第14話 SIDE 月夜3

「今回においては掟を破らせてもらおう。」




そう、キヨオニさんがいった瞬間、空気がずんと重くなった。




「そうか・・・ならここでその侵入者とは違い、亡きものにしてくれる!」


そう言って、アマノという人と、その後ろに6人のお庭番の人が短刀を構えた。




「ふん、そっちこそ訓練もろくにしていないその腕で、我らを倒せると思うのか。幸い、我らは女。子を作るなり、養子を取るなりすればこの仕事を続けることは容易いだろう。いくぞ!シヅル。ツチグモ!」




「「承知!」」




そう言って、キヨオニさんとシヅルさん、ツチグモさんが短刀を両手に構えた。




ゴクッ。


すぐそばにいる私はこの重い空気に身動きが取れなかった。




カサッ。木の葉が音を立てた瞬間、キヨオニさんが率いる女チームが短刀を一斉に男チームに放った。


キンッ。キンッ。キンッ。キンッ。キンッ。キンッ。




「ふん、大口叩いた割にこの程度かキヨオニ!」


そう、男たちの前にはキヨオニさんが立っていて。男たちは無傷。全て弾いたようだ。




「3」




「ん?」




「2」




「ほお、必死の抵抗かぁ。声が小さいぞぉ。」




「馬鹿め。1!」




ドンッ。ドンッ。ドカーン。




突如、男たちが弾いた短刀から爆発が起きた。




「ぎゃぁぁぁ。」


「な、なにをしたキヨオニ〜!」


男たちの半数は火に焼かれ、苦しんでいた。




「・・・言わなくても察しろ。バカが。これは私達が開発した暗器だ。柄の部分に爆薬が。刃には火花でも引火するように引火しやすい油を塗ってあった。お前らが、街に降りて娼館にいって遊び歩いている間に、我らは自分たちの戦い方を身に着けたのだ。」




「なるほどね。だが、それでも我らにはこいつ人質がいる!」


そう言ってアマノというやつと他の人がこっちに向かって走ってきた。




え?




「クッ!シヅル!ツチグモ!すぐにツキヨのところにいけ!」




「「わかりました!」」




「させませんよ。おいお前達、足止めしろ!」




「「「御衣」」」




「邪魔です!」




ドウっ!


ガッ!




その瞬間。私の首に黒い刃があてがわれた。




「ヒッ。」




思わず声が出たが仕方がないだろう。




「動かないように。動いたらこの第一王女の命はありませんよ。」




「クッ。卑怯者!それでも御庭番か!」




「フフフ、娼館のような場所で遊び歩く我らに誇りもありませんよ。あるのは肉欲のみ。」




ところで今この人、私のこと第一王女って。何で知ってるの!




「ふふふ、気になりますか。私がなぜ貴方のことを知っているのか。それはですね、貴方のお父さんから聞いたんですよ。」




嘘でしょ。まさかお父さん、私を売ったの!?




「そんなわけない!あの人は自分の娘をお前らに売り渡したりはしない!」




何故か、キヨオニさんが私のお父さんを援護した。よく見たら他の二人もだ。何で?




「キヨオニの立場としてはかばいたいですか。17年前にあのようなことをされたのによくそんな事できますねぇ。ここにいる第一王女の母であり元第三王妃、セイキ!」




・・・え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!あ、あの人が私のお母さん!でもお父さんは私を産んで数年後死んだって。




「ど、どうしてそのことを。その事は、あの人も知らないはず。」




「簡単ですよ。私は見たんですよ。貴方がここと王城を行き来するのをね!おまけに貴方が出てきたのは王城の王様の窓。朝方に出てきたら、なにがあったか理解するのは容易いですよ。そしてその後、貴方が数年間修行と言っていなかったときあの王様が第三王妃を娶り、その数カ月後に第一王女を第三王妃が産んだ。これだけわかっていたら、猿でもわかりますよ。」




「そ、そうだ。その子は、たしかに私が産んだ子だ。右手に桜の痣があるだろう。それが証拠だ。」




た、たしかに私の右手にそんな形の痣はある。けどそんな。




「だ、だからその子を離してくれ。代わりに私が何でもする。」




「ほお、なんでもですか。なら、・・・【バインド】。」




「クッ、なにをする!その子を離せ!」




「あなた達は見てるだけでいいですよ。自分の愛娘が汚されるのをねぇ。それに私以外の部下を倒したのも癪に障ります。せいぜい、そこで泣き叫ぶがいいですよ。あぁ、安心してください。この子が壊れたら、一緒に母子性奴隷として売り出してあげますよ。」




「コンの鬼畜がーーーーー!離せ!離せ!」




「ふ、見苦しいですね。さあ、私が快楽の沼に引きずり込んであげましょう。」




プチッ。


パチパチ。




「クスッ。もしかして怯えてるのですか。安心してください。そんな感情もなくなりますから。」




「ツキヨーー!今すぐ逃げろーー!私がなんとかするー!」




「雷血闘 一の技」




「ん、どうかしたんですか?懇願ですか?」




「早く逃げろーー!」




「雷獣!」


ボコッ!




