第4話 ハッピーエンドなのです!
結論から言えば、ミヤコの作戦は上手くいった。
シンジは姉に対するトラウマが本当にあって、ミヤコとの婚約は破棄されたらしい。
そして、俺は公爵様にミヤコとの婚約を認めてもらうため決闘を挑み……圧勝した。
自分ではあまり自覚がなかったが、魔王討伐の旅を乗り越えて、成長していたようだ。
そうだって予想付いていたなら、ミヤコも隠さず教えてくれればよかったのにな。
現在……たった一日で多くの事が変わっちまった事を実感しつつ今晩も俺は騎士院の食堂にて一人で食事していた。
認めてもらったとはいえ、公爵様も急な出来事だった為にミヤコと二人きりで話す機会が欲しいらしく、俺はいつも通り騎士として帰ったのだ。
態と食べるスピードを落として、ゆっくりと過ごしていると、やたらハイテンションで騒がしい声が聞こえ始めてくる。ミヤコの声だ。
「やあやあ、騎士様~! いるぅ? あっ、いた~! ほれほれ、乾杯するのです! ほら、酒を手に持って~……ってお酒は?」
騎士は割り当てられた休みの日以外飲酒禁止だ。
俺のシフトじゃ、今日は休みじゃないんだよ。
「知っているのです。月月火水木金金!」
それは休日ないから!
俺の前世の世界の事、本当によく知っているな……やっぱ聖女魔法って便利なんだな。
「そうなのです! 凄いのです! さあ、コーイチさんも飲むのです!」
だから、飲んじゃダメだって……もう酔っているのか?
もう一度伝えるが、騎士は休日以外飲酒禁止なんだって。
「何だと~? 私が公爵継いだら、そんな規則はなくすのですぅ」
おいおい、本当にもう酔っているじゃないか。
まあ頑張ってくれよ……きっと皆、喜ぶぞ。魔王がいなくなって魔物が弱体化した今じゃ、この規則は若干古い気もするからな。
しかし、問題なのはミヤコがお酒飲む方じゃないのか? まだ十五の年だっていうのに……俺の前世では未成年飲酒と言ってだな。それはよくないことなんだ。
「ぷはぁっ、ごちゃごちゃ煩いのです。今日はめでたい! ぱぁ~っと飲むのです!」
とりあえず……勇者様との婚約破棄おめでとう、ミヤコ。
「まあまあ、当然なのです! コーイチさんもお父様吹っ飛ばして凄かったのです! こう、バシュッ! みたいな!」
吹っ飛ばしてはいないな? 大分美化されているみたいだけど、見ていてくれたのか?
「勿論なのです! 光魔法【望遠鏡】で、今みたいに遠くからみていたのです」
そっか、そういえば……今のこの場でも
でも、そんな魔法まで併用して魔力は大丈夫なのか?
まあ……普通に念話できているし大丈夫っぽいけど。
「ふふん、当然平気なのです。私は聖女として完璧なのですから」
相変わらず猫被ってるんだなー。
酔っぱらっているんだし、つい声を出して本音駄々洩れないようにしておけよ。
「そんな事あり得ませんからぁ。三十年の技術の賜物なので……そりゃも~、達人なのです」
……は? 今、なんて? さっ、三十?
「ぷはっ~、お酒美味しい~! お酒飲まないなんて人生の七十割損しているのです!」
ミヤコはいつの間にか酒に溺れて、俺に念話で心の声が駄々洩れだった。
しかし、俺の心を読まれている様子はない。
飲み過ぎないように心配しながら、俺には考えなければならないことができてしまった。
***
そして翌日、俺はミヤコと顔を合わせていた。
ミヤコの説得の末、婚約が成立したのだ。
今、部屋に二人きり……小さなテーブルを囲んでティーカップを上品に啜りながら、ミヤコが本来の声で話し始めた。
「やっと上手くいったのです。気分は如何ですか? 騎士様」
どうだろう……あまり実感はない。
それにしても、ミヤコって本当にそんな声だったんだな……魔王討伐の冒険の途中にも偶に聞いた事があった気がするけど、なんか違和感がある。
「ちょ、ちょっとだけ魔法で弄ってはいるのです。それよりも、何で心の中で会話するのです?」
魔法って凄いな。
心の中で話しかけているのは何となく……っていうのは建前で、心読まれているからもう聞くんだけどさ。
「ん?」
ミヤコ、隠している事あるだろ。
「……遂にバレてしまったのですか。無理もないのです……この距離で念話をすれば、私が実はテレパシーを読み取るだけで送る事が出来ないとバレてしまうのです! 流石、気付かれていたのですね」
ティーカップをそっと置いて、優雅な微笑みと共に顔を向けられるが、俺は困惑していた。
ん? 違うぞ……てか、そうなのか? 念話……嘘だったのか!?
