令和の国難
大正十二年九月一日、関東大震災により東京が壊滅的被害を受ける。
死者 は十万を越え、東京の大部分が火災によって焼失した。
「こうなったら、自分でやるしかない」
かつて東京市長として首都改革をした後藤新平の頭脳はただちに動きはじめた。
罹災者に対する救援、治安の回復などの手を打ちながら、四日には再建案の大要を作成した。
九月六日の閣議に提出した「帝都復興の議」の冒頭。
「東京は帝国の首府にして国家政治の中心、国民文化の淵源たり。従ってその復興は一都市の形態回復の問題に非ずして実に帝国の発展、国民生活改善の根底を形成するにあり。されば今次の震災は帝都を化して焼土となし、その惨害言うに忍びざるものあるといえども、理想的帝都建設のため真に絶好の機会なり」と書き、東京が首都であり続けることを明示している。
この新平の主張が通って、九月十二日には「帝都復興」の勅語が出され、 天皇の名をもって「遷都」がないことを内外に明らかにしたのである。
後藤新平の『国難来』はいつの世も明瞭に映す鏡と言はむ(医師脳)
鈴木一策・編(藤原書店)の『国難来』の黄色帯には、こんな文字が躍る。
――時代の先駆者・後藤新平は関東大震災から半年後、東北帝国大学学生を前に、第二次世界大戦を直観した講演をした――。
後藤新平は語った。
「国難とは、決して外寇のみを意味する言葉ではない。およそ国家の生存と国民の生活に不安の陰影を投ずる内外一切の事象は、ことごとくこれ国難である」
「わが国は、政治的にも、経済的にも、社会的にも、精神的にも、国際的にも、真に国難重畳のうちにある」と。
およそ百年前に、66歳の後藤新平が演説した熱意は、令和の今でも(否々……今だからこそ)響き渡る。
「最大級の国難として挙げざるをえないのは、政治の腐敗・堕落である。政党はすべて〈利権獲得株式会社〉である」
「一切の社会の悩み、国家の難儀は、すべて自分たちの怠慢、自分たちの不徳、自分たちの無力が堆積した罪であると、深く内省自責してほしい」
かつて東日本大震災では〈福島原発事故〉に遭遇し、そして今〈コロナ禍〉の真っ只中である。
天を呪ってばかりはいられない。
後藤新平は学生に訴えた。
「とらわれない心で私の言を聴き、私の憂いを問題として、国家の現在および将来に関し、公平無私な省察を払われることと信ずる」と。
後藤新平の遺骸は東京の青山霊園に埋められているそうだ。
しかし、その思いは故郷の岩手にあるのだろう。
水沢公園には今も、半ズボンのボーイスカウト制服姿で後藤新平の銅像が建っている。
「備へよ常に」と、岩手の新型コロナウイルス対策を引き締めているに違いない。
💥 国難来たる 💥 医師脳 @hyakuenbunko
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