ただ漠然とした自然

かえさん小説堂

自然

 俺の朝は早い。ベッドから起き上がり、まずは外へ散歩しに行くんだ。


 俺の住むところは、自然が豊かで空気がうまい。


 見渡す限りに木々や森が広がっている。緑が多くて、住みやすいぞ。資源が豊富だから、あまり生活には困らないしな。


 朝のさわやかな空気を胸いっぱいに吸い込んで、自然と垂れてくる瞼をこする。どれだけ長く生きていようが、この寝起きというものはどうしても慣れないものだ。


 散歩ついでに、草や木やらの資源を取って、帰るとちょうどいい具合に腹が減っている。


 かまどでパンを焼いて、その焼き立てをほおばると、この上ない幸せを感じるんだ。どれだけ憂鬱に感じる朝でも、この瞬間だけは、悪くないと思える。



 朝食を済ませたら、次は畑の手入れだ。


 今のところは、ニンジンと、ジャガイモと、あとは小麦だな。種類を増やそうとも思ったが、今はこれだけで精いっぱいだ。それに、食材に関しては困ったことがない。近くの村人とも知り合いだし、困ったらそいつを頼ればいいんだ。


 お、今日は豊作だな。またたくさんパンが作れそうだ。


 さて、次はうちの家畜を見に行くか。


 俺の住むところは、動物も住んでいるんだ。ウサギや馬、そして豚や牛、鶏だな。俺はそこから捕まえてきて、量産する。


 むずかしそうだって? いや、案外簡単なものだ。


 もちろん世話は楽とは言えないが、やはり新鮮な肉というのは新鮮でうまい。餌なんかは畑でとれたやつの出来損ないをやっておけばいいし、放っておけば育っている。


 今日も逃げている奴はいなさそうだ。そろそろ食べられそうなやつもいるな。



 次はとってきた木材で、道具を作ろうと思う。


 丁度、スコップが壊れてしまったからな。そろそろ変え時だとは思っていたが、あんなに大破するなんて。


 そう、俺は道具も自分で作る。完全な自給自足の生活だ。


 困ったことはないのかって?


 そりゃ、ないということはないが。だが、たいていの問題は何とかなるものさ。俺がこの生活を送ってきて学んだことだ。きっと正しいに決まってる。


  そうこう言っているうちに、だんだんと形が出来てきた。道具もつくるのも、もう慣れっこだ。


 

 まあ、あとは自由時間だ。本を読むもよし、畑を耕して面積を増やすもよし、(まあ、たいていは後悔することになるのだが)あとは森を探検するもよし、乗馬をするもよし。


 自分のやりたいことを自由にやって、あとは寝るだけ。




 この生活が、理想的だと思うか?


 お前は、こんな生活をしてみたいと思うか?


 まあ、その返答は俺にはわかりえないことだが。


 俺自身、この生活には十分すぎるほど満足している。忙しいような暇なような、(きっと、それは充実というのだろうが)とにかく、そんな生活をしているんだ。

だが、俺はこの生活に違和感を感じ始めた。


 実を言うと、俺には小さいころの記憶というものがない。父親や母親の記憶もなければ、どうして俺がこんなところで生活しているのかもわからない。


 ううむ、俺はどうやってこの生活を手に入れたのだろうか。俺は、ずいぶん前から、この疑問に頭を悩まされてきた気がする。



 君たちは、考えたことがないか?


 本当はこんな世界は幻想か何かで、ただの妄想の世界を生きているのかも、とか。


 この世界とは違う、まったく別の世界が、本当にあるんじゃないかとか。


 少なくとも、俺は考えたことがあるし、俺はその説を信じている。



 ふとした瞬間に、まるで時が止まったかのように止まる体。高いところから落ちようが、マグマの中にダイブしてしまおうが、ゾンビに体を食われようが、気づいた時には、自室のベッドで起き上がっている。そんなものは常識。



 俺はふと思った。俺の生き方は俺の意思じゃなくて、誰か他の、神様みたいな存在が、俺を操っているんじゃないかって。


 ああ、それはお前らの世界でも同じことが言えるぜ。



 その行動は、言葉は、本当にお前自身の意思でやったものか?


 眠っていたのは何時間だ?


 本当は、何日も時が止まっていたんじゃないのか?


 例えば、お前が主人公のゲームを、誰か知らない、それこそ神様によってプレイされてるとか。



 俺の名はスティーブ。自然豊かなこの地で、幸せに、今日も一日を過ごしている。


 だが、やはりこの生活は不自然だと思う。


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