最終話 私の旅立ち
村中の炎が燃え尽きた頃に私はやっと泣き止んだ。
でも、心の中はまだぐちゃぐちゃだった。言われた通りそのまま旅に出るような気分にもなれなかったし、かといってこのまま何もせず止まっているわけにもいかなかった。
私は目の前の、焦げ果てたお兄ちゃんだったものに近寄る。
既に此処を去った魔物が見せつけて来た時よりもボロボロで、手で触れたら崩れてしまいそうなほどになっていた。
「お兄ちゃん…」
答えはない。一生の内の奇跡が1度でも起こるなら今この瞬間がいいと思ったが、そんな都合のいいことは無い。
どうして私は生き残ったんだ。
別に生きたくなかったというわけじゃない。ただ私より生きてた方が良かったんじゃないかってそう思っただけの事。
目の前のお兄ちゃんなんて、長年の夢が目前だったというのに。
「あれ…?」
ふと、両手で祈る様な形をしていたお兄ちゃんの手の中に、何かが見えた。私はそれに手を伸ばす。
中から出てきたのは、小さく折りたたまれた紙だった。
「これって…」
その紙を広げると、見覚えのある箇条書きの羅列が書かれていた。
お兄ちゃんの見せてくれた『旅の目標リスト』だ。改めて私はその内容に目を通した。
――――――――――――
・海を見る
・伝説の武器を手に入れる
・世界中に名を轟かせる
・カナリアさんを超える
・世界一の風景を見る
・神様に会う
〇大切な仲間を見つける
・空の上にある都に行く
・自伝を書く
・無事に故郷に帰る
――――――――――――
「あはは…相変わらず全部夢物語みたいな…」
でも、なんて素敵なんだろう。
全部失って何もなくなったはずなのに、これを見ていると私の中に何か熱いものがこみ上げてくる。
ここに書かれているのはお兄ちゃんの夢の跡。でも、私の夢でもあった。
あの夜に初めてこれを見た時、私は感動した。村の外に出てそれからどうするかなんて考えていなかったから。
だからここに書かれた事を私も叶えたいなって、おぼろげながら思ったんだっけ。
そんなことを思い出しながら私はその紙を胸に抱いた。
「このまま、死んじゃおうかなって思ったんだけどなぁ…」
でも、あんなものを見たら思いだしてしまった。旅へと行きたい気持ちが溢れ出してしまった。
死んでも焼け跡一つ付かない様に大事に握ってたことからよっぽど大事にしていた夢だったんだと思う。
ならその夢は、私が叶える。ううん叶えなくちゃいけない。お兄ちゃんの無念は私が叶えるんだ。
あいつの言いなりみたいになるのは癪だけど、それよりも今は自分の気持ちに従いたい。
紙の端っこを握り、服のポケットへと突っ込んだ私は、村の外へと歩みを進める。
もう、私の記憶に会った村は戻ってこない。焼けた景色がそう言っているのが嫌で走り出す。
旅に出てあるのは魔物が言っていたような楽しみに満ちているのか。
それとも、全部嘘で外の世界は苦しいことで満ちているのか。
そんなことはもうどうでも良かった。今の私は旅に出て夢を叶えることしか考えてなかった。
しかし、村の出口まで来て、ふと私は足を止める。そして振り返って一言呟いた。
「お母さん…ガンテツさん…サユおばさん…お兄ちゃん…」
この村で、私に優しくしてくれた人達。もう会えない人達。声が届かなくても言っておきたかった。
この村を出るのだから。そして私の夢じゃなくて、お兄ちゃんの夢を継いでいつか帰るんだから。
「…行ってきます!」
そうして、私は旅に出た。希望に満ちた旅立ちでは無かったけれども、確かな夢を持っていた。
どうか、彼女の旅路に祝福があらんことを。
田舎育ちの花 【村の外を何一つ知らない私が旅に出るまでと叶えるべき10の目的】 逃亡者S @syanaryu
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