最終話
あれから数年が経った。
ここで登場人物たちの話をしよう。
この物語の最初に事件を起こしたフーゴ・バーデンの生家バーデン家は、ヴィム・バーデンが継いでいた。
ヴィムは、妊娠が発覚することを恐れ、母を領地にいる父の元に送った。やってきた妻の酷い状態を見て、元侯爵は大層後悔した。フーゴをあのよう育ててしまったことが全ての元凶だったのだ、と。
元侯爵は、おかしくなってしまった妻を労り、身体を気遣い、出産後は2人で子どもを慈しんだという。この子に罪はないのだから、と。
両親が領地で穏やかに暮らせるよう、騎士団にいるもう1人の優秀な弟が恙無く過ごせるよう、ヴィムはバルシュミーデとアイブリンガーには逆らわないようにしながらも、立派にその役を務めた。生涯結婚はしなかった。
フーゴはというと……動けない状態ではあるが、未だに生きているという。
生きてはいる、生かされてはいるが、ただそれだけだった。食べ物も飲み物も与えられるし、日中は陽の当たるような小屋にいる。
しかし繋がれているし動ける体ではない。ただただ思考するしかない地獄だった。死んでしまえば楽かもしれない。しかし、唯一出来そうな、舌をかんで死ぬ、ということすら、する勇気がなかった。
「こんなのの面倒見なきゃいけないなんてツイてねえな。」
「ころ……せ。……ころして、くれ。」
「やだよ。あんたが生きてる限りは金が貰えるんだ。頑張って生きてくれよ?」
「た、の……む。」
その後フーゴは、数年間生きながらえたという。
フーゴの浮気相手だった子爵家のウーラは、醜聞が広がり嫁入り先も見つからないため修道院へ送られることとなった。
娘がかわいい子爵家当主は、たくさんの準備品を馬車に載せて送り出した。しかしそれが仇になったのか、盗賊に襲われ、金品は略奪されてしまった。そして数人の侍女と娘のウーラは連れ去られたのか、消息不明の状態である。
「ウーラ……どこかで生きていてくれ……っ!」
娘を愛していた父は、今も涙にくれる日々を送っているという。
バルシュミーデ家の次男マルクとフェーベ家の令嬢は結婚した。次期公爵の結婚とあって、国中に祝福された。令嬢の希望通り、絢爛豪華な式だった。
マルクは父について仕事を学び、あと数年したら爵位を継承する予定だ。妻とは上手くやっているらしい。
「あまり早く帰れなくてすまない。」
「別にいいんですのよ。お忙しいんでしょ。」
「王宮に、商会が持ち込んだ珍しいイヤリングがあるんだ。真珠というらしい。」
「ま、まあ! なんて美しい虹色なのでしょう! すてきですわぁ~……。ありがとうございます、マルク様っ」
三男オーラフも、婚約者のマリサちゃんとは仲良くやっていて、マルクが爵位を継いだら結婚する予定だ。
フェーベ家の当主はさらに丸々と太ってきたらしい。
「いい加減なんとかしたほうがいいのではないか?」
「そうか? では、久々に付き合ってくれ。」
「ああ。やるか。」
そして、アイブリンガー家は――
「ままー」
「はいはい、どうしたのかしら? ルートヴィヒ。」
「ぼくね、大きくなったらままと結婚するんだ!」
「あら、そうなの?」
「いちばんすきな人と、結婚するんでしょ?」
「そうね。そうなれれば幸せね。」
「ままはしあわせ?」
「ローザにはどう見えるかしら?」
「ふふふ。とってもしあわせそうよ?」
「そうね、ふふっ。ままは幸せよ。」
「ローザはね、ザビと結婚するの!」
「なっ……!」
「あら、ルトガー様。いらしたのですね。」
「ローザ……パパは? パパのことは、好きじゃないのか?」
「すきだよーパパ。」
「そ、そうか。」
「でも結婚するならザビなの!」
「な、何でだ?」
「ザビはヒーローだから!」
「ふふっ。そうね。」
「なっ……! そ……、ヒーロー…………」
娘のヒーローの座も奪われたルトガーだった。
「シュテファニ、私は今以上に努力する。必ず、誰が見てもヒーローだという空気をまとってみせる。見ててくれ。」
「ルトガー様は、私の……私だけのヒーローではお嫌ですか?」
「そっ、シュテファニ……?」
「私のヒーローはルトガー様です。ローザには、あなた以外のヒーローを見つけてもらわないと困ります。」
「そう、か……。」
「ええ。」
「あなたのヒーローになれているのなら、それでいい。」
「ふふっ。ヒーローというより、ダークヒーローかしら?」
「ダークヒーロー……。」
「ええ。闇に紛れて活躍する……って、このような話、前もしたかしら。」
「そう、だな。」
いつの間にか、シュテファニのいちばん身近にいて、いちばん大事な人はルトガーになっていた。
~完~
おしあわせに。
【完結】出ていってください。ここは私の家です。〜浮気されたので婚約破棄してお婿さん探します!〜 井上佳 @Inoueyouk
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