第1話 好奇と嘘と罪悪感と


初めて見た。男性の股間に生えてると言われている、アレを。

話でしか聞いた事なくて、この人生の中で生で見た事は一度も無い。……そう、さっきまでは。


「(触りたい……すっごく気になる……!)」


一体、どんな触り心地なんだろう?ふにふにしてる?それともぷにぷに?もしかして意外と硬い?ラーナと同じ感じなのかな??ああ、気になって仕方ない。

近くで観察してみたい、水をかけて触ってみたい!あぁ、私の手の中に収めてみたい!!

叶うことなら、また見たい……!!





…気がついたら私は、家に戻されていた。どうやらおじさんがお母さんのところまで引っ張って、連れて行ってくれてたみたい。そんなの全く気づいてなかった。

今はお母さんと一緒に朝ごはんを食べている。


お父さんは今日は早い時間から仕事みたいで、お弁当とお母さんからのキスだけ貰って行ってしまった。

そういえば、お父さんも広場にいたのかな?人が多すぎて分からなかったけど……。


広場を離れた今でも、股間のアレが目に焼き付いて消えてない。ずーっと見えてる。凄い。

まるで、おもちゃに夢中になった子供みたいな気持ち。

いや、人の股間に生えてるものをおもちゃ扱いしたい訳じゃないけどね……。


「ラナン?ラナン??大丈夫?」

「……えっ、あ!何?お母さん」

「いや、手が動いてなかったから……体調でも悪いの?」

「ううん!なんでもないよ、ごめんね」


食べずにぼーっとしていたら、向かいにいるお母さんに心配をかけちゃった。なんだか申し訳ないけど、気になって仕方ないからどうしようもない。


…そういえば、結局みんなが広場に集まってたのはどういう事だったんだろう。

お母さんに聞いてみると、どうやら王子様がおかしなことを言っていたらしい。


「股間が見えない女性と結婚する、とか……一体どんな魔法なんだか。まともな王子と思っていたけど、少し不安ねぇ」

「そうだったんだ……」


すごいことを言ってるなあ、と思ったけど、どうやら本当に王子様がそう言ったみたいで。

そういえば、普通は男性の股間なんて見えたら恥ずかしがるのが淑女だよね。私は初めて見たから普通に気になっちゃったな……。


……そういえば、結婚ってことは王子様と夜の営み、というものをするんだよね。詳しくは聞いたことないけど、知識として“そういうこと”をするって言うのは知ってる。

その時はお互い裸になるんだよね。それなら、もしかして……?


「……触れる……?」

「え?何か言った?」

「あっ、なんでもない!」


思わず口に出してしまって、お母さんに向けて首をブンブン横に振る。危ない危ない、今言うと大変なことになったかもしれない……。


私は急いでご飯を口の中にかき込んで、出かける準備をする。

身支度して、カバンも持って、洗濯干しの小さな水たまりで朝の水浴びをしていたラーナとも合流。


「行こう、ラーナ!」


いつも通り、ラーナはケロッ、といい鳴き声で返事をしてくれる。偶然かもしれないけど、それでもとっても嬉しい。

ラーナがぴょんと高く跳ねて私の肩に乗ったのを確認して、私は家の中に戻る。


「……ん?あ、解けちゃった」


ちょっと慌てたせいで、結んでた髪が解けてしまった。改めて結び直して、準備はばっちり!

鏡は見てないけど、多分大丈夫。束ねて結ぶだけなら一人でもできる!


「……き、綺麗に結べてるよね?ラーナ」


肩の方を見れば、ケロ、とまたいい鳴き声。言葉の意味はわかってないと思うけど、気が紛れるからありがたい。

改めて私は家の中に入って、お母さんのところに声をかける。


「お母さん!私お姉ちゃんのところ行ってくるね!」

「あら、今日もお手伝い?」

「う、うん!行ってきまーす!」

「行ってらっしゃい。ヘカーラによろしく言っておいてね~」

「はーい!」


ヘカーラというのは、私がお姉ちゃんと呼んでいる人。血が繋がったお姉ちゃんじゃなくて、近所で仲のいい年上の女性の方。

親付き合いで仲が良くて、私が小さい頃から遊んでくれてるとってもいい人。

だから、この計画を話せるのはお姉ちゃんしかいない。多分、お姉ちゃんなら協力までは行かなくても笑わずに聞いてくれるかも……。


私は人の多い城下町の道を、転ばないように早足で駆け抜ける。私の家から少し歩いたところで、お姉ちゃんの“お店”が見えてきた。

お姉ちゃんは、いつもの日課でお店の前をホウキで掃いてる。


「お姉ちゃん!おはよう!」


私が声をかければ、綺麗な金髪を揺らしながら、笑顔でこっちを見てくれた。


「あ、ラナン!おはよー!」

「おはよう!突然ごめんなさい、話したいことがあって……!」

「うん、いいわよ!じゃあ二階で待ってて?」

「そんな!手伝うよ!」


私がちりとりを手に取ろうとすると、お姉ちゃんは私の方に手を置いてきた。振り返るとにっこり笑ってて、ぐっと親指を立てている。


「だーいじょうぶ、すぐに終わるから!代わりにお茶を入れてくれる?」

「…わかった!入れてるね!」


私はお姉ちゃんの好意に甘えて、渡された鍵を手に外階段を昇って二階の家の中に入る。

言われた通り二人分のお茶を入れて、椅子に座って待つことにした。


「ラーナは水浴びしようねー」

「今日も元気そうね、カエルちゃん」

「あ、お掃除お疲れ様ー!」


持ってきたいつものお皿に、同じく持ってきた小瓶の水を注いでラーナを泳がせると、ちょうどお姉ちゃんが帰ってきた。

お姉ちゃんは理容師さんで、一階はお姉ちゃんのお店になっている。家族でもよく利用してて、髪のアレンジもすごい上手。本当に尊敬できる人なの!