私の紅い閃光をまとった拳が虎の幻影を残しながら屑野郎アマノとかいうやつを吹っ飛ばした。




ドンッ。


「ギャッ。」


屑野郎は大きな岩にぶつかって、気を失った。




パラッ


「あ、ツキヨ。大丈夫!?」


そう言ってキヨオニさんは抱きついてきた。後ろの二人も縄は解けているが、疲れて気を失っている。




「え、ええ。キヨオニさんは大丈夫ですか。」




「ええ、大丈夫よ。けどキヨオニさんなんかじゃなくて、お母さんって呼んでいいのよ。」




「そ、それはまだ遠慮があるというか。それよりもお父さんとは・・・。」




「そうね。さて、だいたいのことはあの男が話したから、私はその後のことを話すわね。貴方を産んだあと数年間は幸せだった。けど、第三王妃という立場は私から何もかも奪った。貴方も自由もそして、あの人も。数年後、あの人は神々からの指令を受けて子供連れのほうがいいという理由で貴方を連れて行った。その後、国王がいなくなった、私は元々評判が悪くなかったので虐められた。そして日常的に命を狙われるようになった。ある日、そこにいる、シヅルがメイド服から短刀を取り出して殺そうとしてきた。幸い私は手に覚えがあったから制圧しなおした。殺し屋にとって、失敗は死だ。死のうとしたのを止めて、私の死体の代わりを用意させて、私とともに生きる選択をさせた。そして私は修行の成果として、シヅルの仲間のツチグモを土産に戻ってきたというわけだ。」




そうなんだ。私にお母さんの記憶がないのは、そのせいか。




「助けてくれたありがとう。キヨオニさん。けど、お父さんは許さない。実の娘を売るだなんて。」




「それねぇ、確かに、あの人は馬鹿だし、なかなか抜けてるし、よくあんなんで国王になれたなと思うけど、そんなことをするようには見えないのよねぇ。」




「ええ、私と暮らしてたときも騙されたりはよくあったけど、人に故意に悪いことをすることはなかったし。・・・故意じゃないのはよくあったけど。」


私は、お父さんのせいで危うく、レタスとキャベツを間違えた状態で学校に持っていく寸前になったことを思い出した。あのときも虹輝が確認してくれなきゃ、危なかった。




そう思っていると、キヨオニさんが笑いだした。


「ふふふ。ふふ。やっぱりそこは変わらなかったのね。となると、やっぱりあの人が無神経になにかしたのでしょうね。あの男を起こして聞いてみましょう。」




そう言ってキヨオニさんは、男に近づいていった。




「けど、起こしたら危険だよ。」




「大丈夫よ。【バインド】ほら。」


男の体は血の結束で縛られていた。




「その魔法?って、誰でも使えるの?お父さんも使っていたけど。」




「ええ、種族によって差があるけど、私達の拘束魔法は、種族の中でも2位の拘束力よ。ちなみに1位は森族ね。あの人達は、自然のものに魔力をまとわりつかせて拘束するの。」




「へぇ、そうなんだ。後で教えてくれない。使いたい相手がいるから。」


そう、この魔法を虹輝に使えば簡単に押し倒して既成事実を作れるだろう。




「ええ、いいわよ。それよりもまずは起こさないとね。」


そういうと、キヨオニさんはクナイのようなものを液体の入った瓶につけてから、一気に液体が滴るクナイをアマノの太ももに突き刺した。




「:^\ー@:;:;@!""#$#%*`*_*_`!!!!!」




声にならない悲鳴を上げて起きるアマノ。顔には汗が吹き出しており、太ももからは血が流れている。




「・・・何をしたのですか、キヨオニ。拘束されているのは理由も含めてわかります。ですがこの無駄に痛いクナイはなんですか。」




「このクナイは至って普通のクナイ。けど塗ってあるものが異常で、エンジェルトランペットの蜜なの。」




そう言われた直後アマノの顔色が青から白、黄土色へ変化した。


「そ、そんなものを使われたら私の足は・・・。げ、解毒剤は、ど、どこに。」




「解毒剤は、ここにあるわよ。けど、欲しいなら質問に答えなさい。王様はあんたになんて言ったの。嘘はつかないように。ついたら、この宝玉が赤から緑になるわ。一度でも変わったら、この解毒剤は、そこらへんの草にでも撒いてあげる。」




