みを浮かべながらいただこうか。
「「勇者か?……HAHAHA!」」
魔王と魔女が勇者と口に出し笑い合う光景に、チャゲはため息を一つ吐いたのはきっと勇者の末路への同情かもしれない。
「ええ、とりあえず郊外で足止めしてますのでお願いします。今のところ死者は出ていません……ああ、こちらの話ですからね?」
「「「HAHAHA!」」」
「報告ご苦労。案内よろしく」
「はっ!」
「あたしも行く。少しは骨のある奴なら良いんだけどな」
「魔女様まで出たら骨すら残らないのでは?」
「違いない」
「「「HAHAHA!」」」
───そうして対峙した勇者は俺と姐さんを目の前にして、絶望を顔いっぱいにさらけ出して頭を撃ち抜かれ、即座に斬首されて終了するコンビネーション技でなにも苦しまずに一生を終えたのだった。
負傷者は出たものの我が軍の練度も上がっており、残るお供はマスケットの的として蜂の巣となった。
これにて一件落着したものの、どうも勇者の襲撃は魔王や魔女に惹き付けられるようにやってくるようなので、このままここに留まって爛れた日々を送るのは災いの元凶となるだろう。
先伸ばしにするのはもう終わりだ。
そんな訳で厄介者二人が旅立てば、きっと昼間のコロンビア並みに平和かもしれない。
前世の師匠でもあるナギ姐さん、弟子の俺がコンビを再結成した旅路はその後、勇者に選ばれてしまった者達の白骨街道と化す。
お互いにスコアを競うようでありながら、最も得意なスタイルでフォローし合う。やがてボーナスタイムは終わり、残るのは平穏そのもの。
それは人の形をした害獣駆除と変わらず、銃と刀とまるでメリケンが喜びそうな昔ながらのアクション映画さながらである。
勿論、刀に精通した彼女の斬首、介錯は芸術的であり、俺には到底敵わない人殺し同士のリスペクト……ナギ姐さん、あんた……相変わらず心は優しいままなんだな。
事が終われば、大太刀を握ったまま彼女の手は震えているのも前世と変わらず……大丈夫、大丈夫……その後、フォローするのも前世とのトレースか。
ただ、繰り返した先にふと疑問を覚える事があった。
ここのところ勇者の質的低下は甚だしく、素人相手よりもまだ山賊、軍隊崩れの方が歯応えを感じるぐらい。
選ばれし、または作られし勇者の中でそれなりに動ける奴は人を殺した経験があるのだろう。
その一方でどういう訳か、潜在的に秘めた力をまるで感じず、むしろ弱体化しているように思えるところがそれはそれで不気味だった。
ナギ姐さんも同じことを思ったのか、旅先の立ち寄った街の酒場で珍しくお互いに真面目な顔をして語らう。
「戦闘慣れしているはずの勇者が弱い……あたしの推測だけど、多分お前と同じかもな」
覚えた疑問に二人で考え、やがて辿り着いた結論は妙にしっくりとくるものだった。
「あぁ、おそらく加護が消えているな」
「やっぱりお前もそう思ったか? 明らかに人を殺した事のある勇者の装備が軽装だ。力が弱まっているとしか思えない……尋問したときの答えと一致している」
「だよな。今度ジーザスにでも聞いてみるよ」
「そうしてくれ。あたしは天界への行き方を知らないからな。情報料は弾んでやる」
本来であればドラゴンを相手にするかのような重い大剣を携え、それなりの鎧と盾で身を固めた装備が主流なのは、本来持てるはずの無いものを持てる加護の力によるものだろう。つまるところ、神に愛されしアーサー王を量産しているのだ。
それがどうだ。ばったもんの聖剣のバーゲンセールかと思いきや、凡百の山賊レベルまで格落ちするのはあまりにも妙であった。
魔王が人型であると知れ渡ったのも一因と言えるものの、加護が消えればもて余す装備を捨てたと考えるのが自然だろうか……それとも予算の問題か?
