わたしは彼女の完全なコピー(掌編)
天野橋立
わたしは彼女の完全なコピー
8日の今日は偶数の日だから、わたしのほうが彼よりも早く起きて、朝ご飯の用意をする。
わたしの
でもわたしは、彼女の記憶を引き継いでいる。だから、彼の態度がかつての彼女に対するものと、まるで違うことも知っている。
なぜだろう? わたしは彼女、彼の奥さんだった菜保子さんの完全な
「甘い香り」と彼が表現していた首筋の香りも、右頬に僅かなシミがあるのをファンデーションで消しているのも、突然上機嫌になって立体幻視機の前でちょっとダンスしてみせたりするのも。本物の菜保子さんと何も変わらない。
違うのは、素材だけ。各種の電子部品と人工皮膚、収縮性ポリマーの筋肉、胸には疑似油脂性シリコン。だけど、手触りも体温も、体重の変動幅さえ、彼女と全く同じだというのに。何がいけないのだろう。
「ああ、ありがとう。やあ、おいしそうにできたね」
遅れて起きてきた彼は、優しく言ってくれた。でも菜保子さんには、そんなこと決して言わなかったのだ。
「なんだよ、目玉焼きもちゃんと焼けないのか。トーストも、焦げすぎだ!」
パンを床に投げることもあった。なぜ、同じようにしてくれないのかと思う。もちろん、そんなことをされたら辛いけど……。でも、わたしには完全な
明るく訊ねてみたこともある。どうしてわたしのパンは投げないの? と。
でも、わたしを抱きしめて激しく泣き続ける彼は、何も答えてはくれなかった。
* * *
持てる技術の全てを注ぎ込み、彼は妻を完全に複製した。そして、自分が妻にすべきだったこと、取るべきだった態度を、毎日考え続け、
決して取り返しはつかない。罪が消えることはない。それでも、まるで自らを罰し続けるように、彼は
(了)
わたしは彼女の完全なコピー(掌編) 天野橋立 @hashidateamano
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