19話・トレイトルム公爵
約束の時間になり、トレイトルム城に着くと僕らの外見なども既に行き届いているのか、特に確認などをされることも無く、応接室まで案内された。
そこで少しの間待っていると、公爵と公爵夫人と思われる人物が部屋にやってくる。
「お二人がフストリムワーネの勇者だね、他国貴族である我々に挨拶ご苦労」
「いえ、こちらこそ、急な来訪で申し訳ないです」
あちらが頭を下げたので、こちらも急いで頭を下げる。
貴族の中でも位がかなりある公爵、しかも他国の貴族に頭を下げさせてこちらは下げないのではかなり外聞が悪くなる。
「なに、勇者の役目は分かっています。何せ、我が家からも勇者が出ていますから。状況に合わせて動かなければいけない以上大雑把にルートは決められても、正確なルートは決められませんから」
なるほど、そういうことか……縁者だとは思ってはいたが、まさか家から出ているとはな。
「そうでしたか、もしかしたら、僕らとの面会の約束をこれほど早く取りつけてくださったのも?」
「ええ、興味がありまして、どうやら術士と剣士の組み合わせだそうで、その辺りもわが家から出た二人と似ているように感じましてね」
「二人? もしや、この街の勇者は……」
「私たちの娘と、我が家に使えてくれている騎士です」
「なるほど……道理でこのあたりでは勇者の話題をよく聞くと思いました。フストリムワーネと違い唯一でないというのに、非常によく聞きましたから。どうやら非常に腕が立つと聞きまして、何か参考になる話が聞ければという思いもあって、この街に寄らせていただきました」
「そうですか光栄です」
全員が再び座り、出された紅茶に口をつける。
「そう言えば、そちらの二人は紋章持ちだとか」
「それがきっかけではありますが、二人とも戦闘の技術をつけ初めまして、二人で魔王を倒すと言って、旅に出てしまいました」
「では、お二人は反対だったのですか?」
「自分の娘と、友人の息子ですから……でも、どちらにせよ止めることは出来なかったのだと思います。で、あるならば……」
「なるべく旅立つのに良い環境を作ってあげたかったと……」
それで二人の紋章持ち勇者の話が、広まっていたというわけか。
セラを見ていれば分かるが、紋章持ちということで実際かなりの実力はあるだろうし、後は話さえ広まっていれば旅において色々と融通が利く。
「まぁ、そうなります、二人とも紋章持ちということもあったのでしょうが、ありがたいことにすぐに多くの人が勇者として受け入れてくれました」
「確かに、通常勇者がチームアップするとしても、紋章持ちは一人居るかどうですからね、実際僕も紋章は持っていませんからね」
どっちかというと、チームを組むのは紋章持ちでない者が多い。チーム単位で何かを成し遂げた者たちが、チーム単位で勇者認定される場合が多いはずだ。あとは、僕らの様に、比較的に経験の少ない紋章持ちにお供として何人か付けられるパターンがあるくらいで、あまり紋章持ち同士で固定のチームを組むことは少ない。
もちろん、その場限りで勇者同士が組んだりすることはあるだろうが、行動を共にするのはかなり珍しいことだろう。
なにせ、紋章持ち自体が珍しいからな……そんな紋章持ちが複数人集まること自体最前線でもない限りあまりないことだろうから、自然と注目を集めることになるだろう。
「そちらが、紋章持ちのセラフィーナさんですね」
公爵の視線がセラに向かうと、コクリと頷いた。いつも通りのダンマリ落ち着きモードだ。
少々お転婆感はあるが、見た目がどこぞのお姫様みたい整っているのもあり、確かにこうしているとなんというか、実際に達人感がでるというかなんというか。格の高さが感じられる。
素の彼女は親しみやすい一方で、格だとか圧だとか、そんなものは全然そんなものは感じられないので、どっちもどっちってところだ。出来れば中間が欲しい所でもあるが、その辺りは僕の役目ということだろう。
