第11話 ライジング


「――その女に触るんじゃねぇ」

 


 ドスの効いた低い声が響いた。


「そ、荘志くん……!?」


 荘志はゆっくりと一也に詰め寄る。


「あぁ? なんだテメェ!」

 一也は怒気に孕んだ顔で、荘志の胸ぐらを掴んだ。

「おい! テメェぶっ殺すぞ!」

 一也は迫力のある声で言う。


 荘志はそれに対して、ただ冷たい顔をして――、


「――ナメてんのか?」


 と一言。


 荘志は一也の手を片手で振り払い、胸ぐらを掴み返す。

 そして、ただならない様相で言い放つ。

「この女に近寄るんじゃねぇよっ……!」

 荘志はシャツを掴む手に力を入れる。

「……くっ!」

 一也が振り払おうとしても、簡単に振り払えない。


「……てめぇ、ツレの教育が出来てねぇんじゃねぇか……? てめぇごときが美琴に手ぇ出すんじゃねえっ……!」


「ひ、ひっ……!」


 荘志は全人類を震撼させるような、凄みのある声で言い放つ。


 荘志がつかんだ手を放すと、彼氏は地面に崩れ落ちる。

 あまりの恐ろしさに、腰が抜けてしまったようだ。


 そんな一也を俯瞰して、荘志はゆっくりと華恋を睨みつける。

「……な、なによっ!」

 明らかな強がりを見せる華恋に、荘志が上から睨みつける。


「誰だか知らねぇけどよぉ……美琴に嫌がらせするならもう二度と美琴に近寄るんじゃねぇっ!」


「ひゃっ……!」


 華恋は今までの余裕な態度の跡形もなく、恐怖に怯える。

 荘志は、低い声で続ける。


「次美琴に近づいてみろ……」


 荘志は、不敵に


「――ただじゃすまねぇからな」


「――キャーーー!!」


 華恋は全速力で逃げ出す。

 それに続き、一也もおぼつかない足取りで華恋を追いかける。


「……だっせぇな、あいつら」

 荘志はボソリとつぶやく。


「――そ、荘志くん! な、なんでいるの……?」

 美琴は荘志に駆け寄った。

 荘志は少し恥ずかしそうに下を向いて言う。

「……毎日美琴が自習室出てから駅までつけてた」

「えぇ!?」

「心配だったからしょうがねぇだろ! それに今日だって危なかったじゃねぇか!」

「そ、そうだけど……」

「それよりも……首のキズもあいつか?」

「う、うん……」


「おい……なんで言わなかったんだよっ!!」


 荘志は今日一で声を張り上げる。

「そりゃ、俺なんかと一緒にいたって嫌かもしんねぇけどさ……、そんな一人で抱え込むなよっ!」

「そ、荘志くん……!」

「美琴はしっかりしてるけど、トジなんだから! もっと人を頼れよっ!」

 荘志は目一杯の声で言う。


「――ご、ごめんなざぁい!」

 美琴は子供のように泣きだす。

「ちょ、美琴……」

「ごめんねぇ! ぞうじに、迷惑かけたくなくて……! ほんとはいっじょにいたかったけど、嘘ついて……! ひどいことも言って……!」

 美琴は荘志の胸の中で泣きながら言う。

「それなのに、たすげてくれて……! ありがどうっ!」

「……もう……バカだろ」

 荘志はそう言って照れくさそうに笑う。

「……美琴も、俺のキーホルダー大切にしてくれてありがとう」

「……うん!」

 美琴はより一層激しく泣き出した。


「まったく……、美琴に嫌われたかと思ったっつーの」

 美琴は泣きながら、激しく首を振る。

「これからは、もっと頼ってくれよな」

 すると美琴は、大きく首を縦に振る。

「よしよし……怖かったよな……。よく一人で頑張ったな……」


 荘志は、胸の中で泣き立てる美琴の頭を撫で続けた。








―――――――――――――――――


 次話が最終話です。

 明日の十八時に更新します。

 どうぞ最後までお楽しみください!

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