【一話完結】いつもは俺の事を毛嫌いする幼馴染、ホラー映画を鑑賞するとただの美少女になる

マッソー!

いつもは俺の事を毛嫌いする幼馴染、ホラー映画を鑑賞するとただの美少女になる

「ちょっと!学校では話しかけないでって言ったでしょ!」

「えぇ……?」


そう俺に言ってくる金髪の美少女の名前は東條六花とうじょうりっか

俺こと西宮波留にしみやはるの生まれた時からの幼馴染である。

家は隣、小中高と同じ学校、家族間で旅行に行くほど仲が良かったりする。

なぜこんなに毛嫌いされているのか、それは俺にも分からない。

なぜか、学校ではこうなのだ。

例えば、俺が―――


「おい立花大丈夫か、その荷物少し持とうか?」

「いいわよバカ!あんたなんかに手伝ってもらう必要なんてないわ!」


六花が重そうな荷物を運んでいるのを見た俺はちょっとした真心で手伝ってあげようと思ったので声を掛けた。

だが、この様だ。言っておくが俺がなにか六花に対して嫌われるようなことをしたわけではないし、六花が嫌がるようなこともしていない。なぜか、こう、手痛い反撃が飛んでくるのだ。なぜだ……ちょっと、いや結構心にグサッときたりする。

他にもこんなことがあった。


「なんだ六花、その問題が分からないのか?俺が教えようか?」

「うっさいバカ!あんたなんかに教えてもらわなくても自分で解けるわよ!」

「そんなに言わなくてもいいだろうに」

「言うわよ!あんたなんかに教えてもらうくらいなら死んだ方がましだわ!」

「図書館ではお静かに!」

「「ごめんなさい…」」


こんなこともあったな。

テスト期間中、たまたま図書館で自習している六花を見かけた俺は話しかけようとしたんだ。話しかけようとすると何やら数学の参考書とにらめっこしていたから教えてあげようとしたんだが……このように拒絶されてしまった。

いやー今思い出すだけでも意味わからん。

なんで教えようとするだけで「死んだ方がましよ!」なんて言われないといかんのじゃ。一体俺が何をした!教えろよ六花!お前の大事なもん壊したのか!?

お前の着替え覗いたか!?ちょっと手が滑ってお前の胸揉んだか!?

そうだな!?全部やったことあるな!?

ごめんな六花!?あと図書館で騒いだのは一緒にごめんなさいしような!?


他にも、こんなこともあった。


「…痛っ…」

「大丈夫か六花!?手を洗え!絆創膏持ってくるから!」

―――ペタペタペタペタ。


「よし、これで大丈夫。痛くないか?」

「勝手に触んじゃないわよバカ!まだ痛いに決まってるでしょ!」


こんなこともあった。

家庭科の調理実習の時に六花が包丁で指を切ったのだ。

それをすぐに察知した俺は違う班にも関わらず六花を介護、もとい手当をしたのだ。六花はあれで不器用だからなにかするなと思い絆創膏を常備しているのが功を奏した形だ。そのあとにお礼と言う形で六花たちの班が作ったクッキーを貰った。一つだけお世辞にもきれいな形をしているとは言えないクッキーを見つけたので迷わず食った。うまかった。「美味しかった」と言った時の六花の顔はまるで天使のようで可愛かった。あれは他のやつには見せられそうにない。


他にも、こんなこともあった。


「東條さん、僕と付き合ってください!」

「その…ごめんなさい…」

「僕じゃダメなんですか!」

「はい…その…私には好きな人が居るので…」

「くそっ…やっぱりその人って西宮ですか…?」

「えっ!べ、別にあんなやつ好きでもなんでもないわ!むしろ大っ嫌いよ!」

「えぇ……嘘だぁ……」


こんなこともあったらしい。

友達伝てで聞いた話だ。俺はこの話を聞いて椅子から転げ落ちたぞ。

なんだよその可愛い奴は。六花は「ごめんなさい…」とか清楚系美人が使うような言葉を使わないぞ!そいつは六花じゃない!幼馴染の俺が言うから間違いない!まったく…。しかし好きな人いるんだな六花。俺でもないらしいし…

