やおろず学園 さぺちゃんとみかもちゃん

金魚屋萌萌(紫音 萌)

第1話 なかよくおひる

 

 きんこんかんこん。お昼休みの時間になった。

 

 私、さペは薄ピンクのふわふわショートヘアーを揺らしながら、屋上の階段をのぼっていた。

 

 きょうも、いるかなぁ。わくわくさせながらドアを開く。陽の光がささん、と差し込んできた。

 

 空は程よく晴れていた。薄い雲が太陽にかかり、程よく明るい。

 

 屋上庭園と呼ばれるそれはとても広い。東京ドームといい勝負だとかなんとか。

 

 ざわざわと喧噪が聞こえる。お昼になるとここに来てお昼を食べる人がたくさんいる。青空食堂も併設してるから尚更だ。

 

 食堂と反対の方にある原っぱで私は歩き回りながら、きょろきょろとある人を探す。

 

 ころころ、と目の前を卵の高谷さんが転がっていく。とてとて、とそれを追っかけねこのふうさんが走っていく。ふふ、平和な風景だなぁ、と走っていく先に目をやる。

 

「あ、さぺちゃん! こっちこっち!」と原っぱの中で私の探していた人が手招きしていた。とっても嬉しそうな笑顔。

  

「みかも……先輩!」わたしも笑顔を返しつつ、かけよる。

 

「今日も来てくれたんだね〜! 待ってた〜」

 

「もちろんです!」

 

「えへへ、今日は気合い入れてピクニック風にいこっかなて」そういうみかも先輩の下にはレジャーシートが敷いてあった。先輩お気に入りの耳が大きい白犬のキャラクターが印刷されている。

 

「わざわざありがとうございます〜」ぺこり、とおじぎをしながら私は座る。

 

「いえいえ〜それと……先輩じゃなくてみかもちゃんってよんでくれると嬉しいかも、お昼のときだけでも……」もじもじと指を突き合わせながら言ってくる。かわいい。

 

「わかりました、みかもちゃ、ん」照れで少しどもって

 しまう。

 

「うん、ありがとう、さぺちゃん〜」きゅ、と私の手を握って喜んでくれる。これからふたりになったときはそうよぼっと。

 

 ぐうぅ、と私のお腹がなる。

 

「あ……」と思わずお腹をおさえてしまう。ぺこぺこだ。

 

「ふふ、早速お昼にしよっか」とみかもちゃんは私の手を引いて座るよう促してくれる。

 

 

 私達から少し離れた場所では卵の高谷さんを猫のふうさんがころころと転がしていた。

 

 高谷さんはぬる………と卵の左右から1本ずつ触手を伸ばしふうさんの前でふるふると動かす。猫じゃらしみたいに。それをふうさんは猫パンチしながら遊び始める。てしてしと。のんびりとした、光景だ。

 

 膝を崩して座り、「「いただきます」」とふたりでハモらせながら、お弁当をぱかっと開ける。

 

「そうだ、私今日おこわなんだ〜」じつはみかもちゃんのためにこっそり作ってきた、なんて言えない。……更には作るのに夢中で朝ごはん食べ忘れてた、なんてもっと言えない。

 

「わ、すごい、いいな〜」とみかもちゃんは目をきらきらさせる。

 

「ほしい?」「ほしいほしい!」と間髪入れずに返してくれる。

 

 少し、座っている位置をずらし、体を近づける。ぴと、とスカートからのぞく膝がくっつく。

 

 おこわをお箸でつまみ、みかもちゃんのお弁当によそろうとすると。

 

「あ〜」とみかもちゃんは口を開けて待っていた。エサを待つヒナのように。

 

「え……」と少し固まってしまう。

 

「あれ、くれないの?」

 

「あ、あげます」と私はおこわをひとくちサイズにつまみ直し、くちもとにもっていく。

 

 ぱくり。もくもくと、みかもちゃんは味わっている。

 

「ど、どうですか……」頑張って作ったけれど、少し自信がない。

 

 ぱっちり。みかもはおっきく目を開けて「もちもちで、とっても、おいしい!」にっこにっこの笑顔でそう返してくる。

 

「良かった〜」ほっとする。

 

「ありがと〜あ、私もさぺちゃんの好物、作ってきたんだ〜」とにこにことお弁当の中身を見せてくる。

 

