第15話 会いたい人がいるんです

 とても綺麗な歌声が歌の間に響き渡る。

 ここは王の宮殿の一室だ。

 ここエヴォルバで人々の娯楽として、音楽が大流行している。そのため、王の宮殿では月に1回毎回違う歌人たちをお呼びし、庶民、貴族、平民関係なく、宮殿に招待し歌の披露会を開催している。

 ただいまフーリンは披露会をVIP席で鑑賞中だ。周りにいるのは、トーキス長官、シミネス事務次官、ワン・チョレ外務大臣などこの国の御要人ばかりだ。

 なぜならフーリンは王族の子として、この世に生まれているからだ。

 ステージ上では次々に、この国の歌人たちが様々な音楽を披露している。

 その中で特に目立っている女性がいた。

 純白なドレスを纏った歌姫は、その容姿だけで見るものを圧倒する。

 音楽の天才ともてはやされている歌姫をようやく招くことができた。

 彼女から発せられる声は、からだ自体が楽器なのではないかと錯覚させられるほどの音量音質。歌声だけではない、表情や仕草までもが至高と言える。

 これからの音楽界を引っ張っていくだろう歌姫の歌声に会場全体が魅了されている。

 だけど、、、、、、。

 会場でひとりフーリンは、大きなため息をついていた。


 「今日はお招きいただきありがとうございます!」

 披露会後に歌姫を訪ねると、屈託のない笑顔でこちらに寄ってきた。

 「評判以上の素晴らしい歌声でした。最高のステージをありがとうございます」

 フーリンが今持っている感情とは別に、王族らしい綺麗な言葉遣いで感謝を述べる。

 「こちらこそです!多くの人たちに私の音楽を届けることができてとても満足しています!」

 ただ純粋に音楽が好きで、それをたくさんの人に聞いてもらえて嬉しいと思っている心からの声のように感じた。

 「今日はとても良い一日になりました。お疲れでしょうから、ごゆっくりおやすみください」

 フーリンは挨拶を済ませたので、この場を立ち去ろうとした。

 「お待ちください」

 歌姫に呼び止められた。振り向くと、真剣な眼差しでこちらを見つめている。

 「先程の言葉はほんとうに思っていることですか?」

 「どうしてですか?」

 「だって、この部屋に入ってきた時から、心ここに在らずといった目をしてらっしゃいます」

 鋭すぎる指摘だった。

 「ほんとは私になんて興味がなくて、他の方が来るのを期待していて、その方は結局来なかった。違いますか?」

 歌姫の考察に対し、フーリンは正直に答える。

 「・・・・会いたい人がいるんです」

 この定期的な披露会もすべて、生まれ変わったサーランを捜すためだった。

 歌姫は理解したような顔を浮かべているがとても悲しそうな顔をしている。

 「そうですか。それは私ではなかったのですね、、、」

 気まずい空気が流れたあと、フーリンはひとつだけ歌姫に問う。



 

 「サーランという名を

     聞いたことはありませんか?」

 

 

 

 

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僕を忘れた君と君を忘れた僕 あきお @boatman

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