第三話 巫女姫は帰還して婚約破棄される

 異世界転移すると一瞬意識を失う。

 今回も視界が暗転した。

 意識を取り戻すと石造りの部屋の中にいた。

 ルーテシア王国の王城の召喚の間だということがすぐに分かった。

 私が魔法陣から出現すると、部屋の中にいた神官が何故か驚いた様子を見せた。


 一年後に戻ってくるのは分かっていた筈なのになぜ驚くんだろう?

 私は不思議に思いながら国王陛下に帰還の報告をするために歩き出した。


 召喚の間にいた神官が連絡してくれたらしく、私は王城の客間で待つように言われた。

 一週間後に帰還祝いのパーティーを開いてくれるらしい。

 気になるのは案内してくれた神官も城の侍女たちもどこか余所余所しく、何か隠し事をしているような雰囲気であることだった。

 客間のソファーに座って気分を落ち着けるカモミールティーを入れて飲んだ。

 しばらくすると、私の世話を昔からしてくれていた専属侍女のアンナが部屋にやってきた。


「ヴィヴィアン様がご無事に帰還されてよかったですわ」

「アンナ、私がいない間に何か変わったことはなかった?」

「それなんですけど……。聖女様が元の世界に戻っていないんです……」

「え……?」

 どういうことだろう。

 私がルーテシア神聖王国に帰還すれば、入れ替わりで聖女様は元の世界に戻るのではなかったのか。

「その事も含めて、帰還祝いパーティーでお話があると思いますわ」


 一週間を王城の客間で過ごして、帰還祝いパーティーの日になった。

 パーティー会場に入ると主だった貴族たちが集まっていた。

 私の元へ挨拶に来るが、やはり余所余所しい感じがした。

 その原因はしばらくして、ヘインケル王太子が入場してくると分かった。

 彼は聖女をエスコートして現れた。

 聖女とは随分と親密な関係に見えた。


「今日は、巫女姫ヴィヴィアンの帰還祝いパーティーに集まってくれてご苦労。せっかくだが、ここで重大な発表がある!」

 ヘインケル王太子は厳しい表情で貴族たちを見回した。

「俺は巫女姫ヴィヴィアンとの婚約を破棄して、聖女アリサと婚約する!」

 私は顔面蒼白になって言い募った。

「ど、どうしてです?」


「俺は女神のギフトで乙女の純血を見抜く力がある。ヴィヴィアンお前は異世界で不貞を働いていたな! 純血を失った巫女姫など王家に対する忠誠を失ったと同義だ!」

 ヘインケル王太子の言葉を聞いて、私は膝から力が抜けて崩れ落ちた。

(終わったわ……。異世界でのことは誰にも言わなければ知られないと思っていたけど、甘かった……)


 私は何も言い返すことが出来なかった。

 ここで誤魔化してもヘインケル王太子と結婚すればすぐにバレる。

 私の身体は日本という国で男性経験を積んで開発されてしまっているのだ。

 閨での振る舞いで乙女の純血を失っていることは隠し通せない。


「何も言い返せないようだな。王太子妃となり将来の国母となるのは、清純な乙女である聖女アリサが相応しい」

 聖女アリサはヘインケル王太子にしがみついて、私に憐れむような目を向けている。


「ヴィヴィアン、お前のようなふしだらな女は、巫女姫の身分を剥奪して娼館に追放することにしよう!」

 彼が宣告すると集まった貴族たちはざわめいて、私に憐れみの目を向けたり、侮蔑の視線を向けたりした。


 私は力が抜けて座り込んだままだった。

(娼館送りなんて……私は死ぬまで男性に性的に奉仕しなければならないの……)


