二章・シャフノッツェトール編

17話・トレイトルム到着

 朝日を浴びる僕とセラとマーダーベアーの死体。

 トレイトルムの西門の前で僕らは注目を集めていた。

 容量的にはマジックバッグの中に仕舞うことも出来たのだが、街までそう離れていない位置で仕留めたので、丁度良いとばかりにそのまま運んできてもらっていた。

 どうせ街に入るにはある程度手続きがいるのだが、その際に、立場と共にこちらの力をある程度示せれば多少は楽になるだろうという考えだ。

 効果はあるのは間違いないが、フストリムワーネに比べると勇者という役職がそこまで強烈に意味を持っている訳ではないし、トレイトルムではなおさらそんな感じになっているであろう……そういった考えのもと、セラに自分で倒した得物を担いでもらっている。

 セラは身長は女性として平均くらいのもので、今日倒したマーダーベアーは大きい個体である。結果として、それを担ぐセラの姿はモンスターの体と剛毛によってほとんどが隠されてしまっているのだが、今回もきっとだんまりモードで通すのであろうし、多分問題はないだろう。

 大通りに直接つながっているに西門とはいえ、朝一で開門を待つ人はそう多くは無く、他の人達が順番を譲ってくれたのもあって、門が開くとともに一番最初に対応してもらうことができた。


「お、それはマーダーベアーか……こいつはなぜか人間を集中的にねらってくるから厄介なんだよな……討伐感謝する。だが、見慣れない顔だ、流れの戦士か?」

「いえ、一応は勇者です。僕ではなく、彼女がですが」


 そういいながらセラの方へ視線を向ける。


「なるほど、そういうわけでしたか。それで、フェツェの方からですか?」

「いえ、ウットテリムから直接ここまで」

「ウットテリムと言うと……もしや、フストリムワーネの!」

「ええ、はい、フストリムワーネの勇者、セラフィーナです。僕はそのサポートをしているジョンソンといいます」


 バッグから証明書を取り出して門番に手渡す。

 他国の街に入るならこれが一番手っ取り早いだろう。


「なるほど、これは確かに……それで、お二人はまず戦士ギルドの方へ向かうのでしょうか?」

「解体もしないといけないし、そうさせてもらおうと思います」

「案内は必要ですか?」

「いえ、僕の方はこの街に来たことがあるから大丈夫です」

「わかりました、では、どうぞ街の中に」


 担いだマーダーベアーのおかげか、あるいはそういう風土なのか、なにはともあれ死体を担いだセラの代わりに、大きな斧は僕が持っていたが普通に対応してもらえてよかった。

 僕たちは門の中に入った。朝早くとはいえ、街の中には活動している人もそれなりにいて、相変わらず視線は集めたままであったが、大物を仕留めた者が大通りを通ることはそこそこあることなのか、すぐに視線をもどして各々の作業に戻っていく者が多い。

 マジックバッグを持っていない戦士も多いので、戦士ギルドは大体大通りに面した場所にある。そして、その入り口は広く取られている。


「広場は裏にある……が、ここは初めてか?」

「はい、なので、一応先に報告だけでもと」

「たしかに、そいつは報告が必要なタイプのモンスターだしな、分かった、取りあえずはそいつは裏の方に置いておけ」

「分かった、ボクが持っていくよ」

「うん、任せた」


 職員に案内されるセラを見送りつつ、マーダーベアーのいた場所などを報告していくと共に、セラが倒した他のモンスターについてや、それらの解体や一部買い取りなどについても話をしておく。

 ギルドに加入しないかとも誘われたが、セラが勇者で魔王討伐のための旅の途中である話をすれば、あっさりと引き下がってくれる。まぁ、戦士ギルド自体他の国では数えるくらいしかないし、力もあんまりない組織なので、この国に残らない者には会費に見ある見返りがない事を分かっているのだろう。


