第8話 長女の眼(まなこ)

『今日の放課後も一緒に帰りましょう、あと家に遊びにでも来てください・・・姉さんたちも気になっていたので』


そうして俺は彼女についていく形で、突如決まった家に遊びに行くことになった。

たった数週間でなぜこうも仲が発展しているのか俺にもよくわからなかったし、こうして好きな人と一緒になれる時間ができたのは嬉しいことなのだが、彼女の取り巻く環境のためか、何かあるのではないかと考えてしまう。


「駅前で姉さんたちと待ち合わせをしています、二人は早めに授業が終わっていたらしいので、、、待つことになって少し怒っているかもしれませんが」


「あははは・・・」と苦笑しながら少し足早になっていく。俺も自転車を押しながら彼女の歩幅に合わせるかのように進んでいった。


しかもし、本当にあの剣豪沖田総司のクローンなのだろうかと思ってしまうほど彼女は優しかった。そう、人を斬っていた人には見えないほどに

確かに彼女は凛とした佇まいを持っていたりするが、それでも分け隔てなくクラスメイトには優しく接しているし、他クラスで一目見に来た来た生徒にも同様の対応をしていた。

その性格は沖田総司として残っているDNAなのか、それとも沖田咲夜として身につけた性格なのか。俺自身は後者であってほしいと思えてしまった・・・


「お、やっときたな。遅いぞー」


「ごめんごめん、帰りの準備が遅れちゃって。香奈江姉も生吹姉さんもお疲れさま!」


「ん…お疲れ」


3人の女子生徒が駅前に並ぶ。はたからみればそれはただの仲良しの姉妹に見えるだろうか、それとも仲の良い女子生徒たちだろうか。捉え方はそれぞれだが、激動の時代を生きた剣豪3人がこうも制服を着て片手に持ち帰りのコーヒーを持って溶け込んでいるのが不思議でしょうがない。


(あの人が現代の土方歳三でいいのか、、、?)


勝気な雰囲気でくせっけな次女である永倉とは全くの別。沖田咲夜と似ているのだろうと思ってしまうほどの艶のある背中までの長い髪をストレートに流している。

身長は160cmかそれより下か、背筋もよく物静かな雰囲気がより知性的に感じてしまうほどでだった。


土方 生吹(いぶき)


転生した三人の一人として、この姉妹の長女でもありかの有名な新選組の副局長として戦い抜いた伝説の人物。

そして「鬼の副長」とも恐れられる人でもあり、新選組の中でも最も厳しいとされる対内の法律、局中法度を制定した人物でもある。

そんな取り扱い注意な人物を前にして俺が思ったのは案外、単純なな一言だった


「思ってた人と違いますね、、、土方さんって」


口に出した瞬間、自分があまりにも無礼なことを言ってしまったことを悔やんだ。

言ってしまってからではもう遅い、後ろでは永倉香奈江が腹を抱えて笑っており、それを心配そうな目で見つめる沖田咲夜がいた。


何を考えているのかわからず、ただ視線がぶつかり合っている。口を開いたのは彼女の方からだった。ふぅ、と一言ため息をついたかと思えばすぐに表情が柔らかくなっていく。


「別に怒りはしないよ、転入してからも皆に言われていたからね。私は土方生吹、土方歳三のクローンだ。雰囲気が似ていないのは、他二人も一緒なわけだし。まぁ、仲良くしてくれ」


そう言って足を翻して駅の改札へと向かう。話し合いが終わった瞬間に永倉が土方へとちょっかいを掛けてそれをウザそうに追い払っていた。

歴史上の人物がこうやって目の前でふざけあっているのが今でも信じられない。


「ふふ、、、生吹姉さんって結構、勘違いされる人だから。仲良くしてあげてね?」


「お、おう」


確かに第一印象では怖さがあった。凛としていて美しい印象ではあったがそれ以上に何かを見定める視線も感じた。そしてそれが和らいだ瞬間、彼女の方から声を掛けてきたのだ。


ということはつまり・・・


「とりあえず、いい人として見てくれたってことかな」


こうして無事に信用を得た俺は日が暮れ始めた夕焼けの中、彼女たちの住む家へと向かっていった。


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初恋相手は壬生浪士♀ Rod-ルーズ @BFTsinon

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