「遅れてすみません!」

 パーティー会場の扉が勢いよく開いて颯爽と貴公子が入場してきた。

 銀髪で青い瞳をしているイケメンだった。

 若い貴族令嬢たちが色めき立つ。

 爽やかな色気を放つ貴公子だった。


「貴方は隣国のアスタルク王国の第二王子、カイン様……」

 カイン王子は私の前で跪くと、後ろに隠し持っていた真っ赤なバラの花束を差し出した。

「……」

「ヴィヴィアン様、私と結婚してください」

「えっ……?」

 私は目を丸くした。

 急にそんな……。


「私は昔から貴女が好きだった。でも、ヘインケル王太子の婚約者だから諦めていたのです。それが婚約破棄されたのだからもう我慢できません!」

 カイン王子は私の背中と膝の裏に手を入れて、お姫様抱っこした。

「嫌だとは言わせませんよ。このままさらって行きます!」


 その言葉通り、私は王城から出てアスタルク王国の馬車に乗せられていた。

 馬車の中でカイン王子は私の隣りに座ってキスしてきた。


……そんな、私もう男性を拒むなんて出来ないのに……。

 たっぷりと口付けられて甘い吐息を吐いた。

 箱入り娘として育てられた私は、こういう風に強引に押し切られると抵抗できないのだった。


 そして、アスタルク王国の王城に連れて行かれた私は、一ヶ月後にはスピード結婚していた。

 夫のカイン第二王子はモンタナト公爵の爵位と領地を授かった。

 私はあれよあれよという間にモンタナト公爵夫人となったのだ。

 王都の公爵邸で暮らすことになった。


 結婚してから三週間後に聖女アリサから手紙が届いた。


『ご結婚おめでとうございます。

 私もしばらくしたらヘインケル王太子と結婚する予定です。


 私は異世界の日本という国から召喚されてきたのです。

 日本では女子高校生で援助交際をしていました。


 援助交際というのは年上の男性と性的交際をしてお金をもらうものです。

 そんな私でも、ルーテシア神聖王国では聖女として崇めてくれるのですから。

ヴィヴィアン様が日本で貞操を失ったからと言って誰も咎めることは出来ません。

 どうかお幸せになってください』


 聖女アリサ様っていい人だったのね。

 私に気遣いしてくれてるんだわ。


 それから半年が過ぎてから事件が起きた。

 モンタナト公爵邸の玄関にボロい服を着た若い男が引き立てられてきた。

 邸宅の敷地に勝手に侵入しようとしたらしい。

 モンタナと公爵夫人である私と面識があるというので、カインと一緒に会ってみることにした。


 男の顔を見て驚いた。

「まさか、タケシ様……!」

 ボロを着た男は日本で一緒に暮らしていたタケシ様だった。


「久しぶりだな、ヴィヴィアン。本当に公爵夫人になっていたのか……」

 私は両手で口を覆った。

「どうしてタケシ様がアスタルク王国へ?」

「ヴィヴィアンが消えてから探し回っていたら、一ヶ月後くらいに魔法陣が開いてこの世界に転移していたんだ。」

「そんなことって……」

「誰も助けてくれる人がいなかったから、盗みをして生き延びていたんだ……。そしたら、アスタルク王国の公爵夫人の名前がヴィヴィアンだという噂を聞いて……」


「カイン様、この方は私の恩人です。お金を渡して開放してあげてください」

 私は執事に命じて金貨の入った袋を持ってこさせてタケシ様に渡した。

「今度は私がタケシ様を助けてあげます。いつでも頼ってきてください」


 彼は泣きそうな顔をして金貨の袋を受け取った。

「ヴィヴィアンと夫婦みたいに一緒に暮らしていたときは夢のようだった。もうあの頃には戻れないんだな……」

 私はハッとしてカイン様の方を見た。

 タケシ様と同棲していたことを知られたら……。


カイン様は重く口を開いた。

「私には他人の記憶を覗くギフトがある。ヴィヴィアンが異世界の日本という国でどうやって生活していたのかもすべて視えて知っていた」

 私は息を呑んだ。

 全てカイン様に知られていた。

 ソープランドで働いていたことも……。


「それでも、ヴィヴィアンを幸せにするつもりで結婚したんだ」

 カイン様は私の肩を抱き寄せた。

 私は胸の中に温かいものがこみ上げて来るのを感じた。


 タケシ様は微かに笑うと、金貨の入った袋を持って立ち去っていった。


 私とカイン様は貴族には珍しく仲の良い夫婦になった。

 子宝にも恵まれて七人も子供を作ることになった。


 房事にも積極的で彼は私の身体に溺れているようだった。

 ソープランドで覚えた技術で奉仕してあげるとカイン様はとても喜んでくれた。

 私も愛する人を喜ばせて幸せな気分になった。

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生贄の巫女姫は異世界転移して風俗で働かされてしまいました 華咲 美月 @tomomikahara24

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