最終話 二人の心
華恋との一件の後、二人はいつもの生活に戻った。
二人は一緒に勉強をし、昼は美琴の弁当を食べ、一緒に帰る。
あれ以降、華恋が美琴に近づくことも無くなった。
荘志の脅しが効いたのだろう。
夏休みが終わっても、放課後と土日は一緒に勉強をし、お弁当も一緒に食べた。
二人はずっと、受験生らしく必死に勉強を重ねた。
二人の関係は、相変わらずだった。
二人とも、恋心を隠して我慢していた。
お互い気持ちを伝えることはなく、勉強に集中した。
秋が過ぎ、冬が過ぎた。
世間の喧騒に負けず、二人は
そして、季節は桜の咲く頃になった。
※
三月九日。
春の訪れを感じさせる暖かな気候。
桜の蕾は、徐々に開き始めている。
「いよいよだな」
「いよいよだね」
今日は、二人の第一志望の大学の合格発表の日だ。
「大丈夫かなぁ……」
美琴が心配そうにつぶやく。
「あれだけ頑張ったんだ。大丈夫に決まってんだろ!」
荘志は笑顔で言う。
「……そうだよね!」
美琴もつられて笑顔で返す。
「ほら、見えてきたぞ」
大学の入口にそびえる大きな掲示板。
そこには受験番号が書かれた数字の羅列がびっしりと並んでいる。
それを見て、歓声を上げる者、無念の涙を流す者など、会場は千差万別に包まれていた。
掲示板の前に向かいながら、荘志は今までの受験生の生活を思い返していた。
ふと見かけた悪質なナンパ。それを助けて、美琴と出会った。
そこから、夢のように楽しい毎日が始まった。
二人で勉強をし、二人でご飯を食べ、二人で帰る。
辛い勉強も、美琴がいたから頑張れた。美琴と一緒だから、頑張れた。
――ほんと、楽しかったな……。
楽しいなんておかしいのかもしれないが、受験生としての毎日は、荘志にとってこれ以上ないくらい楽しい日々だった。
荘志はそんなことを思いながら、大学の門をくぐる。
「……緊張するな」
「……うん」
二人の間に、独特の緊張感が走る。
二人は無言で掲示板の前へと行く。
無機質な番号の羅列と、向かい合う。
世界が止まったかのような静寂が、二人を包む。
二人は沢山の受験番号の中から、自分の番号を必死で探す……。
――――。
「「……あった」」
二人の声が同時に響く。
「う、嘘だろ……やった……!!」
「や、やったよ……! 荘志くん!!」
大きな不安が、すべて喜びに変わっていく。
「よ……よっしゃあぁーー!!」
「やったぁー!!」
二人は思わず手を取り合った。
「やっと……やっと、夢叶った……!」
「うん……!」
荘志はまだ信じられないような顔でつぶやく。
美琴の目には涙が零れていた。
二人は爆発しそうな喜びを分かち合った。
――少しは釣り会える男になれたのかな……。
二人は、舞い上がるように喜んだ。
※
帰り道、二人は歓喜に溢れて歩いていた。
「まさか本当に二人で合格できるとはな……」
「ほんとだね!」
二人は笑い合う。
「美琴……本当に今までありがとな!」
「ううん! 私なんて何にもしてないよ!」
「いや、ほんと感謝してもしきれないくらいだよ……」
「私だって、何度も荘志くんに助けてもらってるから! お相子だよ!」
美琴は眩しい笑顔で言う。
「でも荘志くん、まさか夏から始めて受かるなんてね……すごいよ」
「まあな……絶対受かるって決めてたから」
荘志は意味ありげに言う。
「――美琴のために」
「……え?」
荘志は真剣な顔で言う。
「俺が美琴と同じ大学に行きたいって言い出したのは、美琴と一緒に大学生活を送りたかったからだよ」
「そ……そうなの?」
「ああ。受験頑張れたのも、合格できたのも、全部美琴のおかげだ」
「そ、そんなことないよ!」
「いや、そうなんだ。美琴がいたから頑張れた。……だって――」
荘志は、覚悟を決めた顔で言う。
「――だって、美琴が好きだから」
「――っ!」
荘志は、力強く言う。
「――俺は、美琴のことが好きです。ずっとずっと、大好きでした。付き合ってくれませんか?」
荘志は、真っ直ぐに想いをぶつける。
それに対し、美琴は、泣きそうな顔で――、
「はい」
とこぼす。
そして、荘志に勢いよく抱きつく。
「私も、ずっと大好きだったよ! 荘志くんの彼氏になりたい!」
「美琴……!」
美琴は胸に顔を押し付けて言う。
「ずっと、我慢してたもん……! 二人で勉強してる時も、ずっとこうやって触れていたかったもん……!」
荘志は肩に手を回し、美琴を抱き寄せる。
「美琴……俺もだよ……! ずっと美琴とこうやって一緒になりたかった。ずっと……大好きだった!」
「荘志くん……! 大好き!」
「――!」
そう言って、美琴は荘志の唇を軽く奪う。
「……これからは、いっぱいキスしようね……!」
「……! あぁ!」
二人はもう一度、深いキスをする。
二人が我慢し続けた、二人の時間を埋めるように――。
これは、自習室から始まった、真っ直ぐな人間たちの恋愛物語だ。
<終>
────────────────
あとがき
最後までお読みいただきありがとうございます!
受験勉強をしていたら、いつの間にかこんな小説が出来上がっていました……笑。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
もしよろしければ、★の評価などいただけると本当に嬉しいです。
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最後になりますが、ここまで読んでいただいた全ての方、本当にありがとうございました! 反応などもいただいて、本当に励みになりました!
恐らく今後は勉強のため新作を更新できないと思いますが、必ず戻ってくるので作者のフォローもしていただけると嬉しいです。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!
自習室からはじまる恋愛物語~ナンパを助けたら美少女からお礼をもらうことになった~ 不管稜太 @fukuba_ryota
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