声優志望の俺が、念願の声優養成所に入所したら、そこにあるのは絶望と苦難と、わずかな希望だった…⁉︎

ヒイロ・ユウ

第1コマ目 やっほい! ついに入所だ‼︎

 俺の名前は「藤之宮優一郎ふじのみやゆういちろう」。高校を卒業して東京都内に引っ越してきたばかりの社会人一年目の男だ。



 本当は高校卒業後は声優やマンガを勉強できる大学か専門学校に進学したかったのだが、父親から猛反対に遭い断念。


 さらにはそんな父親の肩を持つ進路指導の教師の半ば強引な斡旋もあって、泣く泣く都内の機械メーカーである「株式会社かぶしきがいしゃシンユウ精工せいこう」に就職をする羽目になった。


 全く誰が好き好んで毎日毎日、工場のラインで延々と興味も微塵もない機械の組み立てをせねばならんのだ、と言いたいがどんな職業にも存在意義がある以上、職業を否定する気はない。


 しかし俺は就職が決まった当初、自分が本当にやりたいことが何一つできないまま、こんな地味なことを繰り返すだけの人生が続くのかと悲観的になったものだ。



 そんな俺の前に突如として救世主のように現れたのが、声優養成所。その出会いは高校の卒業式の日の前だった。



 声優関係の進学を断念し毎日ブルーな気持ちになりながらもネットで声優のなり方を検索していたところに、偶然目に止まった「ジャパン・ボイスアクターズ・ラボ」。

 略して「JVL」という声優養成所のホームページだった。


 ホームページを見てみると、そこの養成所は全日制のコースもあれば社会人のための夜間コース、週三日・週一日のコースもあって価格もリーズナブルだ。


 そして何と言っても注目すべきなのが、業界最大手の養成所であること。

 それから、小中学生の頃から憧れの声優である、二枚目役をメインに今も第一線で活躍している大人気声優「翠川光一みどりかわこういち」さんがJVL出身で、俺も大ファンである大人気アイドル声優「堀田由紀子ほったゆきこ」さんまでJVLだというのだから驚きだ。


 これを見た俺は早速パンフレットを取り寄せ、母親に相談。最初は難色を示したが母親だけは唯一俺の夢に理解を示してくれ、費用は自分で支払うことを条件に養成所への入所をOKしてくれたので、後日予約をして見学に行った。


 見学のあと、俺はリーズナブルな社会人向けの週一コースに決め、父親に内緒で母親にサインをもらって入所希望届を出し、後日入所オーディションに行くことになった。


 オーディション会場は新宿区の某所にあり、俺は遠路はるばるその会場に向かうことになるのだがオーディションの前日、ショッキングな出来事があった。



 何と、JVLの社長が養成所の女子に枕営業を強要していたことが発覚し、社長が逮捕されてしまったのだ。



 この事件はネットニュースでも話題になり、俺はこれからJVLの経営はどうなるのかと少し心配になった。


 だが、せっかく苦労して母親を説得し許可を得た声優養成所。気を取り直して緊張しながらも俺は会場へ足を踏み入れる。



 会場に着くとそこには、俺を含めた10人ほどの男女が集まっていた。年齢層も様々で下は高校生から上は30代の社会人。全体的には女性が多く、明るい女子高生や美人の女子大生・社会人、陽キャラ男子もいればいかにもなオタクもおり、中には俗に言うチー牛もいた。


 オーディションの内容は、簡単な読み書きのテストをしたあとに自己PR、渡された台本を使って朗読と感情表現をするというものだった。


 読み書きのテストのあと、一斉に同じ部屋に集まり入所オーディションが始まった。最初に審査員が先日の事件について謝罪を述べると、一人ずつ左から順番に自己PRをしてから台本を読んでいく。


 俺のターンが回ってきた。



審査員「では、次の方どうぞ」


優一郎「はい。高校を卒業して社会人一年目の藤之宮優一郎です。

 小中学生時代にJVL出身の翠川光一さんが出演されていた「ジー・ウィング」というアニメを見たのがきっかけで声優という職業に興味を持ちました。


 将来は翠川さんのような人気声優になって、翠川さんと共演することが目標です」



 緊張して足がガクガクになり声が震え、頭の中が真っ白になりながらも俺は、を終えた。


 次は台本のテストだ。中身は「芥川龍之介あくたがわりゅうのすけ」の「羅生門らしょうもん」の一部を抜粋したものの朗読、そして簡単なひらがな三文字の言葉の感情表現だ。



優一郎「からい、あまい、にがい、つらい、キツい、スゴイ‼︎………。以上です、ありがとうございました」


審査員「はい、ありがとうございました。では、次の方どうぞ」



 台本を読み終えた俺はホッとして静かにため息をつきながら、ゆっくりと席についた。


 そして全員が自己PRと台本を読み終え、短い時間だったが入所オーディションは幕を閉じた。


 一番最後に入所オーディションを受けた「チー牛くん」、自己PRが休みは家にこもってゲーム、趣味はアニメとゲームだけって何だよ⁉︎

 朗読も感情表現も全部棒読みで終始ボソボソと喋ってて暗かったな。


 彼には失礼だがチー牛くんは絶対に落ちたな、何て思いながら俺は帰宅したが、自分も油断はしていられまいと少し気を引き締めた。



 そして、入所オーディションから一週間後。オーディションの結果が届いた。



 まさか不合格じゃないだろうな⁉︎ 何て思いながら震える手を必死で抑え、勇気を出して封を開けてみると。



 合格だった。



優一郎「やっほい‼︎ 合格だ‼︎」



 嬉しさのあまり飛び跳ね、俺はすぐに母親に合格を知らせた。その日一日はハイテンションで眠れず、ずっと夜中に音楽を聴いていた。



 今まで自分の夢を周囲に隠し、好きなことを抑え込んでいた俺にも始まるんだ。


 そう、4月からついに俺の第二の人生が始まるんだ。




【第1コマ目のあるあるネタ】


・自己PRではなく、自己紹介をしがちである。


 

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声優志望の俺が、念願の声優養成所に入所したら、そこにあるのは絶望と苦難と、わずかな希望だった…⁉︎ ヒイロ・ユウ @hiiro369xyz

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