11 血着
レイの斬撃は一つ一つが速く、そして重い。俺はアハトの刃体でそれらを受け止めるが、反撃の隙が無い。鉄の鎧をもひしゃぐアハトの刃を以てしても、奴のカタナは刃こぼれ一つ無い。サムラーイが東洋の神秘などと呼ばれるわけだ。だが、お前が東洋の剣術を使うなら、俺は盗賊の戦い方ってもんをしてやらぁ。
「ふんっ!」
剣を縦に振り降ろし、地面を穿つ。刺さった切っ先を半回転させ、刀身に土を乗せると、スコップのように地表をほじくり返す。そして、その土をレイに浴びせた。
「グゥっ!?」
レイは土砂に視界を奪われる。所謂「目潰し」というやつだ。上品な騎士サマには想像も付かない卑怯な手だろう。だが、俺たち冒険者の戦いは常に命の獲り合いだ。誇りもクソもねえ。
「死ねえっ!!」
横薙ぎの一閃を放つ。使い慣れていない大剣という事もあり、俺自身も
「何だとッ!?」
レイは大きく跳躍し、斬撃をかわしていた。
「視覚死すとも心の眼は死せず…これぞ心眼
奴は匂いと、音と、大気の流れにより俺の攻撃を読んだというのか。ダテに騎士団を任されてはいない強さだ。だが、俺はこいつを殺らなければならない。
「次で決めてやる……お前も、お前の次に歯向かう者も全て滅し、
また、俺の口は無意識の内に喋っていた。それはこの魔剣の意思だろう。俺はレイを殺せるなら何だっていい。ドスを失った俺にはこの世界への未練などない。アハト、俺の体はお前にくれてやる。だから、目の前の敵を倒すのに力を貸せ!
「まるで魔王にでもなるつもりの様だな。ならば尚更、貴様らを看過できんぞウノ・サルビン、魔剣ヌル・アハト!」
レイは見たこともない構えを取る。一時的に視覚を潰したとはいえ、こいつは相当な腕前の剣士だ。魔剣の切れ味に頼っただけの盗賊が真っ向勝負で勝てるとは思えない。ならば、俺は魔剣の力を最大限に頼る。この体はもう、お前のモンだ、アハトよ。
「うおおおおおおおおおっ」
霊魂というものがあるとすれば、それを体から剥がされる感覚はこういう事なのだろう。俺の意識は消え、剣と一体化してゆく……
「うっ!?」
「ぐあぁっ!!」
激しい痛みが背中から突き抜けた。ふと体を見ると、背中から胸へ。1本の矢が貫通していた。目の前のレイも腕に矢を受け、仰向けに倒れている。矢をよく見ると、鏃はミスリル銀で出来ている。魔除けの金属を撃ち込まれては、魔剣との同化も進まない……そして、俺の命が持たない……うつ伏せに倒れた俺に、何者かが近づいていた。俺とレイを射た矢の主だろう。
「森を荒らす者たちめ!森神様の裁きを……ん?何だこの奇妙な剣は……」
弓矢を携えた狩人の様なそいつは、俺の握るヌル・アハトの鍔に手を掛けた。やめろ!俺からそいつを奪うな·……いや、持っていけ。
「ふむ。刀身に魔力の流れを感じるな。不思議な剣だ……」
その男が俺の手からアハトを取り上げると同時に、俺の意識と命は徐々に消えていった。あばよ、アハト。そして次の持ち主、お前にも災いが訪れるだろうよ……
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