第3話 魔王復活
温もりが注ぎ込まれ、それが体内の隅々にまで満ちる。
――目覚めよ、マガート――
その声に導かれ、魔王マガートは目を開いた。
「誰だ、このわしを目覚めさせた不遜のやか……」
そこでマガートの言葉が途切れる。目の前にいたのは、謎の腰みの集団だった。
「復活した……!」
「マガートがついに!!」
「やったぁああああ!!」
ボロボロの腰みの集団は、歓喜の涙を流しながらマガートへ飛びついてくる。
「なっ!?」
「長かった、長かったよ……!」
「マガート、待ってた……!!」
「ぇえ~……?」
状況が把握できず、ただただ困惑するマガート。
「! 貴様ら、よく見ればわしを封印した勇者一行ではないか! なぜそんな珍妙な姿に」
「お前のせいだろうがっ!!」
間髪おかず、セイヤの拳がマガートの脳天に落ちる。
(ぇえ~……?)
歓迎されたり殴られたり、意味が解らない。
(なんだ、このメンタル不安定な勇者一行は……)
戸惑うマガートの首筋に、セイヤが聖剣の刃を当てる。満面の笑みで。
「マガート、俺らの呪い解いて?」
「……は?」
「いいから解けっつってんだろうが! 首落とすぞぉお!!」
「セイヤさん、少しお待ちになって」
ピアが前に進み出る。
「魔王マガート、まだ寝ぼけていらっしゃるようなので、わたくしから説明いたします。あなたは3年前にわたくしどもによって封印されました。その今わの際に、わたくしどもに惨い呪いをかけたのです。生涯下半身が布に覆われることのないようにと」
「あー……、そんなことも言った気がするな」
「そんなこと?」
ピアの柔和な顔に、青筋が浮かんだ。
「この3年間、わたくしどもがどれほどの辛酸をなめたと思ってるんですか!? それをそんなこと!? そんなことですって!?」
「わしを集団でボッコボコにして封印したお前らが言えた義理か!!」
「まぁ、そんなわけでさ」
アザミが苦無の先でマガートの首筋をつつく。
「アタシらにかけたその呪い、解いてくんない?」
「……わしが呪いを解けば、その後はどうなる?」
「わたくしどもが再びあなたを封印いたします」
「なめてんのか」
マガートは憤慨する。
「それを聞いて、誰が呪いを解いてやろうという気になる。解いても封印、解かなくても殺されるならいっそ……」
マガートの赤い口が裂けた。
「上半身にも同じ呪いをかけてやるわ」
「ぐうっ!?」
腰みの集団から裸族集団へのクラスチェンジを想像し、勇者一行が歯噛みする。
「卑怯だぞ、マガート!!」
「うっさい! 命を奪おうとしている輩どもに言われたくないわ!」
どうあがいてもこの呪いは解かれない。一行の心に絶望が忍び寄った時だった。
「取引をせぬか、勇者どもよ」
「取引?」
「呪いは解いてやろう。その代わり全員わしの手下となれ。貴様らが殺した四天王の代わりにな」
「僕たちに人間を裏切れとおっしゃるんですか!?」
「今更であろう? わしを復活させるために貴様らはどれだけの命を奪った?」
「それは……」
「この3年の間に何があったかは問わぬが、貴様らの姿からある程度の想像はつく。……人に、守る価値などあったか?」
「うっ……」
人々に疎まれることとなった諸悪の根源は間違いなくマガートなのだが、民から受けた仕打ちの数々は勇者一行の心を完全にむしばんでいた。
「わしの手を取れ、勇者どもよ。さすれば貴様らにパンツを返してやろう……」
王都の大司教が暗い表情で、王の前へと進み出た。
「魔王マガートが復活いたしました」
「なに……!?」
「かつてマガートを征伐するために集った勇者一行は、既に魔王の手下となり果てた模様です」
「嘆かわしいことだ……。あれほどの実力者たちが敵に回るとは。腰みの姿で帰還した際に、処刑しておくべきであった」
王は玉座から立ち上がる。
「国中に触れを出せ! 魔王討伐を成し遂げる新たな勇者を募るのだ!!」
――完――
目指せ魔王復活! いつかパンツを履く日まで! 香久乃このみ @kakunoko
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