「ギルド員じゃないから、広場の一部貸し出しで、一時間これくらいかかるが構わないか?」

「問題ないです。しかし、この後少し用事があるので……そうですね、一日ほど借りたいのですが、大丈夫でしょうか?」

「分かった、立場的に挨拶の予約ってところだろ?」

「まぁ、そうですね」

「それなら、取りあえず2時間分くらいはただにしておいておくぜ」

「それはありがとうございます」


 手続きは終ったので、僕も広場に向かおうと、ペンや広げた地図をポーチに戻していると、職員が何か思い出したかのように口を開いた。


「そういや、フストリムワーネがわざわざ勇者として国外に出すって事は紋章持ちなのか? あの嬢ちゃんは」

「ええ、そうですが、なにか?」

「そうか、なら、割と早く領主さまに面会も出来るかもな」


 それは、紋章持ちの国指定の勇者の出身地だからということだろうか。それ目的で来てる部分もあるし、あちらの動きを知りたいという目的もある。

 親近感を覚えて色々教えてもらえると非常に助かるところだ。


「そうだと助かりますね」


 正直な感想を口にして、セラの元へ向かう。

 一人でいるのと、周りから話しかけられているので、流石にだんまりではなかったが、口数は少なく見た目のテンションは低めの状態でいた。


「セラ、手続きは済ませたからとりあえず、面会の予約に行くよ」

「分かった」


 セラと話していた職員に場所の貸し出しのことを伝えて、マーダーベアの死体と大きめの荷物を置いてからギルドの建物から外に出た。



「ごめん、大分待たせたね」

「いいよ、別に。細かいのはボクがやるよりジョンがやった方が良いし」

「多少は気にしないといけないとは思うけど、ここなら、少しくらいは態度を楽にしていいと思うんだけど、その方針で行くの?」

「んー……まぁ、面倒臭いし、こっちの方が楽だからね……立場明かさなくていい所でならいつも通りでいるよ」

「セラがそれでいいならいいけど」


 他国なのもあるが、シャフノッツェトールの雰囲気なら少しは自由な態度でいてもいいと思ったのだが、セラ的にはあまり変わらない面倒臭さがあるのかもしれない。

 街の中央にあるトレイトルム城も当然大通りを通っていくことができる。正面は反対側なので、少し回らないといけないが、帰りは逆回りで戻ってくれば、城周りの大通りにどんな店があるかは確認できるし、解体を済ませた後にどこへ向かうかもある程度は決めておけるだろう。


「他の街に比べると、武器とか防具とか、後は魔法具屋さんなんかも多いかな?」

「そうだね、大通りの部分しか見てないから店舗数の比率が同化までは分からないけど、取りあえず見えてる範囲ではそうかもね」


 師匠に連れられて来た時とそれほど店は大きく変わっていないように感じる。

 物価は……まぁ、上がっているだろうが、今の戦況的には仕方がないだろう。


「シャフノッツェトールの店の並びはこんな感じなの?」

「いや、こういう風に大通りに面したところに主に戦士職の人が利用する店が多く有るのは、トレイトルムの特徴……だったはず。もしかしたらここだけじゃないかもしれないけど、僕が言ったことのある他の街も全部こうだった記憶はないから」


 とはいえ、今どうなっているかまでは分からないが、10年も経っていないのだから、そこまで大きく変わってはいないはずだ。


「そうなんだー、それにしても、街の大きさのわりにここのお城はそこまで巨大ってわけじゃないんだね」

「ああ、それに関しては、ここは昔はそこまで大きな領地では無かったからだと思う。先代と近代の領主様がここまで発展させたんだ。師匠の話だと、その時の街の変わりようは凄かったらしいよ」

