第2話 守るものと価値

「とりあえず尻は隠せたものの……」

 勇者一行はため息をつく。

「やっぱりこの姿で一生というわけにはいかないよなぁ……」

 魔王城での最後の戦いのため、セイヤたちは最高レベルの装備を身に着けていた。つまり上半身は立派な装備、下半身は腰みのというかなりアンバランスな姿となっている。

「いっそ、上も脱いでバランス取るか。南国風装束ってことで」

「嫌ですよ、筋肉のあるカードナーさんやセイヤさんならその姿も似合うかもですが。僕、これですよ? この貧相な体、世間に晒したくありません!」

「わたくしも、露出度の高い服装はちょっと……」

「あと、パンツ履けないのが心もとないよねぇ」

 アザミがため息をつく。

「アタシの戦闘スタイルは、空中を跳ねまわってからの攻撃だからさ」

「あぁ、下から丸見えってことか」

「デリカシー死んでんのか、セイヤ!!」

「俺も……」

 無口なガードナーがさらに重い口を開く。

「これでは蹴り技が……、無理だ」

「ぼ、僕だって、風魔法が使えませんよ。裾がはためいたりしたら、大変なことに……」

「……わたくしも、同じく」

 魔法攻撃がメインのウィットリーとピアが頭を抱える。

「クッソしょうもない呪いだが、間違いなく俺らの戦闘力削いだよな、マガートのやつ」

「なぁ、ピア。アタシらにかけられたこの呪い、解く方法はないのかよ?」

「ないわけじゃありませんが……」

「おっ? あるのか!?」

「呪いはかけた当人でないと解くことが出来ないとされています」

「当人って……、マガートは封印しちまったじゃねぇか」

「……」

 ピアが秘石を取り出した。

「……封じましたが、この世から消え去ったわけじゃありません。マガートはここにいます」

「え、ピアさん、まさか……」

 うろたえるウィットリーに、ピアは泣きはらし赤くなった目を向けた。

「マガートを復活させ、呪いを解かせる以外にありません」


§§§


 まずはマガートとの戦いで満身創痍となった体を休めようと、魔王城に最も近い村へと戻ってきた一行だったが。

「ねぇ、ちょっと……」

「見てよ、あれ……」

 上半身は立派な装束、下半身は腰みのという姿のセイヤたちに向けられる目は、温かさからほど遠いものだった。

「うぅ、視線が冷たいです……」

「ははは……。かなりヒいてるよな、やっぱ」

「完全に、関わってはならぬものを見る目だ……」

 ウィットリーは、上背があるガードナーの後ろに隠れようと身を縮める。

「くすん、やはりあの場で生涯を終えるべきでした……」

「だから早まるなって、ピア」

「あのぅ……」

 恐る恐ると言った風情で、村長がセイヤに話しかけてきた。

「勇者様ご一行でしたな? 数日前にこの村に宿泊された」

「あ、はい! 覚えていてくれたんスか!」

「……魔王との戦いはいかがなりましたか?」

「安心してくれ、村長さん。無事俺たちが封印してやった! 脅威は消え去ったぞ」

「……そう、ですか」

 村長は悲し気に首を横に振ると、それだけ言って立ち去ってしまった。

「あれ? 喜んでない? つか、お礼もなし?」

 戸惑う一行の耳に、村人の囁く声が聞こえてきた。

「……かわいそうに。きっと道半ばで敗北した挙句、精神攻撃を受けてしまったのね」

「そうよ。だって、あんな姿で平気な顔してるなんて……」

「おいぃいいい!!」

 思わずセイヤは声を上げる。軽いツッコミのつもりだったが、その声を耳にした村人たちはサッと顔色を変え、めいめいの家へと飛び込んでゆく。固く扉を閉ざす音がし、通りには勇者一行のみが残された。

「……マジかよ」

 一行は呆然と辺りを見回す。

 泊るつもりだった宿にも「CLOSE」の札がかかっていた。


§§§


「パンツを取り戻すには、魔王を復活させるしかないのか、ピア」

 別の村にまで足を延ばしたものの、そこでも一行は人々から拒絶され、仕方なく野宿をする羽目となった。

「……」

 昏い瞳でうなずくピアに、セイヤは更に問いかける。

「で、方法は?」

「……!」

「魔王を復活させる方法は知っているのか?」

「それは……」

 口ごもるピアの代わりにウィットリーが先を続ける。

「マガートを封じた秘石に、生贄の魂を捧げるんですよ」

「生贄の魂!?」

「はい。僕らが倒した魔王城の四天王も、そうやってマガートを復活させたのです」

「生贄を捧げるって、具体的にどうするんだ……」

「出来るだけ多くの命を奪い、秘石にその魂を注ぎ込むんです。人でも魔獣でも」

「……。それ以外、方法はないのか」

「ありません」

「……」

 空気がずんと重くなる。

「……さすがにそれは出来んな」

 ガードナーの低い声に、一向は力なくうなずく。

「痩せても枯れても、俺らは勇者だ。人々の笑顔と幸せのためにこれまで命がけで戦って来たんだからな」

 ぱちんとはぜる音が炎の中からした。

「たとえ、こんなみじめな姿で一生を過ごさなきゃならないとしても。人の命を奪うなんて、俺たちにはできっこないよな」


 勇者一行は、魔王を退治した報告のため王都へと向かった。ゆく先々で、奇異の目で見られ、冷遇され、嘲りの声を浴びながら。

 そして王都に至り、王への謁見の申し入れを断られた時、ついに勇者一行のメンタルは限界に達した。

「なぁ、みんな」

 セイヤが声を震わせ口端をひくつかせながら仲間をふり返る。

「あいつらにさ、俺らのパンツ以上の価値ある?」

 仲間たちは一様に首を横に振った。

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