「お茶ありがとうね。それで、今日はどうしたの?」

「あっ、えっとね……実は相談が……」

「うんうん、お姉ちゃんになんでも言ってみなさい?」


テーブルの向かい側に座ったお姉ちゃんの、頼りになる笑顔がとっても眩しい……!私は一度、お茶を一口飲んでから改めて前を向いた。

ちゃんと言わなきゃ……。


「私、王子様と結婚したくて……」

「うんうん……うん?王子?」


私の言葉に対して、お姉ちゃんは少しだけ驚いたような戸惑いのような表情になる。


「うん、王子様」

「……ラナン、朝の広場にはいた?」

「うん!」

「うん?!その上で?!」

「その上で!」


私の頭には、あの股間のアレが浮かんでいる。そういえば顔をちゃんと見てなかったなぁ。

病弱であんまり表に出ていない王子様、という話は聞いたことあるけど……。


「あれを見た上で……?す、凄いわねラナン……。

……待って、もしかして見えてなかった……?」


あ、なんか反応がおかしいなあと思ったらそうか。普通股間を丸出しにする男の人なんて居ないから……。お姉ちゃんが戸惑うのもわかる。

そして、多分ここは“この答え”が一番というのも。


「う、うん……私、見えなかったんだー」

「…ええっ?!本当に?!」

「うん!」


嘘ですごめんねお姉ちゃん……でも見えてる上で「股間のアレを触りたくて」なんて言い出したら多分心配されちゃうよ…。

だから、本当に申し訳ないけど今回は本当のことを言わないことにする。本当にごめんねお姉ちゃん……!


「そうなのー?!そうなんだ…!え、じゃあ今日は早速お城に行っちゃうの?それなら髪のセットしようか??

というかドレス買いましょうよ!私が出すわ!」


お姉ちゃんが嬉しそうに立ち上がって、出かける準備をしようと部屋に足を向けてる……!


「えっ?!いやっ、髪はお願いしようと思ったけどドレスは大丈夫だよ?!」


確かに髪のセットはここに来た理由の一つだった。ちゃんとお金も持ってきたけど、まさかお姉ちゃんがこんなにノリノリになるとは思ってなかった!

嘘ついてる時点で凄く申し訳ないのに、お姉ちゃんの優しくて楽しそうな笑顔が私を見てくる。


「いいのいいの!飛びっきり可愛い服でお城行って、玉の輿狙っちゃいなさい!絶好のチャンスなのよ??」

「た、確かにそう、だね……」


そういえば相手は股間丸見えでも王子様。もし本当に結婚できたとしたら玉の輿。確かにアレを触るよりも大事な事だった……。


「でも、流石にドレスは……お金だってないし…」

「じゃあこれまでのお手伝いのお礼だと思って?」

「そうだとしても全然見合わないよ……!?」


確かにお店のお手伝いとかもしていたけど、お手伝いと言っても掃除とか受付とか予約を取ったりくらいの簡単なもので、お金をもらうほどじゃない。


「……私はね、ラナンのこと本当の妹のように思ってるの。姉としては、妹の綺麗な姿を見てほしいじゃない?」

「えっ……えっ……?」

「これはただのお姉ちゃんのわがままよ。……聞いてくれる?」


私の傍に来て、体をかがめて優しく微笑んでくれるお姉ちゃん。その目には裏とか嘘とかそんなのは全くない。いつものお姉ちゃんの目。

それに、妹と言われたのが嬉しくて、思わず泣きそうになっちゃう。


「っ、あ、じゃ、じゃあお願いします……!」

「はーい!…って、あらあら。今泣いちゃったら目が腫れちゃうわ、泣かないの!」

「う、うぅ…うん……!」


ポケットからハンカチを取りだして涙を拭いて。私は改めて、椅子から立ち上がって頭を下げる。


「あ、ありがとうございます……!お願いします……!」

「ちょ、そんないいのに……!」


ここまで言われてとっても嬉しいのに、本来の目的と嘘をついたことを思い出すとやっぱり罪悪感がある。目的に対してはそこまでなんだけど、嘘だけは申し訳ない……。

でも、それ以上に“王子様の股間のアレ”に興味があるのは事実。今思い浮かべても湧き出る好奇心、触りたいという欲求!


だから、こうなったら本当に、目指すは結婚しかない!

嘘だって多分つき続ければ本当になる!こうなったらとことん行っちゃう!


私は、頭を上げながら改めて決意したのだった……。




「あ、でも髪のセット代は持ってきたから払うね……!」


流石に持ってきた分のお金は渡したい。とことんやると決意したとはいいけど、また申し訳なさが膨らむから……。


「うーん、そこまで言うなら……」

「でもその代わりというか、お願いしたいことがあるの…!」

「ほうほう、なぁに?」


「あのね……」





つづく

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好奇心彼女と恥部見せ王子 ~王子の“アレ”を触るため。結婚、狙います!~ #ちぶさわ @Sayono_18

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