第三節

「なぁ◯、なんか怒ってる?」

「?」


帰り道、唐突に青木が変な事を言い始めた。私の心は至って通常運転だし、特に怒るような素振りを見せた覚えもない。青木には私の何が見えているのだろう。私が不思議そうな顔をしていると


「いや、何も無いならいいんだけど」

「?」

「あ、いや、、えーと。」

「なんでそう思ったの?」


なんとなく聞いてしまった。普段は聞かないけど今日は何故か気になったのだ。明日は雨か。


「だって!俺がØの事○って呼んでも何も反応な

 かったし、、、、」

「いや、特に何も思わなかった」

「え、そんなもんなのか??」


ちょっと悲しそうである。何故?呼び捨てにしただけじゃん。

少しの沈黙が流れた後、気まずさを紛らわすかのように青木が話し始めた。


「そ、そういえばさっきクラスメイトが前髪切っ

 たって話してたぞ」

「そうなの?気が付かなかったわ」

「女子なのに??」

「うん」

「あ!前髪で思い出したんだけどさ」


悲しそうな顔は見間違いだったのかも知れないと思うくらい、調子の戻った青木はいつものマシンガントークを炸裂させ始めた。テレビで面白かった事、兄弟と喧嘩した事、テストの点が過去最低だったこと、、、


最初は相槌を打つだけだった私も段々と興が乗り、、しまいには私たちの昔の思い出エピソードトークにまで会話が盛り上がってしまった。


そんなこんなで歩いていたら、あっという間に分かれ道に辿り着いていた。エピソードトークをもう少ししたいという気持ちもあったが、分かれ道なので仕方がない。


「じゃあここで」

「、、、」


いつもならここでバイバイの筈が、何故か分かれ道で止まったまま動き出さない青木。なんだかやはり今日は様子がおかしい気がする。もしかしたらさっきの呼び捨て?の事で何か気がかりでもあるのかも知れない。兎に角青木に聞かないと分からないと判断して


「青木?」


と呼びかけてみたが、反応はない。また何度か話しかけてみても、やっぱり下を向いたまま動かない。もしかして体調でも悪いのかと、青木の顔を覗き込んでみるが顔色は別に悪く無さそうだ。、本当に原因はなんだろうと考えこんでしまったその時、


「あのさ!」

青木がまるで覚悟を決めたような顔で、こちらに向かって声を張り上げてきた。





この時からなんとなく、嫌な予感はしていた。


「俺、ずっと前から」

予想的中、今すぐ私にチーター並の足の速さを与えてくれる神はいないだろうか。この場から逃げる。


「Øの事が」


、、、あ!今日の晩御飯はオムライスって言ってたんだよね。美味しいご飯の為にも早く帰りたいかも。という事で青木、私はここで失礼するからその話は来世でお願


「好きだ!!」












いつもの日常を形どっていた奴に、私の”いつも”は壊されてしまった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

無見無醜 @kotosan0103

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