笠地蔵~令和Ver~

達見ゆう

最高気温更新は山間部に多い

 時は令和。場所は七体の地蔵が祀られている『S県K市大字七地蔵町』。

 名前の由来は七体の地蔵が祀られていることである。


 彼らはかつて自分の暮らしより傘をかぶせてくれたおじいさん達にお礼を送ったお地蔵さん達であり、石という頑丈な体ということもあって令和の今も存在していた。

 地元の市役所が真偽をロクに確かめずに適当に「笠地蔵のモデルとの説があります」と売り込んだため、観光スポットとして客もそこそこ訪れて賑わっていた。実際に正しいのだから、まあそれはいいだろう。


 しかし、数百年経つといろいろと変わってくるものである。その一つが「地球温暖化」である。地蔵達の体は石なので灼熱の暑さには参っていた。


「今日も暑いな……」

 一の地蔵がぼやいた。

「さっき、観光客の一人が『今日の最高気温三十六度だって』と言ってたな」

 二の地蔵がそれに答えるようにつぶやく。

「いや、それは都会の話だろ、ここは山だから少しは涼しいはずだから」

 三の地蔵が疑問を挟む。

「甘いな、こないだ落ちてた新聞には『S県K市、今年も日本一の暑さを目指す』って意味のわからんことが書いてあったぞ」

 四の地蔵がすかさずツッコミを入れる。

「マジか、ここが日本一暑いって、何の罰ゲームだよ」

 五の地蔵が嘆く。

「役所の人も工夫してくれてるけどなあ。うっかり触って火傷した子がいたから、日よけを作ってくれたり、『みすとしゃわあ』を付けてくれたがイマイチじゃな」

 六の地蔵が説明っぽいことを言う。

「まさに『焼け石に水』だな」

 七の地蔵の言葉に全員黙ってしまった。寿命の概念は無いが、オヤジギャグに困る概念はあるようだ。

「昔は寒い中に傘を被せてくれた老人がおったが、この暑さに対して誰か何かをしてくれたら恩返ししたいのう」

 七の地蔵がボソッとつぶやいた後、一の地蔵が閃いたように叫んだ。

「そうじゃ、何かで我らを冷やしてくれたら恩返しというのはどうじゃ? 日除けやみすとしゃわあよりも冷たい物だ!」


 基本的には地蔵達の会話は普通の人間には聞こえない。しかし、稀に聞こえるものがいる。


 その場の隣の屋台のかき氷屋の主人がその類の人間であった。観光スポットの隣にあるからかき氷はよく売れるのだ。しかし、人ではない言葉が聞こえるというと病院へ連れていかれるので秘密にしていた。そして、もちろん 地蔵達の会話をバッチリ聞いていた。


(え? じゃあ、商売道具の氷を使えば、俺は億万長者になれるのか? やはり氷で作った帽子を被せるか。いや、それじゃすぐに溶ける。氷柱花みたくする? いやいやいや、逆に寒すぎると祟られそうだ。何かないか、ふうむ。そうだ! あれならどうだろう? お寺と相談だ!)

 考えを張り巡らせ、主人は市役所と持ち主のお寺と掛け合い、「熱いぞ!K市!暑さに負けるな、お地蔵様!氷のお札をお供えして、お地蔵様を涼しくさせようキャンペーン」を展開した。かき氷を買ったお客さんにセットとして板状の氷を渡し、お地蔵さんの元に備えたり、熱い部分に当てて冷やしてあげようと言うものである。


 これは意外と当たった。お地蔵さんの灼けた体もコンクリの照り返しも氷でどんどん溶けて冷やされていく。暑いから地面もすぐに乾く。子供は面白がって札を次々とお地蔵様に当てていき、大人も自分を冷やす分とお地蔵さん達の分と買う人も出てきて、御札用の氷を単品として売り出すくらいの勢いとなり、新たな納涼スポットとして繁盛した。


(うむ、我ながらうまく行った。儲けはお寺と折半だからたいしたことは無かったが、これでお地蔵様から金銀などのお宝がいつか我が家にやってくるな。いや、令和の笠地蔵だ、もしかしたらハイテクな家電一式やゲーミングパソコンなどが来るかもしれないな)

 かき氷屋の主人はニヤニヤが止まらなかった。


 そして、鈴虫が鳴くようになった頃の夜。一の地蔵から七の地蔵までが会議を行っていた。

「今年はあのかき氷屋のおかげで涼しかったな」

「何かお礼をしないとならないな」

「では、また金銀サンゴの財宝にするか」

「いや、あの時代より今は『こんぷらいあんす』が厳しくての。お礼は金品なら寄付金の三割程度、それ以外なら同等のものと定められている」

「なんでまたそんな厳しくなったのじゃ?」

「昔は金山や銀山、甲府の水晶鉱山から調達していたが、どれも閉鎖して入手困難だからだそうな。サンゴは環境保護とかで人間の監視が厳しくて採るチャンスが無い。

 真珠は今は人間の養殖がメインなので、さすがに仏が人のものを盗む訳にはいかぬ。

 あとは人の世の基準になるべく合わせろと言う通達が平成になってから来たのじゃ」

「なんとまあ、いろいろと世知辛いのう。では同等のものでお礼をするかの」


 その頃、かき氷屋の主人は首を傾げていた。


「変だなあ。炊飯器も給湯器も電子レンジすら、なんでも冷えてできあがる。メーカーも故障ではないというが、なんでだろう?? ビールや冷奴はうまいけど、枝豆や唐揚げまでキンキンに冷えるってどうよ?」




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笠地蔵~令和Ver~ 達見ゆう @tatsumi-12

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