第7話 問い

昔見ていた時代劇の中で新撰組なんていうのは主人公を追い回す警察みたいな存在に見えた。

ギリギリまで追い詰めたり、主人公の仲間を切ったりして、小学生だった頃はただの悪役のように見えていた。

それから何年も時間が経過して、新撰組なんていうのは、たちまち大人気コンテンツと化していった。

美少女ゲーム、ドラマにアニメ化など大衆にも受け入れられるようになり世間の認知度も人気も鰻上りになっただろう。

当然、俺だって彼達の評価は変わった。ただの人斬り集団から京都を暗躍する人たちから治安を守った人たち、自分達の信念を貫いた男達なんてカッコいい言い方をすれば良いだろうか。


命の灯火がいつ消えてもおかしくない時代を駆けていた彼らには少しばかりか尊敬の念は抱いていた。


なのに…なのに…


「どうして俺は沖田総司がサッカーをするところを見なくちゃいけないのだろう…」


我が朱ノ瀬(あかのせ)高等学校の2年のクラスではサッカーが行われており、今ピッチを駆け巡っている彼女こそ沖田総司のクローンで作られた沖田咲夜であった。


「沖田総司って、やっぱり運動神経いいんだな。あんなに上手くボール操れるやつ全国にいる連中ぐらいじゃないか?」


「そりゃ、当時あんなに剣を握って振り回していたんだ。ボールぐらい朝飯前だろ」


そう隣で話すのは朝、病院へ向かうとのことで休んでいた風間景吾だった。一人、制服姿でグランドを眺めており受診で診てもらった右肘には白い包帯がまかれていた。


「なぁ、その傷って痛くないのか?お前が遅刻してきてその腕を見たときにはビックリしたよ」


「経年疲労みたいなもんだよ、気にするなって。てか、俺のことより正。お前よかったじゃないか」


「何がだよ?」


「沖田さんへ声を掛けること成功したらしいじゃないか、青木から聞いたぞ。悩みに悩んでいたけど結果がいい方向に転がって良かったな!」


あのおしゃべりめ・・・

俺は声に出さないようにひっそりと青木のことを恨んだ。別に俺たちの仲だ、話す分にはいい。ただ、あまりにも早すぎじゃないかと思えてしまうほどで他にも何か言っていないかと不安になってしまう。

そんな男子の話をよそにピッチの上での沖田咲夜は躍動を続け、気づいたら大佐の圧勝という形で笛が鳴り戻ってきた。


「おー、やっぱりすんごいわ。彼女、今から部活動初めてたとしてもスカウトとか来るんじゃないかな?なぁ景吾・・・景吾?」


声を掛けるも反応がない、いや他のことに目線が言っているのだろうか。彼の目線を追っていくとこちらに小さく手を振る彼女、沖田咲夜がそこにいた。


「…俺はどうかと思うんだよな、クローンって。こんな意見今の時代にそぐわないと思うけどさ」


「え?」


「確かに昔の天才を引っ張ってこれたらより良い未来が出来るだろうよ、それこそアインシュタインとかのような天才をさ。けれど…」


「それはなんか違う気がするんだよ。今生きてる人で、今の時代を築かないといけない気がするんだ。古代の人達だって彼女達だって、環境は違えど皆、生きてきた時代の中で一生懸命、過ごしてきたんだ」


「だからこそさ、今やっていることは何か良い感じはしないんだよ、タブーっていうのか?昔で言うところの…まぁ、難しくて分かりにくいんだけどさ」


そう長く語った後、彼は「まぁ沖田さんの事を嫌いになった訳じゃないから」なんて言葉を足してきた。きっと彼なりのフォローなんだろう。



『今を生きてる人で今の時代を築かないといけない気がするんだ』


彼の言った言葉が頭の中で反発する。なぜだが知らないが俺自身もその考えに同意に近い感覚を持っていた。

確かに昔の天才を集めたらもっといい世界になるのかもしれない、俺たちの生活も経済もきっと良くなっていくのは間違いないだろう。けれど、その事実に首を振ることは難しかった。


(俺たちの時代ってことなのかな・・・有能も無能も一緒になってるからいいのかもな)


難しい問題が頭を脳を中から痛めつけてきてくる。先生も笛が鳴り男子と女子が入れ替わってピッチにたった。そう、今は授業中でしかも体育なのだ。少しは集中せねば・・・


ジャージのズボンを脱ぎ、ゼッケンを借りにいこうと朝礼台に向かうとたまたま沖田咲夜と鉢合わせしてしまった。今朝もこともあり、多少なり話せるようになったがまだ緊張の方が強い。

互いに軽く挨拶をし、グランドに向かおうとしたその瞬間に後ろから声を掛けられた。声の主は沖田咲夜だった。俺は少し膝を抱えて彼女の小さな小声を聞き取ろうとする。


『今日の放課後も一緒に帰りましょう、あと家に遊びにでも来てください・・・姉さんたちも気になっていたので』


そう言って彼女はこちらの返事を聞く前に校舎にある近くのトイレへと向かっていた。


急な話展開に頭が追い付かなくなり、俺は授業で精彩を掻くをかいていたのであった。

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