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残りの二週間というもの、荒れ模様の天候が重なり、トラヴィスたち飛行隊の隊員は大半をレディルームに閉じ込められて過ごした。
そのあいだ、過去の航空機事故ばかりを記録した海軍監修のフィルムを見せられた。
カタパルトデッキの端から機体半分ぶら下がったプラウラー、片脚が折れたまま着陸を試みるトムキャット。機種がわからなくなるほどめちゃめちゃに壊れた航空機の残骸と、めくれ上がった甲板。糸のように引きちぎられたアレスティング・ワイヤー……。凄惨な映像と船の揺れで、吐いてしまうものも何人か出るしまつだった。
炎上する機体から搭乗員を救い出そうとする救急隊の一部始終をとらえたシーン。担架で運び出されたパイロットは両手と顔面が焼けただれ、黒く焦げた唇のあいだから歯だけが白く光っていた。
こんなものを見せる海軍の連中はどうかしている。
トラヴィスは暗くされたレディルームを出て、アングルド・デッキ下のスポンソンで煙草を取り出した。彼は吐きこそしなかったものの、目と鼻の区別がつかなくなったパイロットがスクリーンに映し出されたとき、喉元に酸っぱいものがこみあげてきたのだった。
カチリ。プラスチックのライターは乾いた音を立てるだけで火はつかなかった。
何度かやってみたが同じだった。オイルが切れているのかと思って、彼はライターを海に放り投げようとした。しかし、柵から伸ばした自分の腕が小刻みに震えているのに気付き、手をひっこめた。
手に意識を集中させると、震えは止まった。
トラヴィスはもう一度ライターを擦った。ガスが供給される衣擦れのような音がして、すぐに火がついた。
彼はタバコを一本吸い終わるだけの時間そこにいた。
いつもは美しいエメラルドグリーンに輝く南洋の海も、今は空と同じ灰色に変わっている。上空ではすごい勢いで雲が流れていく。
こんなときに飛ぼうものなら、
何日かのちには彼らのホームベースがあるハワイに入港する予定だった。そこから先は三ヶ月間を陸上で過ごすことになる。何度かは海に出るだろう。そしてまた半年の訓練航海……。
フィリピン。それからハワイへ。いずれも彼にとってははじめての土地だったが、どちらも楽園と言われているところだ。人々は陽気で女性は美しく、ビールは冷えていて、リゾートには事欠かない。
――それなのになぜ、おれは冷たい海水で凍えたり、丸焼きにされる危険を冒してまで、いつまでも海軍なんかにいるんだろう?
SAVE ME 吉村杏 @a-yoshimura
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