目指せ魔王復活! いつかパンツを履く日まで!

香久乃このみ

第1話 おぞましき呪い

 魔王城の最奥、謁見の間で、勇者一行と魔王マガートは睨み合っていた。互いに満身創痍、肩で息をしつつ立っているのもやっとの状態だった。

 だが、死力を尽くした最後の一撃は勇者セイヤがわずかに勝った。

「マガートぉおお!!」

 マガートの胸に、セイヤの剣がずぐりと飲み込まれる。

「ぐぉおおおお!?」

 反撃せんと振り上げたマガートの腕に無数の苦無が突き刺さる。

「させやしないよ、マガート!」

 傷だらけの頬にアザミは皮肉めいた笑みを浮かべる。その横を、巨体には似合わぬスピードでガードナーが駆け抜けた。

「終わりだ、魔王!」

 地鳴りのような雄叫びと共に、重い一撃をマガートに叩き込む。

「今だ、ウィットリー! ピア! マガートを封印しろ!!」

 マガートの胸に剣を突き立てたまま、セイヤが仲間を振り返る。

「わかった!」

「任せて!」

 ふらつきながらも黒いローブのウィットリーが鏡を、白い僧衣のピアが秘石をそれぞれ掲げる。

「ぐおっ!?」

 鏡から放出された光がマガートをぐずぐずと粒子へ変えた。そしてそれらは秘石の中へと吸い込まれていく。

「やめろ、やめろぉおお!!」

 ジリジリと体を失いながら、マガートはもがく。やがて残すは頭部のみとなった時、マガートは最後の力を振り絞り、勇者一行に呪詛を吐いた。


「貴様らの下半身が、生涯布に覆われることのないように!」


 その言葉の終わりと共に、魔王マガートは完全に秘石の中へと封印された。

 と同時に、勇者一行の下半身が丸出しとなる。

「え?」

 状況が飲み込めず、呆気にとられるセイヤたち。最初に悲鳴を上げたのは、プリーストのピアだった。

「いやぁあああああ!!」

 眼鏡の奥の瞳に涙を浮かべ、真っ赤な顔でその場にへたり込む。

「なんなんですか、これぇえ!!」

「う、うぉ!?」

 続いて声が出たのも女性メンバーのアザミだった。色仕掛けなども得意とする暗殺者ではあるが、心の準備のないまま尻丸出しにされればさすがにうろたえる。ボブカットの艶やかな髪が真っ赤に染まった顔に降りかかる。

「お、お前らっ! お前らも隠せっ!! 前っ!!」

 アザミに言われて男メンバーもようやく理解する。自分たちの腰から下部分が究極の無防備状態であることに。

「っ!?」

「えっ、ちょっ……!」

「なんなんだ、これはーー!!」


§§§


 一行はうろたえながらも、何とか少しでもましな姿になるよう奮闘した。

 だがマントを巻けば、巻いた瞬間消滅する。長い丈の上着を伸ばして下半身を覆おうとしても、腰から下の部分がやはり消滅する。

――貴様らの下半身が、生涯布に覆われることのないように!――

「なんつー呪いをかけやがったんだ、あのくされ魔王!!」

 セイヤは叫ぶが、どうにもならない。

「ふっ、うぅう~……」

 聖職者で女性のピアは特に耐えがたいらしい。涙をボロボロ零しながら泣きじゃくっている。

「こんな……、こんな辱めが一生続くくらいなら、いっそこの場でこの命……!」

「待て待て落ち着け、な!? アタシも同じ状態だから! アンタだけじゃないから!」

「うっうっ、うぅう~……」

 アザミの胸に縋り付き泣き崩れるピアを見て、ウォーロックのウィットリーがあることに気づく。

「皆さん、ピアさんの腰回りをよく見てください」

「ヒッ、やだ! 見ないでっ!!」

「わわっ、すみません! いや、そうじゃなくて……」

 ウィットリーは片手で目を覆いつつ、もう片方の手でピアの腰を指した。

「ピアさんのベルト、組紐で出来ていますよね? で、それが腰の下まで端が垂れ下がってるんですが、消えていないんですよ」

「なに?」

「ガードナー、見るなつってんだろ!」

「っ! す、すまない、アザミ……」

「どういうことだ、ウィットリー?」

「思い出してください、マガートの最期の言葉を。『布に覆われることのないように』。つまり布でなければ良いのではないですか? 例えばあの組紐のようなものでぐるりと腰回りを覆うとか……」

「それだ!」

 一行は紐という紐を探して魔王城の中を駆け巡った。足りない部分は、魔王城周辺に生えている幅の広い葉やつる草などで代用した。

 数時間後、勇者一行は怪しい腰みの集団となり果てていた。

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