最終話 かすみは怒り、那実人は踊る。

優しい海風の雰囲気を失った松山くんは、哀れだった。


「許せない?」

那実人くんがわたしに聞いた。

「うん、許せない!」

「かすみちゃんの想うまま、行っても大丈夫だよ」


わたしの想うまま?

行っても大丈夫?

わたしが行って、どうするの?

わたしが松山くんを助けるの?

わたしは松山くんを助けたいの?


でも、どうやって?


わたしの脳内に色んな可能性が浮かんだ。


不可思議な少年・那実人くんは、さらに付け加えた

「諸々は、吾輩に任せて」

諸々?何を言っているのか不明だが、不可思議な少年の事、今は任せよう。

それに那実人くんが言うなら、大丈夫だろう。


意を決したわたしは、松山くんの後を追って隣のクラスに突入した。

怒りを露わにして教室に、突入してきた頑固な職人気質まるだしのわたしを、餓鬼どもは睨み付けた。


そこにちょうど担任が入ってきた。

「あなたたち何してるの!」

【あなたたち】と言ってはいるが、完全にわたし1人に向けられた言葉だった。


この教師は、餓鬼どもと松山くんの関係性を知っている。

わたしの直感はそう判断した。


「松山くんは、うちのレストランの常連!」

わたしは、何、言ってるんだろう?

当然、教室中から「何言ってるんだろう」って視線を浴びた。


しかし、わたしの想うまま!


わたしは言葉を続けた。

「松山くんは連れて行く!このクラスにはいさせられない!」

何故そんな事を言ったのかわたし自身不明だし、常識的に考えて、そんな事が出来る筈はないのだが。


その刹那。

那実人くんは工作用の小刀を抜刀し、わたしの周りで演武を始めた。

離島から来た不可思議な少年の演武は、教室の外からも注目を集めた。

その演武は、見えない何かを斬っているように思えた。


キーンコーンカーンコーン♪


休み時間の終了を告げるチャイムがなると、那実人くんはカッコよくポーズを決めた。突然始まった意味不明の演武だが、何故が拍手が起こった。


なんか不可思議な時間ではあった。


●☆*:..。o○●☆*:..。o○●☆*:..。o○●☆*:..。o○●☆*:..。o●


だからなのか?

その日の午後には、松山くんのわたしのクラスへの編入が認められた。


●☆*:..。o○●☆*:..。o○●☆*:..。o○●☆*:..。o○●☆*:..。o●


「あの時、何したの?」

わたしは渡り廊下で那実人くんに聞いた。

「吾輩が、松山くんとあのクラスの縁を斬った。縁を斬ったら同じ場所にはいられないでしょう」


縁を斬ったから、松山くんがうちのクラスに来られた?

常識的には意味不明だが、那実人くんが言うなら、そうなのだろう。


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うちのクラスに編入された松山くんは、優しい海風の雰囲気を取り戻し、女子の好感を集めた。うちのクラスの雰囲気に合ったのだろう。


いつしか、わたしだけの松山くんじゃなくなっていった(泣)


【吟遊詩人松の実チャンネル】も、更新されることがなくなり、閉鎖された。

あの痛い吟遊詩人松の実は、わたしだけの記憶の中に残ったのだ。


さよなら、わたしだけの吟遊詩人松の実。



おしまい

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女子中学生シェフ♪かすみちゃんの冒険譚 五木史人 @ituki-siso

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