第14話 買い物に行こう

「……なんで……増えるのかな?」


 ソファーに仰向けに寝転びながら、俺は通帳を見て首を傾げる。通帳に記載されている額が増えているのは、通常ならば喜ばしい出来事ではある。しかし俺には、不可解でしかないのだ。毛玉に続き鬼である鬼束さんとの同居が強制的に決まってしまった。色々と物入りだろうと買い物をするために銀行でお金をおろした。すると、毛玉の時より更に一桁増えていたのだ。振り込まれる金額が増えていることも不可解なのだが、何よりもお金が振り込まれたタイミングが不可解なのだ。鬼束さんは今日、俺の家に届いた。そして、俺は先程お金をおろしに銀行へと行ったのだ。何故、俺が鬼束さんを家に住まわせるのを分かっていたのだ?まさか実家に監視されている?いや、実家には電化製品破壊神の祖父が居る。それは有り得ないだろう。最近の出来事のせいで少々神経が過敏になっているようだ。だが、お金が振り込まれるタイミングが不思議でしかない。

 更に不思議なことが、銀行から帰宅すると玄関ドアの前に荷物が置かれていた。送り主は実家からだった。まさかまた何かよくわからない物を送られてきたのかと、一瞬身構えた。配達員が居れば、受け取り拒否も出来たのだが置き配なのでどうすることも出来なかった。渋々、家の中にダンボール箱をいれると意を決しダンボールの封を切った。


「主、このような感じで大丈夫でしょうか?」


 控えめな声と共に、鬼束さんがダイニングに現れた。彼の格好は和服から、Tシャツにジーンズという現代の格好に変わっている。そう新たに実家から送られて来たダンボール箱の中身は、鬼束さんの服や生活に必要な物が入っていた。鬼束さんを送って来た後に、服を送ってくるということは俺が彼を家に置いたことを知っていることになる。だが、先程も言ったが鬼束さんと共に生活することになったのはほんの数時間前だ。だが、鬼束さんを発送した後に続くようにして服を送っている。つまり俺が鬼束さんと一緒に暮らすことを、彼の発送時に分かっていたことになる。実家はエスパーなのか?というかなんだが、実家の思い通りに事が運んでいるようでなんだが腹立たしい。

 俺は毛玉や鬼束さんについて、実家に一切の連絡を入れていない。俺も俺だが、実家も実家である。鬼束さんの服が入っていたダンボール箱に、手紙を入れてくれていても良かったのだ。しかし、手紙はおろかメモの一つも無かった。これは今年も俺は実家には帰らないだろう。


「……あの? 主?」

「……大丈夫。うん……イケメンって何を着ても似合うよな……」


 俺が年末年始の予定を決めていると、鬼束さんが怪訝そうにしながらフローリングに座った。如何やら俺が反応を返さずに、黙ったことを不思議に思ったようだ。ソファーに座り直すと、鬼束さんを見た。男子の俺から見ても、整った容姿をしている鬼束さん。Tシャツとジーンズというラフな姿が、より彼の容姿の良さを引き立てている気がする。素材が良いと、何を加えても輝くものだ。


「……? いけ?」

「格好良いって意味だよ。なあ、毛玉も烈火さんを格好良いと思うよな?」

「きゃう!!」


 現代の言葉には親しみがないようで、鬼束さんは首を傾げた。俺はフローリングから毛玉を両手で掴むと、鬼束さんの姿を見せる。すると俺の意見に同意するように、鳴き声を上げた。どうやら毛玉にも、鬼束さんの格好良さが分かるようだ。


「ありがとうございます! 主、毛玉殿!」


 元気な返事と共に、爽やかな笑みを浮かべる鬼束さん。出会いは実家からの押し付けだが、少しだけ彼との共同生活も悪くないかと思えた。


「よし、じゃあ。買い物に行こう!」


 鬼束さんの生活に必要な物は一通り揃っているが、食料は足りるとは思えない。鬼束さんは背が高く体格もいいのできっと食事の量も多いだろう。今日は天気も良いし、周辺情報を教えるためにもスーパーに行こう。

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実家から送られてくる品の癖が強い件 星雷はやと @hosirai-hayato

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