第9話 若紫との結婚1
冬のある日、兄から連絡が来た。
内々に妻を迎え、その妻の裳着を行うので二条院に来られたしとのことである。
うん。順番逆。
我慢できなかったんだろうね。
私は兄に文を書く。
何日か前に行ってお手伝いいたしましょうか。と。
二条院の姫君には、母方の親族がいないため思った通り来てほしいとの連絡が来た。
私は二条院へ訪れる。
「おにいさま、この度はおめでとうございます。」
「ああ、ありがとう。」
「所あらわしをされたとはお聞きしていませんが、お相手は二条院の姫君でよろしいので?」
所あらわしとは、いわゆる披露宴だ。それをすることにより公に夫婦と認められる。
「ああ。その姫君だ。三日夜の餅は食べたよ。もう引き取っているので所あらわしはね。裳着もまだだし。」
相手は二条院の姫君、若紫で良かったようだ。
「姫君のお父君には連絡されましたの?」
「ああ。腰結いに来てくれるよ。」
「そう。ようございましたわね。」
腰結いは大切だ。私がしてもよかったが、実父がしてくれるならそちらの方がいいだろう。彼女の出自も確かになる。
今のままだと、どこのだれかわからない女だが、若紫の父の兵部卿宮が腰結いをすれば自ずと出自は確かになる。妾腹とはいえ宮家の姫君だ。邪険にはされまい。
この貴族社会で、誰の子だということはとても大切だ。十歳ごろから兄に引き取られているので、若紫の後見人が兄以外にいないのが、彼女のこれからの不安要素にはなるが。
「兵部卿宮様の反応はいかがでしたか?」
「喜んでくださったよ。私とのことも認めてくれた。」
まあ、認める以外の選択肢はありませんけどね。
「それで、お兄様、普通ならば結婚は裳着のあとだと思うのですが……。」
兄が顔を扇で隠す。
少しは悪いと思っているのだな。
「久しぶりに会った彼女がね、急に大人びていて、ついつい。」
世にいう少女趣味ではないようだ。よかった。
「ついつい?」
「そうついつい。」
「……まあ、姫君もそのつもりで引き取られていたと思いますしね。」
若紫本人はそんなつもり少しもなく周りの大人だけが目論んでいたんだけどね。祖母の尼君も大人になったら妾の一人にでもって言ってたし。
「それがね、姫君は本当に純粋な人で……」
そうなのだ。若紫本人だけ状況を把握していなかったのである。
「あら、それでは驚かれてしまったのではなくて?」
「ああ、今ちょっと彼女は拗ねていてね。」
そうだろうそうだろう。
私は話を聞こうと身を乗り出した。
転生したら、光源氏の妹だった。 みお @m103o
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