第17話 永遠の日々を
唖然としながら絵画を仕事部屋に持ち帰り、細かく調べた結果、やはり白神善四郎のもので間違いないと結論づけた。
「どうして……私の絵が……」
本人はもう亡くなっていて、聞くこともできない。
早めに部屋にこもったのは、善四郎の孫の絵ではないからだ。他人である子供の絵を描いた心情は、可愛いなどという単純な理由ではないような気がした。
あらためて、もう一度絵画を見る。善四郎の絵だが、違和感は拭えない。
「もしやこれは、」
「トロンプ・ルイユってやつだね」
誠一は開けっ放しだった扉から入ってきた。
「トロンプ・ルイユ……だまし絵ですか」
「初めて見たとき、違和感があったんだ。もしかしてこれ、逆に見るんじゃないのか?」
「善四郎さんはよくお描きになっていたのですか? 修復する中にはそのような絵はなかった気がしますが……」
「描かないね。俺が知る限りではこれが初めて。見てみようか」
誠一は咲に覆い被さり、絵画を回した。
心臓の音が聞こえてしまうのではないかと緊張してしまう。
「これは……子供?」
子供というよりは、少年に近い。
黒髪の少年は、憂いを帯びた顔で遠くを見つめている。
「…………俺?」
「だと思います。間違いなく誠一さんかと」
「なぜ俺を……」
「愛していたからではありませんか? 幼かった誠一さんは私に恋をし、そんな姿を絵にしたかった。だまし絵にした理由は、人の心を許可なく絵にするわけですから、隠したい気持ちもあったのでは。男が男に恋をするなんて、善四郎さんの時代では、きっとあってはならないことだったのでしょうね」
「俺は祖父に愛された経験はほとんどない」
「人に対する愛情を言葉で上手く伝えられる人ではなかったのでしょう。その代わり、絵にするのは得意な方だったのだと思います」
誠一の目は潤み、頬に流れる前に目を閉じた。
見てはならない瞬間だったのかもしれないが、咲はそらさずに仕草一つ一つを見ていた。
「寂しい思いをしていたのは、私だけではなかったのですね。私は一般的な家族というものか判りませんが、たくさんの愛情をあなたに注ぎたいと、今強く感じました。……思えば、こんな大きな屋敷を管理していて、寂しくならないはずがないですよね」
「野菜を育てたのも、何かに愛情を注げば気が紛れると思ったんだ。今は趣味になってしまったが」
「趣味を共有できて、私はとても嬉しいし愉しいです」
背中を撫でる手はたくましくも、恐る恐るでおかしくなった。
もっと力を込めて撫でても大丈夫だと伝えるために、咲も大きな背中に腕を回した。
描く未来と虹色のサキ 不来方しい @kozukatashii
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