キヨオニさんは赤の宝玉を掲げながらそういった。




「わ、わかった。正直に話します。実は王様から、第三王女が今日この道を通ることを言われたのです。」




お父さん...そんな。




「それで王様はなんて言ったんだ。一語一句たださず言え。」




「王様は、私の可愛い娘がこのあたりを通るから、手を出さないようにと。」




・・・は?




「へ?そ、それで王様は他に?」




「その後は、自分の娘の可愛さを小一時間ほど語った後、王城に帰っていきました。」




「ということは、王様はお前に第三王女の安全を頼みに来たのに、お前らはその王女を襲おうとしたわけか。・・・屑だな。」


と、吐き捨てるようにキヨオニさんはいった。




「う、うるさい!そんなことより、解毒剤だ。早く解毒剤をよこせ。」


そう言って、アマノさんは手を伸ばして叫んできた。




正直言って、こんな奴に解毒剤を渡さなくてもいい気がしてきた。ところでエンジェルトランペットの密ってどんな効果があるのだろうか?




クイクイ


「うん、どうかしたしたの?」




「キヨオニさん。エンジェルトランペットの密って?」




「ああそっか、ツキヨは知らないのか。エンジェルトランペットの密っていうのは、」




「おい、そんな奴よりも、さっさと解毒剤をしなさい!私の足が駄目になるでしょう!」


と、話をぶち切ってきたやつがいる。どんな毒性だとしても渡さなくていいんじゃないかな。




「ッチ!うるさいな。娘ツキヨとの時間を潰して、ほらこれだ。」




そう言って、キヨオニさんは解毒剤を渡した。




「ふん、私の足が治ったら、屈辱的な目に合わせてやる。」


そう、言った後クナイを抜いて、瓶の中の薬をかけた。


「早く治りなさい。早く治りなさい。」


と言いながら。




「さて、エンジェルトランペットの蜜はな、毒で、侵されたら一時間以内に解毒剤をかけないと、患部から神経がはたらなくなっていき、血流も止まっていくんだ。部位欠損ではないから、治癒魔法でも最上級以上じゃないと治らないの。そして解毒剤はすぐに効果を表す。・・・本物ならね。」




「え、どういうこ..「どういうことだキヨオニ!」と?」


私が疑問に思い、訪ねようとしたとき、突然声が上がり遮られてしまった。




「こ、この解毒剤全く効かない。本物でしょうね!」




「もちろん。本物の、クロユリの蜜の解毒剤ですよ。」


口元に笑みを浮かべながらそういった。




「な!言ってたことと違うじゃないですか!」


焦りながらいうアマノ。




「ほぉ、私の言った言葉を思い出してみるがいい。それが、エンジェルトランペットの蜜の解毒剤なんて言ってないぞ。」




私は思い出してみる。






『解毒剤は、ここにあるわよ。けど、欲しいなら質問に答えなさい。王様はあんたになんて言ったの。嘘はつかないように。ついたら、この宝玉が赤から緑になるわ。一度でも変わったら、この解毒剤は、そこらへんの草にでも撒いてあげる』




うん確かに言っていない。




「そんなことより、貴方そんなところにいていいの?言ったわよね。それはクロユリの蜜の解毒剤って。」




そう言われた直後、アマノの顔が黄土色から緑色に変わった。




「キ、キ、キヨオニ〜。私を殺すきか!」




「あら、先に殺そうとしてきたのは貴方でしょ。それに、エンジェルトランペットの蜜とクロユリの蜜の解毒剤が合わさったもの。まぁ、世間一般的にはヘカテの花と呼ばれているけど。その毒性は貴方が知っているでしょ。」




