18話・ランチと解体作業、時々日記

 もっと時間がかかるものと思っていたが、面会の約束はあっさりと取り付けられた。そこまで長い時間は取れなかったとはいえ、まさか翌日の午後には予定を取り付けられるとは思っていなかった。

 門番の様子を見た感じだと、どうやらこちらが勇者であることが大きいようだが、なんというか、言葉の端をとらえたところ、あれはあの家の縁者がこの街の勇者といったところだろうか。

 ちなみにセラが戻ってきたのは僕が話を聞きに行って戻ってきて更に3体ほど小さめのモンスターを解体した後だった。


「そろそろ時間だと思うんだけど、いつになるか聞きに行くー?」

「もうそれは聞いてきた後だよ、さっき僕一人でいってきた」

「じゃあ、ごはんにしよー」

「いや、なんかもう食べてるじゃん」


 出ていく前も食べていたのに、今も具材の挟まったパンを食べている。あと腕に抱えた紙袋の中も多分食べ物だ。


「これは、別だからね。あ、そうそう、丁度良い感じの店も見つけたから、ジョンもご飯にしようよ」

「まぁ、僕はお昼まだだからね、でもセラは食べ過ぎじゃない?」

「いいのいいの、ボクはいっぱい動くし、食べられるときに食べられるだけ食べておかなきゃね」

「セラ自身がそう言うならいいけど、セラに渡したお金の範囲で済ませてね」

「分かってるって」


 紙袋を食料などが入っている方のマジックバッグに突っ込むと店に向かって歩きだした。ちょっと早歩きで。

 置いて行かれるわけにもいかないので、片づけを手早く済ませて後を追うのだが、セラの向かった先はそこそこの高級店だった。

 予約がいるような店ではないが、区画的にも庶民が気軽に入るような店でもない。もちろん金持ちなら気軽に入れるだろうし、庶民でも何かの記念日に入るくらいには出来るかもしれないくらいの店だ。

 でもこの国なら、割と稼いでいる方の戦士なら簡単に入れるんだろうし、今の僕らの格好でも、うちの国よりは入りやすいとは思うが、やはり少しだけドレスコードが気になるところではある。別に断られたりするわけではないんだろうけど……

 それと、行ける範囲で高いお店をきっちり選んでくるあたりセラらしい。一緒に食事をする際は二人の個人に振り分けた金では無くて、共有の旅の資金から出すことを分かっていてやっている感がある。


 たぶんセラが沢山注文するだろうということで、個室を使わせてもらうことにした。

 そして予想通り沢山注文した。予算自体はセラのこういう行動込みで組んでるので問題はないし、命がけの旅でもあるので街にいる時くらい好きなだけ楽しめばいいと思うので、文句はないが、あまりにも食べるので少々不安になる時はある。

 セラは普通の人間ではない以上、もしかしたらなにかしら特別な身体の特徴があるのかもしれないので、あえて口にすることはないけども。


「そう言えば、いつ会えることになったのー?」

「ん? えーっと、ああ、面会のことか、気になるのがちょっと遅い気もするけど、というよりここに来るまでの間に一度言ったと思うけど、明日の午後だよ」

「思ったより早いねー」

「そうだね、無理やり時間を空けたわけではなさそうだけど、予定のために取っていた時間というわけでもなさそうだし、それだけ勇者にたいしてなにかあるのかもね」

「でも、この国はボクたちとは違って勇者がユニークな存在ってわけじゃないんでしょ? 紋章持ちに絞ればそこまで数は多くないだろうけど、それでも唯一じゃないって聞いたけど」