「あれ!? もしかして、自滅したのです!?」
えぇ……この感じ、なんで心読む方は本当なのに墓穴掘ったのかよ。あり得ないだろ。
「うぅ~、そう言う事もあるのです」
それにしても、ミヤコの言う事が本当ならどうやっていたんだ? ミヤコの声が聞こえていたのは本当だと思うんだけど。
「あー、それは……音魔法【超々指向性スピーカー】なのです!」
ごめん、何それ。指向性……?
中々日常生活では馴染みない言葉が出てきた。
異世界どころか、前世でもあまり聞き覚えがないぞ。
「指向性スピーカー、簡単に説明すると……音の進む幅を狭めて特定の範囲にだけ音を伝える技術なのです」
つまり、周囲の人に気付かれる事なく、特定の人物に音を伝えられるって事か?
あっ、だから周囲に人がいる時は声を出さなかったのか。
「そうなのです! 距離があったので、自然と幅は広がってしまうのですが、音量も維持できる魔法に改良してあるので、周囲に人がいないタイミングを狙っていたのです」
なるほど……声の仕組みについては納得した。
だけど、俺にミヤコの感情が伝わってきた気がしたんだけど……それは?
「その伝わった感情、恐怖だけじゃないですか? 音魔法で怖い音と周波数を作って、私自身に伝えることで、契約魔法【騎士の誓い】を誘発させたのですよ!」
言われてみれば、本当に恐怖以外は伝わってこなかった。
まんまとミヤコの罠に掛かっていたという事か。
通話料金の例えが全くの的外れだったという事にも納得がいくし、やけに魔力量に余裕があった訳だ。
「鈍感~。どんな気持ちなのですか~?」
畜生……なんで墓穴掘って秘密をバラしちゃった側が得意げなんだよ!?
本当に良い性格をしていると思うよ、ミヤコは。
「大体、本当にテレパシー送っていたら、鍵括弧が付かないのです」
……メタ発言はやめるんだ。
気付けなかった事が素直に悔しいよ。
心読めるんだから、敗北を認めているのは伝わるだろ?
「よろしい……で、コーイチさんが言う私の隠している事って?」
あっ、そうだ……そっちが本題だった。
ミヤコにも隠している事情があるんだろうから、今みたいに心の中から伝えているんだけど……ミヤコってさ、転生者だよな?
「……昨夜、お酒に酔って何か口を滑らせてしまったのです? まあ……その通りなのです」
おお、やっぱり――。
「ですが、今この瞬間……隠している事情はなくなりました」
えっ? それはどういう。
「私が隠していたのは、コーイチさん相手なのですから、当然なのです」
その瞬間、俺は本能的に警戒心を引き上げていた。
しかし、ミヤコは清々しい顔を崩さない。
「もう知りたい情報については心を読み切っているのです。そんなに私の事が好きだったなんて……感激しちゃったのですよぉ。ねっ? お兄ちゃん!」
その呼び方……やっぱり澪だったのか!?
宮越澪は俺の前世、宮越幸一の妹だ。
この世界の名前の法則に従えば……確かにミヤコ・シュミオンは似た名前だろう。
まさか生まれて今日まで気付かなかったとは……鈍感と認める他ない。
しかし待て、読み取ったってまさか……俺が心を開いた時、本当に読み取った情報は四季さんについてではなく、俺の澪に対する密かな恋情だったのか。
そうだ、澪ならば……俺の記憶を探るまでもなく事情に詳しかった筈だから。
「その通りなのです! お兄ちゃんラブな妹だったのです!!」
マジか……夢じゃないよな?