「は、はやく。ヘカテの花の解毒剤を。」




「ふふふ。あれは確か・・・私の部屋の机の上ね。ここから歩いて20分はかかるわね。」




「そ、そのくらいなら。覚えとけよ。キヨオニ!」


そう言ってアマノは去っていった。




「ねえ、ヘカテの花ってなんですか?キヨオニさん。」


私は聞いてみた。




「う〜ん。教えるのはいいけど。条件があるわ。」




「な、なんですか?」




「私のことを、キヨオニさんじゃなくてお母さんて呼んでくれない。」


頬を赤く染めながらそういった。




「え。」


私は驚きのあまり声を上げてしまった。




「あ、い、嫌ならいいのよ別に。特に知らない人からお母さんなんて言われても混乱するだけだし、それに‥‥」




ギュッ




「ど、どうしたのツキヨ。」




私は抱きついたまま言った。


「・・・ありがとう。私を産んでくれて。私を守ってくれて。お・母・さ・ん・。」




「つ、ツキヨ。ぐすっ。こっちもありがとう。ぐすっ。お母さんって呼んでくれて。もう。ぐすっ。呼ばれることはないかと......。」


そのままキヨオニさん。いやお母さんは泣き出してしまった。


私は、抱きついたままお母さんの背中を撫で続けた。




































「さて、ヘカテの花とは、簡単に言うと2つの毒と薬が混ざった毒で、使用後一時間で、死に至る毒。あまり知られていないっていうか、私達しか知らない毒物なの。」




「へぇ、じゃあなんで、あんな奴に解毒剤の場所教えたの?」




「それはね。ヘカテの花は徐々に脱力していく毒で普通に歩いて20分の距離なら大体50分はかかるの。それに私の部屋には、罠が大量にかかっているし。結局、あいつは死ぬの。」




・・・。死。この世界では当たり前のこと。命を奪うか奪われるか。なれなければいけない。なのに・・・。




「ッ!よしよし。大丈夫よ。なれていけばいいの。」


顔を青くしてうずくまってしまった私をお母さんは、落ち着くまで撫でてくれた。










「落ち着いた?」




「うん。ありがとう。お母さん。」




「いいのよ。さて、まだ話していたいけど、そろそろ行ったほうがいいでしょう。」




「お母さんはどうするの?」




「貴方が抜け出したと知られたら、この場所のことを知っている人は此処にくるでしょう。そして私達のことも知っているはず。なので、御庭番は全員死んだことにします。」




「え!じゃ、じゃあお母さんはどうなるの。死んじゃうの。」




「いいえ、今シヅルとツチグモが死体を持ってきているの。私達は、それを身代わりにしてどこか遠くの国に行くわ。」




ガサッ


「「キヨオニ様。ただいまお持ちしました。」」




タイミングよくその二人が来た。




「じゃあ、その死体を、そこにおいて。他の奴らは生きてる?」




「いえ。全員死んでます。」


とシヅル。




「アマノも死んでました。」




「わかったわ。じゃあ、衣装を着せてくれる。」




「「了解」」




「さて、そろそろお別れね。ここから、あっちの方向に300メートルほど進むと、池があるわ。息を止めて、いきたい場所を思い描きながら潜って、そこにある鳥居をくぐるの。そうすると着くわ。」




「わかった。お母さんまた会えるよね。」




「ええ、きっと。」




「準備できました。」




「そう。ありがとう。ツキヨ。」




ギュッ。




「さよなら。」


そう言い残して、お母さんとシヅルさんたちはいなくなった。




「・・・ありがとう。お母さん。さて、虹輝。待ってなさいよ。」




そういう月夜の周りには男女ともに10人ほどが転がっていた。全員が黒のマントに赤の刺繍をしていた。










「わぁ。きれいな池。池っていうか湖じゃないこれ?」




さて、お父さんの手帳は、服の内側に入れて。




すうっ。




(虹輝のところに行きたい!)




ドプンッ。




(あ、あそこね。虹輝のいるところ。虹輝のいるところ。虹輝の...キャッ)




突如強い水流がツキヨを飲み込み、消えてった。




「ガポッ。ゴポッ。」




(うう、苦しい。でも虹輝のところに行きたい!!!)




突如視界が開けた。




目の前には青い空。眼下には、街があった。きれいに区画整理がされた街だった。




「ここに、虹輝がいるのね!」




私は肉体的にも精神的にも疲れていた。なのに、気力は充分だった。




「待ってなさい、虹輝!絶対に私と一緒に生涯を過ごさせるんだから!!!」




ここは、異世界。ティーガーデン。魔法と剣と争いがある世界。二人が出会うのはいつになるのか。そして虹輝は、無事に済むのか。

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剣と魔法とモフモフと〜現実世界で大切な人と穏やかに暮らすため、剣を振るう〜 梟 森 @1318

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