第8話 闘技場
僕は自分の決断を伝えるためにアザミの元に戻った。
奴は食事時だからか食堂にいた。
思っていたとおり、他の囚人と一緒だ。おそらく一人になることはないんだろう。
他の囚人と話しているところに割り込んで、思いを口にした。
「あっ!? レイ、今何て言った? もう一回言ってみろ」
「僕はオークを殺さない」
アザミは立ち上がり、自分が座っていた椅子を蹴飛ばし威嚇してきた。
「考え直すなら今のうちだぞ」
「食事のお礼なら別にするよ」
「そんなに罰が欲しいのか?」
アザミが距離を詰めてきたのと同時に、他の囚人達が僕を取り囲むように背後に回ってきた。いつでも僕を取り押さえられるようにってわけだ。
これは想定内だ。いいぞもっと近づいてこい。
ここにたどり着くまでの間、どうしたらいいのか考えていた。
そして、一つの答えをだした。
スキルを使ってアザミを大人しくさせればいい。
大丈夫。スキルを使っても殺さなければいいんだ。
それなら遠慮はいらない。
やれる。いや、やるんだ。
「僕が黙って言うとおりにするとでも思っていたのなら大間違いだよ」
スキル発動。
すぐにブラッドナイフを出現させた。
アザミは目と鼻の先だ。
この距離なら外さない。
アザミ目掛けてナイフを振り抜いた。
それは一瞬のことだった。
目の前からアザミが消え、ナイフは宙を切った。
一体、何が起こったんだ。
「こっちだボケ!」
後ろからアザミの声がする。
振り返るといつの間にかアザミがそこにいて、背中を思いっきり蹴飛ばされた。
「がはっ!」
床に勢いよく倒されてしまった。
腰に力が入らない。早く立ち上がらないと危ないのに、アザミの方に顔を向けるので精一杯だ。
「なんだこれ?」
アザミが床に転がったブラッドナイフを拾い上げた。
しまった。見られてしまった。
「赤黒いナイフ……なんだこれ? ひょっとしてお前のスキルか? そうか、そうか。お前もスキル持ちだったか」
お前もだと。
さっきの動きはスキルということか。
くそっ! 考えが足りなかった。
ボスということは他の囚人よりも強いってことだ。
スキルや魔法が使える可能性を考慮すべきだった。
「おっと、気持ちわりい。これ血か?」
僕の手から離れたブラッドナイフが液状に戻った。
アザミは近くの囚人の服で、手についた血を拭った。
「武器を作るスキルってわけか。悪くはないな。そうだ、ズオウのところに連れて行くか」
誰だズオウって。別のグループのボスだろうか。
「お前ら、レイを縛れ。連れて行くぞ」
取り巻きの囚人が近づいてくる。
立ち上がろうと四つん這いになっている僕を抑え込んだ。
そして頭に袋を被せてきた。
視界が暗くなり、周囲が見えないことが恐怖心を掻き立てた。
「やめてくれ!」
できるかぎり体を動かし抵抗してみたが、手足を縛られてしまった。
そして囚人たちに担がれた。
一体どこに連れて行く気なんだ。
◇ ◇ ◇
ここはどこだ。
いつまで放置する気なんだ。
降ろされてから随分経ったが、誰も来ない。
僕は未だに頭に袋を被せられ、手足を縛られた状態だ。
まさかずっと放置されるんじゃないだろうな。
このまま死ぬんじゃないかと思った時、叫ばずにはいられなかった。
「助けてくれ! 一人にしないれくれよ!」
すると、ドアの開く鈍い音がした。
足音が近づいてくる。そして足の縄が解かれた。
こいつはアザミの部下か? それとも誰か助けに来てくれたのだろうか。
「黙って歩け」
聞き覚えのない声だった。
手に繋がれている縄が強く引っ張られ、言われたとおりに歩くしかなかった。
足だけ解くなんて、どうやら助けではないようだ。
袋を被ったままなので前は見えないが、歩く感覚から建物の外に出たのは分かる。だが、袋の隙間から見える足元は暗い。もう夜なんだろう。
なにやら騒がしいな。男達が騒いでいるみたいだ。
そして、袋の隙間から光が差し込んできた。熱気も伝わってくる。
これは炎が近いのか?
また僕は焼かれそうになっているのか。
「やめてくれ! 僕は美味しくないぞ!」
「安心しな。誰もお前なんて食わねえよ」
そう声をかけられた直後、頭の袋が外された。
すぐに大勢の囚人が視界に入った。
数十人はいるだろう。すべて人間だ。
この島にこんなに人間がいるとは驚きだ。
周囲を見渡すと、円形状になって僕を囲んでいる。
いや、彼らの中心に僕がいると言うべきだろうか。
明るいのは
「自分の置かれている状況わかる?」
隣にいるデカい男が話しかけてきた。
顔面はピアスだらけだ。耳と鼻、そして口にも付けている。
なんとも不気味なやつだ。
「いや分からない」
「お前はアザミに売られたんだよ。ここは闘技場だ。お前は今から戦うんだ」
「闘技場? どうして?」
「オークと殺し合いをするよりマシだろ? ルールの中で戦うだけさ。勝たなくてもいい。簡単だろ?」
「理由になってないよ。意味が分からない」
「頑張って盛り上げてくれよ。お前、スキル持ちなんだってな。期待しているからな」
アザミや僕のスキルのことを知っている。ということはこの男がズオウなのか。
「おっ、対戦相手が来たな」
ズオウが笑みを浮かべながら遠くを見ている。
対戦相手だって?
暗くてハッキリとは見えないが、人より大きな影が見える。
そいつが一歩踏み出すたびにドスンドスンと足音が鳴る。
明らかに人のそれではない。
何人かの囚人がそいつを囲んで、棒で突き、こっちに誘導している。
少しずつだが着実に近づいている。
他の囚人達がそいつの通り道を作るために寄った。この輪の中に入って来るようだ。
そして、その姿が見えてきた。
硬そうな鱗に鋭い爪、そして大きな尻尾。
あれはリザードマンだ。
そいつは輪の中に入ってくると動きを止めた。
「さあ、お前ら待たせたな。これより闘技場を開催する」
ズオウの一言で囚人達から大歓声が沸いた。
「止めてくれ! 何がなんだか分からないよ」
「ああ、ルール説明をしていなかったか。簡単だ。相手を起き上がれなくした方の勝ち。分かったか?」
違う。そうじゃない。何て言ったらいいんだ。
「いくぜ! ファイト!!!」
ズオウは戦いの合図を出すと、囚人の輪の中に入っていった。
そして、輪の中にいるのは僕とリザードマンだけになった。
異世界監獄島 〜冤罪によりパーティを追放され島送りに。そこは他種族の囚人も収容される無法地帯。他人を従属化できるスキルを駆使し生き残りをかける〜 しわくちゃん @beam742d
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