べつに俺には関係ないしな。気にしたところで無駄だ。忘れよう。

……一体誰なんだろうか…。





「それじゃあ六花、また来週な」

「そうね…」


こうして俺らは帰路に就いた。今ふと、疑問に思ったことだろう。

そう、俺と六花が一緒に学校から帰っているということに。

学校では話し掛けんななんて言うくせに、一緒には帰ろって毎日誘ってくるんだぜ?もう、俺は理解できないことを理解したよ。

六花は俺たちの理解の及ぶ人間じゃないんだ。

だから、考えるだけ無駄。人間がどうやって二足歩行をしているのか。

魚がどうやって泳いでいるのか。鳥はどうやって飛んでいるのか。

当り前を説明するのは難しい。

六花もそうなのだ。それが六花にとっての当り前なのだから説明することはできない。





お風呂に入ってリラックスする。

日ごろから立花にある意味でしごかれているからな。

疲労が蓄積するのだ。

湯けむりが揺蕩うのを目でそれとなく追う。

いい湯だ…


風呂から上がり、髪を乾かす。

今日は金曜日。今週の金曜ロー〇ショウはなんだっけなとテレビを明りをつけ、番組予定表をみる。

なるほどホラー映画か。しかもかなり昔の。これは期待できるな。

俺の家には今、俺一人しかいない。

父親と母親は随分前から海外出張中で、妹は今日友達の家に泊まるらしい。

だからこの家には一人。精々だらけるようにしよう。

思いっきり、全力で怠惰を貪ろう。

さてさて、お菓子は何かあったっけ。

俺が何か摘まめるようなものを探しに行こうかと腰を上げたところで呼び鈴がなった。今の時間は八時四五分。宅配が届くような時間じゃないし、友達を家に泊める約束もしていない。妹も今の時間帯は友達と外食している時間帯だろう。

一体だれだ。非常識極まりないこの時間に家の呼び鈴を鳴らした奴は。


もう一度呼び鈴がなった。

分かってるって言うの!今から行くんだよ!

表向きは平静を装い、玄関の扉を開けた。


「なんで家に来たんだよ六花」

「う、うっさいわねバカ。べつに怖くて来たわけじゃないんだから!」

「そう言ってもな…」


そう、呼び鈴を鳴らしたのは東條六花、俺の幼馴染だったのだ。

家が隣なので歩いて五秒もいらないため、腰が軽いんだろうが…

俺は六花の胸を見下ろす。別にやましいことを考えたわけじゃない。


「はぁ…」

「な、なによ、何かおかしいわけ?」

「いいや、別におかしくはないんだが…」


六花はなぜかクマのぬいぐるみを抱えてやってきていたのだ。

なんだ、どうした六花。お前ってそんなに可愛かったっけ?

六花の想定外の装備に脳がバグを引き起こした。

おまけに六花は風呂上りなのか少し頬が火照っており、おまけに綺麗な金髪の髪も水でほんのりと濡れている。そしてパジャマときた。だめだ、幼馴染とはいえ攻撃力があまりに高すぎる。俺の理性という名の紙装甲をあっという間に突破してしまう攻撃力の高さだ。


「ねぇ、中に入れてくれないのかしら?」

「あぁ悪い、入ってくれ」

「そう、ありがとう」


っておいーー!なに入れてしまってるんだ俺は!

そもそもなんで家に来たんだ六花は!

目的を話せ!なぜここにきた!何を狙っている!

あんなかわいいクマさんの装備を手にして何をするつもりだ!

まったく、なんだよあのクマさんは!可愛すぎるだろ此畜生!


俺がそうこうしているうちに六花は俺に家を我が物顔で闊歩する。

そうしてリビングに着くやいなや、


「ねぇ波留、お菓子頂戴」

「なんでさも当然のようにソファーでだらけてやがる。後、俺は六花の執事じゃないぞ」

「だって幼馴染じゃない、そのくらいはいいでしょ」

「幼馴染だからと言ってこんな時間に男の家に来るか普通」

「な、なによ瑠依。私に何かする気?」

「んなわけねぇだろ」


まったく六花は何を言ってる。俺が立花を襲うとでも思ってるんだろうか。

そうだとしたらあまりにも警戒心がなさすぎる。

立花の警戒心の方が紙装甲だったらしい。


「それで、ここに何しに来たんだ。それも可愛らしいクマさんなんか持ってきて」

「その………」

「なんだよ、普通に言えよ」

「バカにしない…?」


そう言ってクマさんを口元まで六花は持って行った。

そして偶然にも上目遣いという構図になってしまっている。

なぜか目元も潤んでいるしまつ。

やはり俺の幼馴染は美少女なんだと再確認させられる。

こんなことされたらバカにする気なんてなくなる。

今の六花は口元のクマさんによって幼く見えるからだ。


「バカにするわけないだろ、もうすぐホラー映画が始まるんだ。速く言ってくれ」

「そう………」

「ん?なんだ?」

「それよ……」

「それってなんだよ、こそあど言葉で会話をお試みようとしないでくれ」

「~~~!一緒にそれを見てください!」


頬をこれでもかと赤くさせ俺にホラー映画を一緒に見てくださいとは。

まさかそのためだけにわざわざこの時間に来たって言うのか?


