まず情景描写、知覚に依る音や光の表現は秀逸の一言です。一話の夏でありながら雨を受けて冷える腕や、水滴の反射で撹拌される踏切の色光などは現実体験に基づくものがあり、脳内での景色の想像が容易で読む際に詰まることがなく、快適な読書体験ができました。
二つに主人公の少女の心情描写。十七歳という深い思考が可能ながらもまだ人生経験が浅く、結論に至れず迷い惑う年頃にあって、三様の死の形を目の当たりにした彼女がどのように考え彼女なりの結論を導き出すのか。それぞれの死にフォーカスした少女の情動には、共感できる部分もありながら少女独自の考え方も見ることができ、少女が現実に存在するかのような人間性を垣間見ることが出来ました。
最終話の結びに少し甘さが見受けられますが、全体としての練度はかなり高く、題材から文章構成から、主人公の心情から様々な観点で楽しく読める作品でした。