何はともあれ、よく知る人物に聞くのが一番だ。
ま、そんな事よりも思う存分と放浪し、時に旅の疲れを癒し、色欲の赴くままに適度な運動の出来る日々がどうも心地よくて中々やめられない。
そうして季節が変わる頃、旅先でいつものように爛れた怠惰な色欲に溺れるだけの退廃的な日々を過ごしていれば、油断しすぎた為に珍事も起こる。
勇者が近付けば例え深い眠りについていても、強力で正確な目覚まし時計に叩き起こされるように覚醒する事がわかったのだ。
それは良いんだ。本当に油断しすぎたんだ……。
まさかね、魔王と魔女が揃いも揃ってさ、全裸のまま打って出る羽目になるなんてね、今では笑い話だよ───。
◇
いつものように目を閉じて、『ジーザスのクソッタレ!』と念じればあっという間に雲の上。
目の前の羽を生やしたメリケン娘はお食事中で、その風貌に似合わずパンとスープだけの質素な献立。
まるで敬虔で模範的な聖職者のようだ。うちの領内の方が献立が多いぞ?
コーラはないけどうちのハンバーガーでも食べないか?
具材追加するなら代金は存分に跳ね上がらせるけどな! HAHAHA!
「なによ? また突然やってきて……あんたの分はないわよ?」
パンとスープを守るように手で覆い、こちらを睨むジーザスは何というか可愛げがあっていい……天界の食糧事情が気になるね?
俺は某国民的な漫画やアニメで出てくるいい匂いにつられたおじさんではない。もう少しましなメニューを用意してもらいたいところだ。
ところであの全自動卵割機は、いったいどういう作動方式なんだい?……どうでもいいか。
俺はあれから色々とあり、とても暇になったので手土産と共にやってきたのだ。
「旅を楽しんできたからさ、お前にもお土産を持ってきたんだ。いつも世話になっているしな」
お土産という言葉に訝し気な表情を浮かべるのはなんでだろう?
ダブルスコアを突き抜け、トリプルスコアまであと半周を超えたあたりからか、もう何も反応しなくなったものの、パブロフの犬と化した彼女の食事中に連想させてはいけないものかもしれない。
「なによ? 私は食事中なの、見てわからないの?」
やはりと言った感じで塩味のスープと同じようなものか、そっけない態度から手のひらくるりとなるぜ?
「なに、皮付き肉の煮込みだ、うまいぞ? お前の質素な飯に彩を添える皮肉だぜ? HAHAHA!」
前世で言う東坡肉のようなもので、東方の蛮族の姐さんと海沿いを南下する旅の途中で見つけた。
あまりにおいしかったのでこれはお土産にしたいと頼み込み、持ち帰って姐さんと楽しんだ……もちろん二つの意味で。
それでも余った分を便利な魔法を用いて保存し、そのまま忘れかけていたところを発掘したのでちょうどいい毒見役を探していたのだ。
「ありがたくいただくわ」
何ら疑いのない純粋無垢なジーザスは、それはそれはおいしそうに頬張ったのだ。
食品ロスへのご協力に感謝する。
その後、もう一つのお土産である良い茶葉でティータイムを挟み、近況報告と情報提供をして語らい、いくらか時間が経過しても何も起こらず、思わぬ献立が増えたジーザスはご機嫌そのもの。
ジーザスの胃袋が丈夫なのか、それとも冷凍・解凍・温めの可能な魔法が凄いのか。ともあれ便利だなと二つの意味で感心したのであった。
そして話題はいつものように気になるものになる。
「最近選ばれし勇者をほとんど見かけないから暇?……私も暇じゃないのよ?」
とてもそうは思えない。頬杖をついて魔王の俺と相対する見習い女神のジーザスは、気だるそうに暇を持て余している矛盾をどう説明する気なのだろう?
