とめどない青

月白イト






「…い、おー…、おーい…、」



遠くで声が聞こえる…。それに頬に何か当たっているような気が…。


重たい瞼を開けようと、もぞもぞと動かしている合間に声の主は「ダメかー…、じゃあもっと強く殴れば良いのかな?」と言う言葉が聞こえて来たので慌てて瞼をこじ開けた。



「あ、起きた?」



目覚めると自分は横たわっていて、金髪のお姉さんに顔を覗き込まれている。




「ここ…、ケホッ、ゴホッ…」



ここはどこと聞こうとしたのに、何かが喉に詰まって話し出せない。




「君、溺れていたんだよ。あんなところまで泳いじゃダメじゃん」



お姉さんに言われて思い出したのは、久しぶりに来た海ではしゃいで沖の方まで泳いでしまい、足がつって泳げずにもがいていたことだった。


どれだけもがいても沈んでいく身体にもうダメだ…と諦めたことを覚えている。



「あ…り、がと…、ゴホゴホッ…」

「あーもー、これでも飲みな」



差し出されたものを飲むと、飲んだことのない味がしたが喉がスッキリして潤う。



「ありがとうございます」

「どーいたしましてー」



起き上がって周りの景色を見ると、どうやら岩場らしく、その一つに横たわっていたようだ。お姉さんは海に入ったままこちらを見ている。



「あの、あがらないんですか…?」


そう聞くと「あっついからさー、海に入っていた方が気持ち良いんだよね」と言った。




「それよりあっちの方に進んだら海水浴場に着くから。君のことを心配して騒いでいた人たちいたし、早く行ってあげな」

「はい!ありがとうございます!あ、あのできればお姉さんも一緒に来ていただけませんか?お礼がしたいので…!」

「あー…、良いよ良いよ。大した事してないし」

「でも…」



来て欲しいなと思いながらお姉さんを見ると彼女は眉を下げて首を横に振った。




「私、もう行かなきゃ」

「え?」

「それを飲んだからまた会えるよ。じゃあね」




そう言うと彼女は海に潜っていってしまった。

海の方を見ていると、遠くの方で顔を出し、手を振ってくれている。

振り返すと、海水浴場の方を指差して「早く行け」とジェスチャーされた。わかるように腕で丸を作ると、彼女は頷き、そして海に再び戻る時、昔物語で見た人魚の尾びれを翻した。


そうなのかもしれない、と思ったのはお姉さんの瞳を見た時。

その瞳は美しいキラキラした海が広がっていた。

心奪われるその瞳を思い出して思わず溜息を吐く。


厄介な人に一目惚れしてしまった。


寄せては返す波を見ながら、また会えるその日を夢見て歩き始めた。







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とめどない青 月白イト @aki_nagatuki

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