 そこには色とりどりのお新香と玉子焼きがたくさんはいっていた。

 

「みかもちゃんお手製、会津練り三五八漬けのお新香だよ!」ふふん、とみかもちゃんはじまんげな表情をみせる。

 

「わ、私の好物おぼえててくれだんだ……」うれしい。

 

「たべてたべて〜」きゅうりのお新香をつまみ、私の口元に差し出す。

 

 う、ちょっとてれるけど、いいよね。あむ、とお新香を口に入れる。ぱり、ぱりと心地よい歯ごたえを感じる。

 

「わ、おいしい……」思わず、そんな感想がもれてしまう。

「あまいのにしょっぱくて……新鮮な味です!」

 

「ね、食べたらとまらないよね。玉子焼きもたべてたべて〜」と再び口元にもってくる。

 

 あむあむ。「わぁ、ふわっふわでとってもあまあい……♥」私はおいしさにほっぺたが蕩けて落ちそうになる。

 

 私のダシ入り玉子焼きは少し自信がなかったけど、みかもちゃんは「おいしい、おいしい!」と言って食べてくれた。

 

 そうして私達はお互いのお弁当を分け合った。

 

「ふーお腹いっぱいです〜」「私も〜」お腹をぽんぽんしながらみかもちゃんはぴとり、とみかもちゃんは肩を寄せてくる。くっつくのがすきみたい。……私もくっつかれるのが好きだからうれしい。

 

「あ、ちょっと動かないでね」そう言いながらみかもちゃんは顔を近づけてきた。

 

「ふぇ!?」私はどきまぎしてしまう。つ、と指がほっぺを撫でる。

 

「ふふ、おこわのおべんと、くっついてた」と離した指先には米粒がひとつついていた。ぱく、とみかもちゃんはそれを食べた。

 

「あ、ありがとうございます」ふたつの恥ずかしさで顔がかあぁっ、と赤くなっちゃう。

 

「えへへ、さぺちゃんをお嫁さんにして、毎日おべんとつくってほしいな、なんて〜」みかもちゃんは冗談めかして言ってくる。

 

「わたしも……みかもちゃんの手料理、毎日食べたいです〜」私も冗談めかして返す。……半分だけ。

  

「あ、そうだ、これからたまにお互いのおべんと作り合いっこする?」

 

「いいですね〜!」私は同意する。「そうしよそうしよ!」のりのりでみかもちゃんもこたえてくれた。

 

 

 たまごの高谷さんとふうねこさんはにゅるてし、ぬるぺし、とたのしくじゃれ合っていた。するとくぁあ、とふうねこさんはあくびをした。

 

 高谷さんはぴしりと殻にヒビを入れる。するとそのヒビから光がほとばしり、一瞬姿が見えなくなる。光が消えたときにはスラリとした人型の美女がそこにいた。私達に背を向けているので顔はわからない。でも後姿だけでも美しい。

 

 ふうねこさんはうーんと背筋を伸ばして伸びをする。高谷さんはその身体をひょいっと両手で持ち上げ、だっこする。そのまま少し歩き、公園名物、「おふとん神金魚屋萌萌お嬢様」、通称「おふもえ」のところに歩いていく。

 

 それはその名の通り、お布団にくるまっているお嬢様だった。ずっとすやすやと熟睡していて、起きている姿は誰も見たことはない。たまに寝言をつぶやくけれど。

 

 そのお布団の上に人の高谷さんはふうねこさんを座らせた。ふうねこさんはくるり、とまるまっておねんねの体勢をとる。ぽかぽかと暖かい陽の光を浴びながらすやすやと寝始めた。

 

「zzz……おやすみ……」と萌お嬢様はつぶやいた。

 

 人の高谷さんはほんの少しだけ私達の方に顔を向け(顔は見えない)、ひらひらと手を振る。そして食堂の方に歩いていった。

 

「あ、そうだ! さぺちゃんに聞きたいこと、あるんだけれど……」もじもじと、みかもちゃんは言う。

 

「なんですか〜?」

 

「さぺちゃんって、メンダコの神さまなの?」

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やおろず学園 さぺちゃんとみかもちゃん 金魚屋萌萌(紫音 萌) @tixyoroyamoe

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