そもそも来た時に門前払いしようとすらしない彼女は、いつものように退屈しのぎに付き合ってくれるようでありがたい。クソッタレのクセに。
「おかげで快適な旅を満喫できるばかりか、我が領土も昼間のコロンビア程度に平和そのものだよ」
「……夜はどうなのよ?」
「しばらく東方の蛮族の姐さんと楽しんだよ?」
「そういうことは聞いてないわよ!……このスケベ! 変態!……汝、姦淫することなかれ!」
夜の話と言えばそっちじゃないのか?…ま、続きを語ったところで彼女は赤面するばかりの敬虔な女神様見習いってわけだ。
しかし、そのまま数年に及んだからか、見習いとしては板に付き過ぎ……出世はいつなんだろうね?
俺はもうこれ以上出世する見込みはない。魔王だからね? HAHAHA!
「まぁまぁ、極東の魔女様と二人旅した結果は上々よ。山賊が物理的に消えていったからね……選ばれし勇者や、まがいものすら見かけなくなったしな……おかげで各地の治安は向上した」
「……あんたね、やり過ぎよ。治安が良くなったのは天界としても喜ばしいわ……極東の魔女とあんたが組むなんて悪夢でしかないけどね……」
「前世の俺が子供のころから世話になっている師匠だからな。近接戦闘は相変わらず無茶苦茶だよ」
「あんたにそう言わせるなんてね……本当この世界は大丈夫なのかしら?」
「「HAHAHA!」」
「こちら側への偏見さえなくなればどうにでもなるさ。いつかそういう時代が来るといいね」
「なによ……魔王らしくないわね?」
まるで不思議なものを見るかのような目でこちらを覗くジーザスは、いつかの上等兵を思い起こすね……。
「髪や瞳、肌の色なんて関係ねえだろ?」
「……ま、そうね、そうよね……それよりもあんだけやりたい放題やってくれたからね。選ばれし勇者たちは野となれ山となれ、しばらく在庫なんてないわよ?」
「どうりでお互い暇なわけだ」
「おかげで私のクビも危ういわよ……」
「よう無職、失業した次は何をやるんだい?」
「……あんたのせいでこうなったんだけど?」
まるで身に覚えはない。どうりで勇者を名乗る奴の質的低下も甚だしい訳だ。
装備の質、能力のどちらも第一線に送ってはいけないレベルであるのものの、こちらの武装が近代化したおかげか、足止めぐらいなら小柄であまり力の無いコボルト族、ゴブリン族でも何とかなってしまう。
それも死者が出ないぐらいに練度が上がったからと言うのも大きいけれど、その一方であまり対策を為されていないのが却って不気味なぐらいだ。
「……なによ? 身に覚えが無いって言うの?……胸に手を当てて考えてみなさいよ?」
胸に手を当てて何がわかるっていうんだろうね?
どれどれ、ジーザスの胸を借りてみればわかるかもしれない。
「そっちじゃない! セクハラよ! この変態! クソ野郎! Mother f**ker!」
相変わらずうるさい奴だ。
それよりも触れたときにピリッと電流が走ったような、なんだかよくわからないが加護でもあるのだろうか?
