おにーちゃんの拾いモノ

とうみ

ぷろろーぐ

暑い夏の少し前。まだちょっと涼やかな夜。

風呂に浸かりながら、流れる薄雲に月が隠れていくのを、なんとなく眺めていた。

開け放たれた浴室の窓から見える夜空は、案外飽きがこない。

「おにーちゃん。まだお風呂入ってんの」

浴室のドアが小さく開き、妹の心配そうで、やや不機嫌そうな、それでいて耳通りの良い声が耳に届いた。

湯船に1時間程浸かっているのは「まだ」と言われる程長いのだろうか?

目線を窓の外の景色から、薄い湯気の先の妹に移すと、パジャマ代わりのTシャツ姿で目を細め何故だか嫌そうな顔をしていた。

「どーした?」

「窓全開って…」

信じらんない。声にせず唇が動く。

そんなに非難される事なのか?疑問に思いつつも、妹の言葉に促され窓を閉めようと湯船の中で立ち上がる。

兄が立ち上がる間際に妹はドアを閉めようと顔を引っ込める。

その瞬間…

カッ

窓の外が一瞬目が眩むほどの光に照らし出された。

一体何が起きたのかと確認する間も無く光は消え、先刻までと変わらない静かな夜空がそこにはあった。

「今の…なに?」

光に驚き浴槽越しに妹が窓辺に駆け寄る。

まだ消えた光の残像が視界に残っていたが、彼女は瞬き2回しただけで気にしない。

「おにーちゃん、今のなに?もしかしてユー…」

UFOと言いたかったのだろう。

きらきらと夢見る乙女の瞳で此方を見た。

そんな目で見られても、兄に正解は導き出せない。

導き出せないが、まぁ多分もしかしたらの意見を返してみた。

「魔法使いだな」

「…」

「…」

「魔法使い…かなぁ。かなぁ、かなぁ、かなぁ!」

浴室に響き渡る妹の、期待に満ちた楽し気な声。

まだ一度もお見掛けしたことはないが、この街には昔から魔法使いが住んでいる。と、噂されている。

だとしても 光=魔法使いの仕業 に結び付く理由は無い。

それなのに魔法使いの仕業だと兄は思った。

それは何かの予感だったのかもしれない。



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おにーちゃんの拾いモノ とうみ @toumi-s

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