第3話

 るりが中学一年生の春だった。

 前日とまったく同じ授業が始まった一時間目には、中学の先生でもこんなミスをするんだと軽く考えていた。二時間目もそれが続き、三時間目が始まる頃、気づいた。

――もしかして同じ日を繰り返してる?

 その日は金曜だったが、木曜の時間割で授業が進んでいた。各教科担当の先生もクラスメートも何も疑問には思っていないようだった。

 怖くなって友人には言えず、気のせいかもしれないと思い込んだ。給食に出た白身魚のフライは気分が悪くなって食べきれなかった。

 夜、自分の考えが確信にさらに近づいた。生放送の音楽番組で歌うミュージシャンがと同じ歌詞の間違いをした。

 もしかすると自分はこの一日をずっと繰り返すんじゃないかと不安になり、シーツで涙を拭った。

 いつの間にか意識を失い、朝を迎えた。大急ぎでテレビをつけると、朝のニュース番組の左上に金曜の文字を発見した。

 あの安堵感は今でも覚えている。

 それからだいたい一ヶ月ごとに、を繰り返すようになった。

 二度目こそ慌てたものの、三度目には期末テストが重なり、密やかに喜んだ。

 どうやら自分の生理周期と関係がありそうだと気づいたのは一年ほど記録が溜まった頃だ。初潮や間隔の不規則さから、排卵のタイミングと想定するのがいちばんしっくりきた。


 不思議な現象だったが、少しずつ折り合いをつけて生活できるようになっていった。タイミング次第でいろいろと悪用もした。

 変化があったのは、大学に入って初めての恋人とセックスをしたあとだ。

 その頃には毎朝、携帯電話の日付をチェックするのが習慣になっていた。だいたい予想したとおりにが訪れたと思ったが、一日ズレがあった。日曜がもう一度来るはずなのに、液晶ディスプレイにはSATと表示されていたのだ。

 戸惑ったが、一度過ごした土曜が繰り返されただけだった。

 日曜には一度目と同じようにデートをした。

 あの期待外れのハリウッド大作を二回も観るのはキツい。別の作品に変更するようお願いしようと思っていたところに、彼から似たような提案を受けた。

「なんで? 楽しみにしてなかった?」

 るりの疑問に彼は口ごもった。

「バカみたいなこと言っていい? 笑わない?」別の映画を観たあと、カフェで彼が言いにくそうに話し始めた。

「なんか、この土日、一回やってるんだよね。こういうのもデジャヴって言うのかな」

 素知らぬふりで聞いたが、彼がことは明白だった。自分のことを打ち明けようか悩んだが、気のせいじゃないかと濁してその日は別れた。

 今度はセックスはしなかった。

 彼を避けているうちに、関係は終わっていた。

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