もしかしたら気のせいで、乾燥した時によく起こる静電気的なヤツなのかもしれない。
ま、触れるか触れないぐらいがむしろ…。まぁそれはいい。生娘をからかうのはやめようか。
ビンタが飛んでくるどころか、魔法すら唱えないのはちょっとしたこの世界の不思議かもしれない。
顔を赤く染め上げて怒りを露わにしたジーザスは、こちらをにらみつけながらまくし立てた。
「とにかくね、あんたのせいで私の役割は終わるかもしれないのよ!……情報を提供した私も悪いけどね、魔王のあんたと馴れ馴れしくし過ぎたのが原因だからね!」
「門前払いすればいいものを?」
「馬鹿!……出来る訳ないじゃない!! だって!……ううん、なんでもないわ」
何をもったいぶったのか、いや、ナギ姐さんと言う例があるからなんとなく察した……本当の事をいうと、もう思い出してはいたんだ。
ただ、気のせいかもしれない、ただの偶然もあるけど自信を持てなくて言えなかったんだよね。
「もうあんたに会うのもこれで最後かもしれないわ……」
最後、ね。
そんなもの憂鬱気な顔をされても似合わねえよ。
「へぇ、そいつは残念。ジーザスのクソッタレ!と念じても、何も起こらなくなるのか……」
「あんた、いったい今までどんだけ私の事を罵倒してきたのよ!?」
「そりゃ例えどんな奴が神だろうと祈るさ」
「……祈る、とは?」
「そりゃ良いことがあればありがとう、それ以外はクソッタレと言う訳さ?」
「へぇ? そんなあんたに女神の加護でも授けようかしら?」
「ほう、それはどんな?」
ジーザスは今にも吹き出しそうなくらいに頬を緩め、笑みを浮かべながら口を開いた。
「キャプテンのクソッタレ!」
ご丁寧に眩しい最高の笑顔をお供に、両手の中指を突き立てやがって……これには思わず大笑いせざるおえない。
「「HAHAHA!」」
「全く、一本とられたな。ジェニファー、最高の加護だぜ!」
「やられっぱなしなんて嫌だもんね! 全く、あんたって人は……ま、いいわ。それよりも極東の魔女との旅はどうしたのよ?」
「あぁ、音楽性の違いで別れた」
本当のところは勇者がやって来た際、二人そろって油断しきっていた為に全裸で応戦する羽目になり、このままではいかんと言うことで解散して本国に帰ることにしたのだ。
東方の蛮族のナギ姐さんは海路で東へ、俺は陸路で元来た道を戻るその途中、山賊すら現れず退屈だったのでここに寄った。
ジーザスは全て見透かしたような目でこちらを凝視し、溜息を一つ吐かれたので嘘はバレバレのようだ。
「嘘つき……でも、お土産ありがとう……キャプテン……」
素直に感謝を述べるなんてね。ジーザスも成長してなによりだ。
いいや、サマーフィールド上等兵。
前世でお前はさ、下士官に昇進してから退役して、聖職者になって恵まれぬ人々を救うんだ……そんな夢を語っていたよな?
運悪く志し半ばで倒れ、前世では叶わなかったけれど、少し形は違うながらも夢を叶えたようなものだよな?
クソッタレな女神見習いになってな!HAHAHA!
「でもね……今度お土産を持ってくる時は……」
こちらが勝手にしみじみとしていれば、何か注文をつけたいようだ……まぁ言いたいことはわかっているよ?
「「勇者の首だけは勘弁しなさい!……」」
上手く重なりを描いた次はお約束。
「「HAHAHA!」」
「キャプテン……やっと、やっと思い出してくれたのね?」
「ああ、ようやくな……うん、マジで耳たぶの件は本当にすまなかった!」
「本当よ! あんたなんて最低最悪のクソッタレよ! なんでキャプテンにオウンゴールされなきゃいけないのよ!? クレイジーよ!……全く、キャプテンを相手する奴の気持ちがよく理解できたわ?」
「「HAHAHA!」」
「全くだ、そんなクレイジーな奴、俺だったら関わり『最っ高にイカした自己紹介ね!』……うん、わかってるよ、ジェニファー」
「はあ……全く、悪いけどもうあんたに出来るサービスなんて無いからね?」
「いいさ、前世でいっぱいサービスしてもらってるよ……聖職者志望のお前からさ?」
「うっ、うるさいわね! 汝、姦淫することなかれ! 前世だから無効よ! 無効!!」
「今は?」
「クビと首が飛ぶから遠慮しとくわ?」
「それは勿体ない」
「「HAHAHA!」」
「……だけど、キャプテン……ハグぐらいはいいわよ? 前世じゃ挨拶……でしょ?」
「おう、メリケン小娘らしいぜ、全く……サマーフィールド上等兵……」
「キャプテン……」───。
◇
【再掲&打ち切り】チート魔王とチート嫁が異世界にて -two fates その願いが罪だと言うならばー あら フォウ かもんべいべ @around40came-on-babe
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