「家には誰もいないのか?」

「今日は二人とも遅くなるって…お姉ちゃんも今日はいないし…」

「なんでそこまでしてホラー映画が見たいんだ…」

「だって!気になるんだもん!」


なんか幼児退行していないか、立花のやつ。

しかしまぁ、ホラー映画が見たいって言うなら仕方がない。

一緒に見ることにしようか。


「今から適当に飲み物とお菓子を持ってくるからそこで待ってろ」

「あ、ありがとう!」


そう言って満面の笑みを弾かせる立花。

まったく、どうして今日の立花はこうも可愛いんだ…




「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「・・・・・・」

「ねぇ!来るって瑠依!きちゃうぅぅぅぅぅぅぅ」

「・・・・・・」

「もういやだぁ…怖いよ瑠依…」


えぇ…助けてください。ホラー映画の主人公並みにSOS出してます。それも体中から。叫び散らかす六花は俺に抱き着いたまま離れようとしない。

俺なんかよりクマさん抱いてろよ!

ちくしょうめ、考えるな俺。心を静めろ。落ち着かせろ。心頭滅却信用滅却。

考えるのは、そうだな、小川のせせらぎでいい。そうだ、何も考えず、感じるな。

迫りくる獣から逃げろ。理性と言う名の檻を死守しろ。


「何か言ってよ瑠依…ねぇ…」

「・・・・・・」


いくら六花が甘えてこようが動じるな。

六花はあんなに理解不能な人物だったじゃないか。

だからそう、何も考えるな。

くっそ、六花の胸部の装甲が厚すぎる!

SSランク級だな。

俺の紙装甲の理性だと簡単に破られる。

どうすればいい、動けば……死ぬ。


「・・・・・・」

「?」


六花が急に静かになった。気絶したのだろうか。

今の状況を確認するために閉じていた目を開き、耳を澄ませる。


『ねぇマイケル、この場所から出られたら私達、結婚しましょう』

『そうだなジュディ。僕は君を愛している』

『えぇマイケル、私もよ!』


なんだこの茶番は。こんなのに真面目になるやつなんて―――


「・・・・・・」

(いたーーー!)


六花のやつ、食い入るように見てやがる。

口も空いてるし…。

それにしても六花、好きな人誰なんだろうか。

もしほんとにいるのだとしたら、そいつにも六花にも申し訳ない状況だ。

しかたがない、今のこの役得ともいえる状態とおさらばしよう。


「おい六花、お前はいいのか?」

「え…何が…?」

「その…なんだ。六花好きな人、いるんだろ?」

「な、なんでそのこと知ってるの!」

「友達からそういって告白断ってるって聞いたからな」

「べ、別に瑠依には関係ないでしょう!」

「いやなぁ…この状況が…ね。なんだかもうしわけないんだ」

「へ…?なに言ってるの?」

「一回離れろ六花」

「・・・・・・」


もぞもぞもぞと六花は俺の胸元から離れていく。

今まであった温もりが消えて、冷やしていく。


『後悔しないように生きるんだ。言いたいことがあるなら正直に言っておけ。相手に素直な気持ちをぶつけろ。そうじゃないと…死んでも死にきれない…』


割と序盤に愛する人が死んだ登場人物が名言っぽいのを言っている。

だがしかし、割と心に来るものがある。


そうだよな、言いたいことは言っといた方がいいよな。

言えるうちに言わなきゃ、後悔するかもだしな。

後悔してからだと、何もかも、すべてが遅いから。

だから俺は、言う。後悔をしないように。

自分の気持ちを、素直にぶつけろ。


「なぁ六花、言いたいことがある」

「奇遇ね、今私も言おうとしていたところよ」

「俺から先に言っていいか?」

「いいわよ。私は、瑠依を受け止めるから」

「ありがとう」


呼吸を、整える。

思い出せるのは六花に振り回される日々。

こっちが善意でやってるのに悉く拒絶される。

だからか、どうしようもなく、怖い。

また拒絶されたらどうしようかと。

だけど、それじゃ意味がない。

六花は言ってくれた。受け止めると。

それじゃあ、俺は、ぶつけるしかないだろう。

幼馴染を信じて。


「六花、俺は君が好きだ」

「えぇ瑠依、私もよ!」


熱い抱擁が交わされる。

きっといま、二人は本当の意味で結ばれたのだ。

後悔してからだと、なにもかももう、遅い。

全てが終わる前に、後悔する前に、素直な気持ちを相手にぶつける。

たったそれだけなのに、あんなにも難しく、遠かった。


今なら言える。

正直に想いをぶつけろ。

今、迷えることがあるのなら、後悔しない選択をしろ。

できないのなら、直感のまま、素直な気持ちを伝えろ。

俺たちの物語は、今始まったのだから―――











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