「一応は……フストリムワーネ国初の公認勇者となりますね。紋章持ち自体はいるのですが、国の性質上あまりあまり国外に戦士として出ることがありませんからね、結果的に発になったというのが正しい気もしますが」
「確かにそちらの国の基本方針としては後方支援と研究が主でしょうし、前に出て戦うなどその辺りは我が国の領分ですからな、ある種の役割分担を込みでの同盟ですからあまり気にしなくとも……」
「そうですよ、実際学術機関などは高いレベルであることや立地上の安全性も相まって学ぶにはかなり適しておりますからな、それに武器や魔法の開発などや薬や装備などの提供も大分助けられていますから」
「そう言っていただけるとありがたいです」
そんな感じで当たり障りのないような会話を挟めながらも、彼らの御子息を含むこの国の勇者について全体に聞いてみたが、おおむねはこちらの認識通りという形だ。
やはりこの国では紋章持ちの勇者は普遍的ではないにせよ希少ではないというくらいには人数がいるらしい。強さについては実際には何とも言えないところだが、末端レベルでも奥の手込みの僕くらいは強いだろう。
少し嬉しい情報としては、大雑把な物とはいえこの国での勇者の進行ルートがある程度もらえた事だ。これは今後僕らが旅をするにあたって非常に参考になる。
一応、僕が師匠と話しつつ決めたルートをベースに、セラの事も鑑みてとりあえずで決めたルートがあるとはいえ、勇者を多く出しているこの国の者から得られる情報だ、ありがたく方針決めに役立たせてもらおう。
この国の勇者は沢山いるが、勇者ならずとも優秀な戦士も沢山いる。基本的に勇者は戦士を複数人連れて魔族領に向けて進行することになるのだが、勇者を含むチームメンバーの中で紋章持ちがいるか否かで大まかにルートが分かれているようだ。
全員がそうではないが、紋章持ちがいるチームは基本的に正面を突っ切る形では無く、横道に逸れる形の進行ルートを通り、そうでないチームの大半が正面衝突をする形で魔族と戦闘を行う形で進行することになっているらしい。
基本的には正面は相手も数が多いためこちらも数をそろえるひつようがあるというのと同時に、そうでない場所にも魔族は確実にいるのでその辺は少数でも力のある紋章持ちに対応させつつ、魔王にいる場所に向けて精鋭を送るために複数方面から攻めるという形を取っているらしい。
最初の方にも言っていたが、戦況やチームの状態なども鑑みてルートを変更することになる以上後半に行くにつれ当初の予定から大きくぶれていくことになると予測されてる都合、どうしても大雑把にはなってしまうらしいが、それでもどちらの方面に行くかなどは決めているらしい。
そう言った情報を聞いてから、こちらもフストリムワーネ国内に魔族が入っていた事や工作を行っていたことなどを情報共有した。
魔族に対しての対応はやはりフストリムワーネより慣れているのか、僕たちの話を聞いてから、すぐに行動を始めた彼らは、ある程度方針を固めて上の方にも報告をするらしい。
特に食いつかれたのが、ウットテリム領での話で、魔族によるこのような大規模な乗っ取りはあまり聞いた事がないらしい。
後日同盟国間での情報共有はあるかもしれないが、僕たちの対応した魔族の情報はまだ届いていなかったのだろう。その中でもウットテリム領主の入れ替わりや、大規模な洗脳など随分と危険視されるような内容なのですぐにその対応を決めなければいけないらしい、詳しい話をある程度僕たちから聞きだした後、すぐに面会はお開きとなった。
フストリムワーネよりも魔族の対応に慣れているシャフノッツェトールでもこの反応と考えると、やはりウットテリムでの出来事は異常なことなのかもしれない。
下手したら、この戦争における人間と魔族とのバランスが崩れてしまう予兆のようにも思えて、悪寒にも近い何かが自分の中を通っていった気がした。
勇者セラフィーナの道程 塩鮭亀肉 @SiozakeKameniku
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