俺が前世に悔いがあるとすれば、それは手遅れになってしまった三奈子の事ではなく、実の妹のことだった。
まさか俺に冷たかった妹が実は俺の事を好きだったなんて、夢みたいだ。
だけど、この世界に転生したって事はつまり……。
「はい。愛するお兄ちゃんの後追いで死んで……というのは嘘で、お兄ちゃんが事故死した悲しみで流れた涙につい足を滑らせて死んでしまったのです」
事実の方が嘘みたいに聞こえるんだけど……澪は昔から不器用だったからな。
ありそうな気がしてきた。
「だから、魔法を極めたのです。前世で出来なかった事をするのは、ロマンなのですから」
俺に魔法理論はわからないが、不器用でもやりようによっては器用になれるのが魔法って事か。その為の努力を考えれば……頑張ったんだな。
「えへへ~、お兄ちゃんに褒められる為に頑張ったのです」
俺との婚約も、前世で出来なかったロマンの一つって事か。
「はいなのです!!」
そういや、シンジとの婚約破棄の話って、一体なんだったんだ?
あれも、そもそも演技? ミヤコからすれば、俺の妹に対する本心を知りたかったから接触してきたんだろ。
「婚約の話は本当にありまして……結構私も焦ってしまったのです。信二くんをキモオタだなんて表現したのは、少しでもお兄ちゃんに私の焦りを共感してほしかったのです」
そっか、確かに焦らされた気はするけど、計画的だったんだな。
まあお姫様を助ける騎士様になれたなら、良かったと思うよ。
でも……それなら、疑問がまだ残っている。
俺が妹の話を出した時にどうして嫉妬のような感情を伝えてきたんだ?
いや、違う。嫉妬だと解釈したのはあくまで俺であり、伝わったのは単なる恐怖だった。
あの時、話を遮ってきたし……もしかして、照れ隠しの為に【騎士の誓い】を誘発させたな!
「ピンポーン! 大当たりなのです!」
やっぱり不器用な部分も残っている……それが澪の面影を感じさせてくれる。
念話も、澪だって事を隠す事には成功していたけど、実際には考えた事が駄々洩れだった訳だし、抜けている部分はまだ多い。
なあ、まさかミヤコが無口だったのって。
「喋ると気持ちが駄々洩れだからなのです」
前世で俺が近づくと冷たい態度だったのって。
「喋ると気持ちが駄々洩れだからなのです」
前世で、冷蔵庫のプリンが無くなっていても黙っていたのって。
「喋ると気持ちが駄々洩れだからなのです」
おい、最後の確信犯じゃないか……!
俺のプリン勝手に食べたのお前だったのかよ!
「だってぇ、思った以上に大事になって……バレたら嫌われちゃうかなぁって」
そんな事じゃ嫌わないって……俺がどれだけお前を大事にしていたのか、知らない訳じゃないだろ。
「ん~っ、そんな事言われたら、愛が溢れてきちゃうのです! 現世では、ずっとずっと一緒なのです! 今度は死ぬときも一緒じゃないとヤなのです!」
ああ、そうだな。
ちょっと重いところがあるけど、それでも俺は澪の事が本気で好きだ。
「平和な世の中になるまで、明かせなくてごめんなさいなのです。お兄ちゃんの心から私への気持ちを探る事も怖くて……魔王を倒して婚約してもらえるまで隠していたのです」
そっか、つまり……俺を勇者パーティーに加えた時から俺の正体に気が付いていて、全部計画的だった訳だ。
すると、ミヤコは椅子をズラして俺の隣へと寄って来た。
「もう寂しい食事は無しなのです。これから毎日、私と一緒なのですよ?」
今まで俺を独りぼっちにしていた事に、申し訳ない気持ちがあるんだろう。
その分の反動なのか、ミヤコは過剰なくらいの愛を囁いてくる。
だけど、俺もそれがいいと思う。
本当は、俺も異世界にロマンを求めるなら、妹が隣にいて欲しいと……転生した時からずっと思っていたのだ。
そして今、その願いは叶った。
隣には――俺の心を……転生してまで放してくれないヤンデレ妹がいるのだから。
「ねぇ、お兄ちゃん……異世界でなら、結婚できるのですよ」
顔が近くて、耳がくすぐったいくらいウィスパーボイスが幸せの感情を伝えてくれる。
音魔法【ASMR】の威力は抜群だった。
【短編】転生騎士とテレパス聖女様 佳奈星 @natuki_akino
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます