最終話 二人の心

 華恋との一件の後、二人はいつもの生活に戻った。


 二人は一緒に勉強をし、昼は美琴の弁当を食べ、一緒に帰る。


 あれ以降、華恋が美琴に近づくことも無くなった。

 荘志の脅しが効いたのだろう。


 夏休みが終わっても、放課後と土日は一緒に勉強をし、お弁当も一緒に食べた。

 二人はずっと、受験生らしく必死に勉強を重ねた。


 二人の関係は、相変わらずだった。

 二人とも、恋心を隠して我慢していた。

 お互い気持ちを伝えることはなく、勉強に集中した。


 秋が過ぎ、冬が過ぎた。

 世間の喧騒に負けず、二人は合格のために一生懸命勉強した。



 そして、季節は桜の咲く頃になった。







 三月九日。

 春の訪れを感じさせる暖かな気候。

 桜の蕾は、徐々に開き始めている。


「いよいよだな」

「いよいよだね」

 今日は、二人の第一志望の大学の合格発表の日だ。


「大丈夫かなぁ……」

 美琴が心配そうにつぶやく。

「あれだけ頑張ったんだ。大丈夫に決まってんだろ!」

 荘志は笑顔で言う。

「……そうだよね!」

 美琴もつられて笑顔で返す。

「ほら、見えてきたぞ」


 大学の入口にそびえる大きな掲示板。

 そこには受験番号が書かれた数字の羅列がびっしりと並んでいる。

 それを見て、歓声を上げる者、無念の涙を流す者など、会場は千差万別に包まれていた。


 掲示板の前に向かいながら、荘志は今までの受験生の生活を思い返していた。


 ふと見かけた悪質なナンパ。それを助けて、美琴と出会った。

 そこから、夢のように楽しい毎日が始まった。

 二人で勉強をし、二人でご飯を食べ、二人で帰る。

 辛い勉強も、美琴がいたから頑張れた。美琴と一緒だから、頑張れた。


 ――ほんと、楽しかったな……。

 楽しいなんておかしいのかもしれないが、受験生としての毎日は、荘志にとってこれ以上ないくらい楽しい日々だった。


 荘志はそんなことを思いながら、大学の門をくぐる。


「……緊張するな」

「……うん」


 二人の間に、独特の緊張感が走る。


 二人は無言で掲示板の前へと行く。

 無機質な番号の羅列と、向かい合う。


 世界が止まったかのような静寂が、二人を包む。


 二人は沢山の受験番号の中から、自分の番号を必死で探す……。



 ――――。



「「……あった」」

 


 二人の声が同時に響く。


「う、嘘だろ……やった……!!」

「や、やったよ……! 荘志くん!!」

 大きな不安が、すべて喜びに変わっていく。


「よ……よっしゃあぁーー!!」

「やったぁー!!」

 二人は思わず手を取り合った。


「やっと……やっと、夢叶った……!」

「うん……!」

 荘志はまだ信じられないような顔でつぶやく。

 美琴の目には涙が零れていた。

 二人は爆発しそうな喜びを分かち合った。


 ――少しは釣り会える男になれたのかな……。


 二人は、舞い上がるように喜んだ。







 帰り道、二人は歓喜に溢れて歩いていた。


「まさか本当に二人で合格できるとはな……」

「ほんとだね!」

 二人は笑い合う。


「美琴……本当に今までありがとな!」

「ううん! 私なんて何にもしてないよ!」

「いや、ほんと感謝してもしきれないくらいだよ……」

「私だって、何度も荘志くんに助けてもらってるから! お相子だよ!」

 美琴は眩しい笑顔で言う。


「でも荘志くん、まさか夏から始めて受かるなんてね……すごいよ」

「まあな……絶対受かるって決めてたから」

 荘志は意味ありげに言う。


「――美琴のために」


「……え?」


 荘志は真剣な顔で言う。

「俺が美琴と同じ大学に行きたいって言い出したのは、美琴と一緒に大学生活を送りたかったからだよ」

「そ……そうなの?」

「ああ。受験頑張れたのも、合格できたのも、全部美琴のおかげだ」

「そ、そんなことないよ!」

「いや、そうなんだ。美琴がいたから頑張れた。……だって――」


 荘志は、覚悟を決めた顔で言う。



「――だって、美琴が好きだから」



「――っ!」


 荘志は、力強く言う。



「――俺は、美琴のことが好きです。ずっとずっと、大好きでした。付き合ってくれませんか?」


 荘志は、真っ直ぐに想いをぶつける。


 それに対し、美琴は、泣きそうな顔で――、



「はい」



 とこぼす。


 そして、荘志に勢いよく抱きつく。

「私も、ずっと大好きだったよ! 荘志くんの彼氏になりたい!」

「美琴……!」


 美琴は胸に顔を押し付けて言う。

「ずっと、我慢してたもん……! 二人で勉強してる時も、ずっとこうやって触れていたかったもん……!」

 荘志は肩に手を回し、美琴を抱き寄せる。

「美琴……俺もだよ……! ずっと美琴とこうやって一緒になりたかった。ずっと……大好きだった!」


「荘志くん……! 大好き!」

「――!」


 そう言って、美琴は荘志の唇を軽く奪う。


「……これからは、いっぱいキスしようね……!」


「……! あぁ!」


 二人はもう一度、深いキスをする。


 二人が我慢し続けた、二人の時間を埋めるように――。





 これは、自習室から始まった、真っ直ぐな人間たちの恋愛物語だ。



<終>







 ────────────────


 あとがき



 最後までお読みいただきありがとうございます!

 受験勉強をしていたら、いつの間にかこんな小説が出来上がっていました……笑。

 少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

 もしよろしければ、★の評価などいただけると本当に嬉しいです。


 ここで少し宣伝になりますが、カクヨム甲子園のショートストーリー部門に応募している短編小説を書きました。

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 最後になりますが、ここまで読んでいただいた全ての方、本当にありがとうございました! 反応などもいただいて、本当に励みになりました! 

 恐らく今後は勉強のため新作を更新できないと思いますが、必ず戻ってくるので作者のフォローもしていただけると嬉しいです。

 ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!

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自習室からはじまる恋愛物語~ナンパを助けたら美少女からお礼をもらうことになった~ 不管稜太 @fukuba_ryota

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