「へー」


 街が大きくなったのに合わせて防壁を作るのを手伝わされたとか言っていたのは覚えている。東側の一面は全部師匠が作ったんだっけな。

 明らかに一人にやらせる仕事量ではないと愚痴を言っていたのを思い出した。


「あそこのお店美味しそうだね、後でどう?」

「まぁ、後でね」

「あ、でも、あそこも良さそう、どっちに先に行く?」

「両方行くのは決まりなんだね」


 そんな風にセラと会話しながら街を歩いて行き、トレイトルム城の正面まで移動する。

 門番や衛兵は街の大きさに釣りあった人数が立っていた。


「すいません、面会のお約束についてお伺いをたてたいのですが」

「何者だ?」


 門番をしている男が強い口調で尋ねてくる。

 武器こそまだ突きつけられていないが、姿勢からしていつでも戦えるようにしてるのが窺える。

 いきなり、見知らぬ者が来たのだ、それも護衛もないあたり貴族ではないとうかがえる者だ。失礼のない範囲で威圧感を出すのも仕事の内だ。そう思うと、セラの斧は置いて来させて正解だった気がする。あれを持って来ていたらもっと当たりが強かったかもしれない。


「こういうもので、フストリムワーネの者ですが、必要であれば、挨拶をさせていただきたいのですが」


 敵認定されても困るので、さっさとポーチから証明書を取り出して、門番の男性に受け渡す。


「拝見します」


 こちらがちゃんとしたものであると分かると、態度を改めるあたりは、流石といった所だろうか。

 証明書に軽く目を通した後、周りと目を合わせてから頷き合っていた。


「セラフィーナ様と、ジョンソン様ですね。確認を取ってきます、午後にまたお越しいただければと思います」

「はい、分かりました」


 まだ朝も早いし、時間もかかるのだろう。それに僕らはあくまで国外から来た人物でしかないし、そこまで緊急性のある案件でもない。ゆっくり待つとしよう。

 僕とセラは城をあとにして、逆回りで戦士ギルドまで戻ったのだが、ギルドに着いたセラの腕には沢山の食べ物があった。


「美味しいけど、そこまで変わらないね」


 口をもごもごしながらそんなことを言うセラ。食べているのは串焼きで、大体どの町でも良く見る屋台の食べ物だ。

 ここはギルドの所有地のうち、広場と言われる所で、屋根自体はあるが壁の無い吹きさらしになっている。

 端に近い所は雨など当たるし、僕もそうだが解体で使われることもあるので、床の掃除も定期的にされるそうで、ギルドの屋内とは別に飲食可となっているので、セラはパクパクと食べているのであるが。

 これから解体しようとしている場所で食べる必要はないと思う。

 僕だってそれが必要とされる場面ではどこでも食事は出来るが、とはいえ、好き好んで血なまぐさくなるであろう場所で食べようとは思わない。


「セラ、僕はこれからモンスターの解体をするから、問題にならない範囲で観光してきてもいいよ」

「んー、でもその後予定あるんでしょ」

「あるといえばあるけど、急ぎのものはないし、必須性のあるものもいつ面会が出来るか聞きに行くくらいだけど、それくらいなら一人でもいけるからあまり気にしなくてもいいよ」

「一応は、なるべく一緒に動いたほうがいいって思うけど、うーん……ジョンはどれくらいで解体終わる?」

「丸一日かかる訳じゃないけど、すぐに終わるものでもないよ、でもお昼ごろには終わっていなくても一旦手を止めるつもりではあるから、その辺りまではここにいると思う。なるべくならそれまでには終わらせたいと思うけど」

「そっか、じゃあ、それまで街の方見て回ってるね」

「ああ、うん」


 それにしても随分と沢山倒したものだ。

 旅の資金繰りは大分楽になるので助かるところだが、解体などに時間や場所がかかるのが面倒なところだ。かといって、解体ごと任せて丸ごと売った場合と、こちらで分けてから売った場合では入ってくる金額が違う。部分的に欲しい素材とかあった場合だと更に金額が変わってくる。

 大体は大丈夫だとはいえ、たまに解体の腕が僕より下の人に当たった時は、駄目になるということはないとはいえ、若干素材に質が落ちたりすることもある。

 なにより、解体も魔法具制作においては大事なことだと師匠から教わっている。腕が鈍らないようにするには定期的にするのが一番だ。

 単品でそこまで時間がかかる得物はいないが、一応は時間を気にして小物あたりから取り掛かるとしよう。

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