「まぁ、そうだけど、紋章持ち勇者で二人組でって点もあるんだと思うよ、この街の紋章持ち勇者も二人組だからね」


 もっとも、僕らは片方は紋章持ちではないんだけども、この街の勇者コンビと共通点はそれなりにある。

 男女のコンビである点や、幼馴染である点、あとは年齢も近いものだったはずだ。


「なるほどねー、ライバルだねー」

「どちらかというとライバルじゃなくて仲間だけどね。争ってるわけでもないし、向かう先は一緒だから」

「でも、後のこと考えると功績は欲しいでしょ」

「まぁ、後の事を考えればだけど、本当に魔王討伐の後の事を考えて勇者になっている人は少ないんじゃないかな」


 ちゃんと生きて帰れる保証もない、たいていの場合は帰ることのない片道切符の旅程となる。

 勇者の全員が死前提の自殺旅をしているわけではないだろうが、それでも無事魔王討伐を果たして帰還するなどと考えている者は少数派だろう。

 そういった意味では僕らは少数派だろう。


「でも、やっぱりライバルだよ、ボクたちとキャラ被ってるし、魔王討伐したあともあるんでしょ、ボクたちは」

「それはそうだけどね……」


 ライバルといっても敵対する意思がある訳じゃないし、まぁ、いいか。それでセラにやる気が出て、大きな問題が起きないのなら悪いことがある訳でもない。


「物語にライバルは必要だからね……あっ、そうだ! ジョン、伝記書こうよ伝記、そして、魔王討伐後に売ろうよ、きっとずっと売れ続けるよ、そしたら、一生好きなことして生きていけるよ」

「伝記って……魔法とか魔法具……魔術具の開発と化するんじゃなかったのか?」

「それはそれ、これはこれ……ということで、今日から記録よろしくね、ジョン」

「しかも、僕が書くのか」

「それはね、当然だよ」

「当然なのか……」


 追加のやることなので少し面倒臭くはあるけど……でも、旅の記録を残すこと自体は悪くはないかもしれない。伝記を出すかどうかは置いておくとしても、取りあえず記録をつけ始めてみるかな。

 夜になったら、時間が経って記憶が薄れてしまう前にフストリムワーネから出る前の事を纏めるとしようか。

 そんなことを考えながら、僕が注文した料理の最後の一口を口に入れる。

 セラの前にはまだたくさん料理がある。というより、セラの前だけでは済まずテーブルを圧迫しているので、僕の前にもまだ沢山料理がある。この会話中もずっと口にものを入れていたので、全体的にもごもごして慣れていない人には聞き取りにくいような感じになっていたのだが、ここを記録する際にはちゃんとわかりやすいように書きなおしておこう。

 手持無沙汰な僕は、セラが食べ終わるまでの間、試しにこの店の中であったことの一部を書いて待つことにした。




 その後は食事を摂る前と同じで、僕は解体セラは散策に戻った。

 夜になっても解体が微妙に終わり切らなかったので、半日ほど場所の貸し出し延長の手続きを済ませ、セラと再度合流、宿を取った。部屋に付いてからセラはすぐに寝て、僕は旅の記録少しだけ着けてから寝た。

 そこまで高い宿ではないが、ベッドで寝るのはやはり野宿とは違い質の高い睡眠が出来た。

 気持ち好調な気分で迎えた次の日の朝。面会の約束を取り付けられたのは今日の午後だ。

 僕らは使命を与えられ戦う者たちなので、外国の貴族と会うからといって、そこまでかっちりとした衣装を身に纏う必要はないと思われるが、流石に綺麗にはしないといけない。定期的に魔法で洗浄しているとはいえ、改めてセラの服や装備に洗浄系の生活魔法を使う。


「綺麗になった?」

「とりあえずはね。行く前にもう一回魔法は使っておくけど、あんまり汚さないでね」

「分かってるってば、いつもも大丈夫じゃん。それより、ジョンはいいの?」

「僕はまだ解体作業が若干残ってるからね、すぐに終わると思うしやりきってしまうから、その後に使うよ」

「ん、分かった、じゃあ、また後でね」


 そう言って宿の前で分かれたセラはすぐ隣の甘味屋に入って行った。

 僕も早速、戦士ギルドに向かって歩き出した。

 残りの作業はそう多くはない。早めに終わったら昨日の続きを書き記すとしよう。


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